第26話 side紬少しずつ距離を詰めて……

「カ、カズマ……。さ、さっきは本当にありがと」

「電車のことはお互いに気にしないことにしないか? 俺も強引なとこがあったし……」

「わ、わたしもごめんっ! あ、あんなにいっぱいカズマに触っちゃって……」


 あれから何事もなく目的駅に着いた和馬とわたしは、遊園地に向かって歩みを進めていた。

 そこでの話は全て電車の中で起こったことについてでした……。


「そ、そういや紬。……俺の胸元にずっといたが、あれはなんなんだ? 紬の後ろには誰もいなかったし、押されてたわけじゃないんだろ?」

「やっ、そ、それは……。か、身体が安定しなくって……」


(……ほ、本当にごめんね、カズマ。わたしのわがままで……)

 あの時、カズマに身体を支えられて身体は、手すりに捕まってた以上に安定していました。

 ただ、わたしはもっと好きな人に近付いていたかった。触れていたかった……。

 その思いがわたしに嘘を付かせたのです……。


「おいおい、そんなことは遠慮せずに言ってくれよ。何度も言うが、お前には怪我をさせなれないし、もっと強い力で、、、、、、、俺のほうに引き寄せることも出来たんだから」

「っ……!?」


「なんでそんなに驚いてんだよ……。これでも筋肉は付いてる方なんだが」

「う、うん……っ。カズマの背中、大きくて硬くて……。む、胸元も大きくて硬くて……じゃなくって!」

「……?」


(あ、危ない……危ないです……。ぎりぎりのところで誤魔化すことができました……)

 カズマにいっぱい触れたかったなんて言うわけにはいかないのです……。

 わたしがえっちな子だって思われるから……。変態な子だって……。


「つ、強く引き寄せられたなら……最初からしてよね」

「痛くないように加減してたんだよ。だから言ってくれれば……って言ってんだ」


「ご、ごごご誤解のないように言うけどっ! わ、わたしはもっと身体が安定出来るようにこう言ってるだけだからねっ! カ、カズマにもっと強く抱き寄せて欲しかったとか、カズマの体温を感じたかったからとか、落ち着くからとか、そんなことは全然考えてないんだからっ!」


 必死の抵抗を見せるわたしは返って怪しまれる発言をしてしまった……そう悟ってしまいます。

 少女漫画で見たことのあるツンデレ……。い、今のセリフはツンデレに合致するものでもありました……。


「そんなに必死にならなくてもいいだろ。普通に考えて『もっと強く抱き寄せて欲しい』だなんて言う紬の姿は思い浮かばないし」

「え……」

 カズマはそのツンデレのようなセリフに気付くことはありませんでした……。

 いえ、この発言が本心だからこそ、気づかなかったのかもしれません……。


「それに、お前が甘えてる姿も誰かにアピールしてる姿も全く想像出来ん」

「わ、わたしってそんなに男の人に興味がないように見える……?」

「決してそんなわけじゃないんだが……想像が付かないんだよな。言葉じゃ説明出来ないけど」


(それは悔しい……っ。だ、だからわたしの気持ちに気付いてくれないんじゃ……)

 想像が出来ないなら、甘えていても、甘えているなんて感じてくれない。必至にアピールしても、アピールだと感じてくれないのですから。


 わたしの幼馴染なのに……いくらなんでも鈍感すぎるよね……ッ!

 ーー瞬間、わたしの闘志に火が宿りました。


「それじゃあ、カズマが想像出来るようにする……」

「ど、どう言う意味だそれ?」

「き、今日の遊園地……。わたし……、カズマとデートするつもりで行くから……」

「はぁ? 何言ってんだよ……」

「カ、カズマはわたしのそんな姿を想像出来ないんでしょ……? だ、だからこうするの……」


 わたしはこの遊園地でカズマとデートをしに来たのだ。いっぱい甘えて、いっぱい話して……わたしの気持ちに気付いてもらう。

 もう、わたしはカズマの気持ちは知っている……。だからこそ、こんなにも強気で出られるのです……。


「お、お前の好きな人はどうなるんだよ」

「これをしても、わたしの好きな人にはなんの影響も与えないから。絶対……」

「本当だろうな……? にわかに信じられないんだが……」

「わたしを信じてよ」


「……わ、分かった。それなら俺も紬とデートしてるつもりで行く。こうじゃないと平等じゃないし」

(や、やったっ!)

 心の中でガッツポーズを作るわたしは、そそくさとカズマに近寄ります……。

 カズマもデートをしてるつもりで行くならば、わたしはなにも遠慮することはありません……。


「じゃあ、つ、繋いで良いんだよね……おてて」

「な、なんでここで手を繋ぐんだよ……。遊園地はまだ先だろ」

「やだ……」

「……ッ!?」


 わたしは緊張を押し殺して、カズマの人差し指を五本の指で握りました……。

 その手には確かな暖かさが……太くて男らしいカズマの人差し指がわたしの手の中にあります……。

(や、やばいよ……っ。ドキドキしてきたよ……)


「その繋ぎ方をされるぐらいなら、普通に繋いで欲しい」

「そ、そうやって言って、この手を離した瞬間に自分のポケットに手を入れるつもりでしょ……」


 ポケットに手を入れられたらわたしはカズマと手を繋げなくなる……。

(う、腕に抱きつくなんてハードルが高くて出来ないから……)

 今のわたしにとって、このカズマの手がポケットに入れられたら、おしまいなのです。


「ポケットになんか入れるかって」

「じゃあ、信じるよ……?」

「ああ」

「は、離すよ……?」

「ああ」

 カズマの言葉を信じ、わたしはゆっくりと手を離す……。そのカズマの手は引っ込むことなく、『パー』の形になった。

 わたしの手を待ってるのです……。


「ほら。早く、手」

「う、うんっ……」

 わたしはカズマの手に自分の手を重ねます……。

 さっきまでと違い……カズマの大きな手がわたしの手を包みこまれる……。


(や、やばいなぁ……これ……)

 思った以上の破壊力に、わたしはニヤニヤを隠すので精一杯でした……。


「手、離すなよ? ……デートなんだから」

「カズマこそ……」

 そのまま遊園地に向かう途中に向けられる嫉妬の眼差しは……わたしにとって、とても嬉しいものでした。

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