第23話 遊園地
「お、おはよ……カ、カズ……マ」
「おはよう……ってどうしてそんなに顔赤くしてんだ?」
「い、いいいいやっ!? そ、そんなことないよっ!?」
「そんなことあるから言ってるんだが……」
いつも通りの登校。和馬の自宅に来る紬だが、その様子は誰がどう見てもおかしいもの。
その原因は明らかで……昨日の光景を紬が見てしまったから。当然、そんなことに和馬が気付くわけもない。
「あっ、そ、それより……き、昨日の、お財布……見つかった?」
違和感を感じさせるほど下手な話題変換だったが、あえて乗っておくことにする。
「……昨日は置いてけぼりにして悪かったな。ユウが財布を取られないように持っててくれたよ」
「ふ、ふぅん……。そうなんだ……」
話題を作っておいて、紬はそのことを知っている。こんな曖昧な返事になるのは仕方がなかった。
「なんか……ほんとに変だぞ? 紬」
「だ、だからそんなことないっ!」
「それじゃあ気にしないことにするが……買い物って、どこに行くか決まってんのか? 場所だけでも教えてくれると助かるんだが」
紬からの提案とはいえ、場所の把握が出来ていなければ気まずい空間が生まれる恐れもある。暇にさせてしまう恐れもある。
そんなことを好きな相手にさせるわけにはいかないのだ。
「遊園地……」
「え?」
「ゆ、遊園地に……」
「はぁ!?」
和馬がそう驚くのも無理はない。『買い物に付き合って』と言われ、その場所を聞けば考えにもなかった『遊園地』なのだから。
「え、えっと……買いたい物って私服とかじゃないのか? てっきり俺はそんなもんだと思ってたんだが……」
「……ゆ、遊園地のストラップとか、ぬいぐるみとか……」
紬にはちゃんとした勝算があって……なおかつ勇気を出した結果なのだ。
あの光景を見たからこそ、和馬の気持ちを知り……ショッピングモールから遊園地に場所を変えたのだ。
「ゆ、遊園地って……お前の好きな人と一緒に行けばいいだろ。勘違いされたら本当に終わりだぞ? ……二人で遊園地とか、完全にアレだし……」
「大丈夫だよ……。わたしの好きな人には
「う、嘘だろ……。お前の好きな人はそんなに鈍感なのか……。どんなバケモンだよ」
「違うよぅ……!」
紬の好きな人が自分だと思いもしない和馬だがらこそ、こんなことが言えるのだ。ボケているわけでもなんでもない、純粋な答えなのだ。
「そうなのか……?」
「もっと別な理由だよ……」
「その理由を知りたいんだが」
「教えるわけないじゃん……(カズマがわたしの好きな人だなんて……)」
こればっかりは勇気を持つことが出来ない紬……。そう、紬にとって和馬を追いかけることが自分に出来る最大のことなのだ。
「教えてくれないならいいや、あんまり聞いて欲しそうでもないしな……」
聞いて欲しいこと。聞いて欲しくないこと。その表情を見ればなんとなくは分かるものである。
「でも遊園地か……。何年振りだろうな」
「一回だけ、一緒に行ったよね。小学生の頃」
「紬の心臓の病気が治って少ししてから……だっけ?」
「うんっ……」
和馬と紬は幼馴染。心臓の手術が成功し、そのお祝いとして紬家と和馬家で遊園地に行ったのだ。
「でも、今思えばわたしが心臓の手術をしたなんて考えられないな……。ま、まぁ、胸の傷を見れば『本当のことだったんだなぁ〜』って思い出すんだけどね。あはは……」
「その手術痕で何か言ってくるようなやつは無視しとけば良いんだよ。って、久し振りにに言ったな、このセリフ……」
「小学生も中学生の頃も……カズマはいっぱいわたしを庇ってくれたもんね」
手術をすれば傷が残る。紬の場合は身体にメスを入れたのだからその傷は一生残るもの。その傷が原因で紬はいじめられたことがあるのだ。
「そりゃあ幼馴染だからな……」
「す、好きな人だから……って言っても良いんだよ?」
「寝言は寝て言え」
「……ど、毒舌なカズマは嫌い」
「毒舌にさせるお前が悪い」
「……スケベ」
「意味分からん」
和馬、的確なツッコミである。
「……だが、からかって来たやつの中には紬のことを好きなやつがいたと思うけどな」
「えっ……?」
「よく言うだろ? 好きな相手にはちょっかいを出してしまうって。小学生の頃は構ってもらうための手段だったし」
こんなことを言えるのは、和馬にも心当たりがあるからである。……今、目の前にいる一人の人物に対してしてきた心当たりが……。
「カズマ……一つだけ言うけどね」
「なんだ?」
「わたし……遊園地でカズマにちょっかいを出すからね……。か、かかか覚悟っ!」
「……へ?」
「は、はいっ! それじゃあ大学に行く!!」
「おいおい、今のどう言う意味だよ!?」
「内緒っ」
「待てって……!」
前に走り出し、どんどんと距離を開いていく紬を追いかける和馬。
その脳裏では、ある可能性が生まれていた。
あの話の流れから『ちょっかいを出す』との言葉。
ーー自分に好意を持たれているかもしれないと。
そして……大学に到着すれば、いつも通りの会話が待っていた。
「和馬君、紬ちゃん! ただいまおはようございますっ! 相変わらずラブラブしてますねぇ!」
あの告白がなかったように笑顔を見せるユウの姿が……。
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