第16話 紬とサークル
その二日後の月曜日、大学での休み時間。
「カ、カズマ……。少しだけいい?」
「ん?」
ちょんちょんと、和馬の裾を握って声を掛けてくる紬。煌びやかな銀髪に大きなサファイヤブルーの瞳を持つ紬の容姿は見るものを自然と惹きつける。
「だ、大学のね、サークルについて聞きたいんだけど……」
「大学のサークルねぇ……。これは俺の考えになるが、サークルには入ってた方がいいぞ」
「ほ、ほお……。その理由は?」
「サークルに入れば人との関わりが増える。つまり、友達が出来やすいし、サークル仲間で遊びに行ったりもする。これはサークルに入ってないと出来ないことだから、損はしないと思うぞ」
大学では、部活ではなくサークル活動というものがある。
サークルと言うものは課外活動を行う団体のことで、サークルの目的は楽しむために作られたものである。そのサークルの雰囲気は緩く自由形なところが多く、馴染みやすいといった利点もある。
「カズマはどこかに入る? あ、もう入ってるとか……」
「いいや、俺はバイトを優先してるから入ってない。留年した分の学費を少しでも取り返さないと……ってるし」
「そ、それじゃあカズマはどこにも入ってないんだ……」
「……紬はどっかに入るつもりなのか?」
この時、和馬の胸内にモヤっとしたものが生まれる。
サークルに入れば当然男女と仲良くなるわけで……付き合いに発展する場合もある。
紬の容姿、性格からして……関わり合おうとする男子は絶対いるはずなのだ。
「……ううん。カズマがサークルに入らないなら、わたしも入らない」
「おいおい、やりたいこととか、目標が見つかってないなら入ってた方が良いって。俺なんかに合わせる必要はないぞ」
「……むぅ」
「え? なんだその顔」
正直に言えば、紬にはサークルに入って欲しくない。だが、それは自分の押し付けでその結果、大学を楽しめない場合もある。
だからこそ、あくまで正論を述べた和馬だが……目の前には頰に空気を溜め込んだ紬の姿。
ハムスターのように頰を膨らませ、眉をぴくぴくさせる紬は不満げでありながらも、とても可愛らしいものであった。
「カズマはなにも分かってない……。わたしね、やりたいことも、目標もあるんだから……」
「……そっか。それならさっきの言葉は撤回しないとな。……ごめん」
「で、でも……詳しいことは言わないんだから」
「ああ、言いたくなければ言わなくて良い」
「……」
(今ここで、わたしのことを好きになってもらって……カズマと付き合うことが目標だって言ったら、どんな反応するんだろうな……)
紬が叶えたいのはこれだけ。そして、和馬と一緒になれる時間を増やしたかったからこそサークルのことを聞いたのである。
そして……『和馬と一緒に』なんて想像をしただけで紬の顔に熱が伝う。
「ん? 顔が赤くなってるが……風邪か?」
「ね、寝不足ではあるけど……かっ、風邪なんかじゃないからっ!」
「確認だけさせてくれ。お前は昔っから無理をするクセがあるからな……」
「うぅぅ、も、もしわたしのおでこに触れようものならーー」
と、脅しをかけようとする紬だが……それよりも早くと紬のおでこに手を当て、熱を確認する和馬。
「ん、平熱か。…………あれ、なんかどんどん熱くなってきて……」
「〜〜っっっ! この朴念仁……卑怯者……ばかぁ……!」
「お前、それは言い過ぎだろ!」
和馬の手を払い、首筋まで真っ赤に染める紬は出来る限りの罵倒雑言を放った。
「ど、どうせカズマのことだから、こ、こんなことユウちゃんにもしたんでしょ!」
「はぁ!? ユ、ユウにするわけないだろ」
「だ、だって……今日、ユウちゃんとの距離が近かったじゃん! ど、どうせ土曜日のバイトでなにかあったんでしょ……」
紬は見ていた。そして感じていたのだ。今朝、ユウと和馬の挨拶から壁のない関係になっていたことに……。ユウが和馬に心を開いていることに。
「まぁ、何かがあったと言えばそうなんだが……熱を計ったりとか紬にしかするつもりないし」
「……な、なんで?」
「え?」
「だ、だから、なんでわたしにしか……しないの」
頰を未だ朱に染める紬は、小首を傾げて和馬に追い打ちをかける。
和馬はこの時……自分の首を絞める発言をしてしまったのだ。
「え、やっ、それは……」
「それは……?」
「…………紬なら、殴られたとしても痛くないし」
「む、カズマが嘘ついた」
「……」
長年の関わりがあるだけに、紬はすぐに和馬の嘘を見破った。
「ね、ほんとの理由は……?」
「……分かってるくせに、あえて言わそうとするんだもんな……」
『はぁ』と、ため息を吐く和馬はそう前置きした後にぶっきらぼうに答える。
「心配だからに決まってんだろ……。それ以外に何があるんだよ」
「へ、へぇ〜、ふぅーん。カズマはそんなにわたしのこと心配なんだぁ?」
「くっそ……。これだから言いたくなかったんだよ……」
「カズマは心配性だなぁ、えへ、へへっ」
好きな相手に心配されて嬉しいわけがない。紬はその感情を抑えられなかった。
「ま、その調子だと大丈夫そうだな……。いろいろ損した気分だ」
「ありがとう……心配してくれて」
「……心配してねぇし」
見え付いた嘘を吐くカズマに、
「……ばーか」
にこやかな笑みを和馬に向ける紬であった……。
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