第12話 舞side 学校で

「マイマイ! 昨日ね、すっごいもの見たんだよッ!」

「あれはヤバかったよね、ほんと!!」

「朝からそのテンションって、そんなに凄いことがあったの?」


 次の日、高校に着いた舞が自席に着いた矢先のこと……二人の女友達が詰め寄ってくる。

『マイマイ』と呼び名は、見てわかる通り、名前の『舞』から取っている。


「もーやばいね! あれ!」

「うんうんっ! 舞ちゃんのお姉さんのことなんだけどお!」

「つむぎ姉が……? 一体どうしたの?」


「うちの学校で《難攻不落の要塞》と呼ばれてたマイマイのお姉さん! 昨日……彼氏さんと手を繋いでたのッ!」

「まさかあんな光景を見るとは思わなかったよね!?」

「その彼氏もヤバかったよね!? 顏は少し怖かったけど、普通に格好良かったし!」

「そもそも、舞のお姉さんを落とすってこと自体が凄いよねッ!」


 そんな二人は瞳を宝石のように輝かせながら、昨日見た光景を舞に伝えてくる。


「彼氏……、手を繋いでた……。あ、あぁ、和馬くんのことね」

『彼氏』というワードに疑問を浮かべる舞だが、話の流れからその彼氏と呼ばれる相手が和馬であることを察する。


「えっ!? マイマイも知り合いなの!?」

「流石は《難攻不落の要塞二号》と呼ばれる舞……。優良物件男は既にマーク済みなのか!」

「何度も言うけど、その呼び方はやめてってば。和馬くんとは昔からの知り合いってなだけ」


 紬はこの高校の頃、学園のアイドルと呼ばれていた。視線を引き寄せるその容姿。そして、誰にでも関わりやすく、温和な性格をしている紬。

 その紬を好きなった男子は次々と紬に告白していき……全て玉砕していった。


 そこから《難攻不落の要塞》というあだ名が浸透し、妹である舞に受け継がれているのだ。


「いやぁ、でもあのマイマイのお姉さんがあそこまで顔を赤くしてるのはびっくりしたなぁ……」

「あのイッチャイチャぶりは、ほんと羨ましかったよね〜!」

「一つだけ言っとくけど、二人に和馬くんの情報は教えないからね。なんか密かに和馬くんのこと狙ってそうだし」


「本音を言うと、少しくらいはお話ししたかったんだけど……」

「その相手が舞のお姉さんだから、流石に勝ち目ないし……」

「……」

(つむぎ姉に彼氏なんていないけど、……勘違いしてるままが一番良いよね……。その方がなにも影響が出ないだろうし……)


 真実を話さないことに対しての罪悪感はもちろんある。しかし、舞にとっては姉である紬の恋を一番に応援している。

 今までの一途な姉の想いを知っているからこそ、舞はこの選択を取ったのだ。


「はぁ……良いなぁ良いなぁ! あんなお付き合いしたいなぁ〜!」

「あの様子だと、間違いなく大人の階段は登ってるよね……!?」

「うん! あれはシてる! 絶対!」

「だよね〜!」

「はぁ……。なんでそんな話になるのよ……」


 ここで話題は思春期らしいものになる。


「あの可愛いと美人を兼ね備えたマイマイのお姉さんが……えっちい顏になってぇ……」

「お、おふ……っ。それを妄想しただけで凄い興奮する……」

「た、多分マイマイのお姉さん……男を快楽に導く術を持ってそう……」

「絶対、神テクニックを持ってるはずだよ!」

「あのねぇ……うちのつむぎ姉に変な植え付けしないでよね。つむぎ姉、ウブなんだから」

 と、大事な部分だけは伝える舞。


 この噂が広がれば、和馬の耳にも届くかもしれない。そうなれば、和馬と紬の関係に影響を及ぼすのはほぼ間違いないだろう。

 それだけは未然に阻止す必要があるのだ。


「へっ、マイマイのお姉さんウブなのっ!?」

「それって本当!?」

「本当。つむぎ姉はずっと好きな人を追いかけてたから、何もかも初心者なの。それが、男子の告白を全部断ってた理由でもあるし」

「つ、つまり! その追いかけてきた人が、私達が見た人だったの!?」

「うん、そう言う事」


「せ、青春だぁ……青春だぁ……!!」

「羨ましい……死ぬほど羨ましい……」

(つむぎ姉と和馬くんが付き合ってるってこと、早く現実になればいいのにな……)

 心の底からそう思う舞であった。





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