第11話 何かが起こる予感……
「でねでね、それでね!」
その夜、紬は興奮を抑えられないように今日の出来事を妹の舞に報告する。
「……なに、リア充爆発しろとか言って欲しいの?」
「す、少し言って欲しいかも……なんて、ええへ……」
「リア充爆発しろー」
「ぼ、棒読み!? も、もう少し気持ちを込めてもいいんじゃないかなっ!? そ、それだとわたしが恥ずかしくなるじゃん!」
「あのね、一つだけ警告しとくけど、他の人にはその事言わない方がいいよ。絶対に殴り殺されると思うから。……羨ましさと妬ましさで」
「そ、そんなぁ……えへっ、えへへ……」
「つむぎ姉、ニヤケすぎ。毎回おもうんだけど、その顏……頰の筋肉どうなってるわけ?」
マシュマロを焼いたかのようなトロンとした表情になる紬に、頰をピクピクと引き攣らせる。
「……むふふ、むふっ」
「笑い方もどうなってんの……」
一通りのツッコミを入れる舞は、報告された話を聞いた後にある違和感を覚える。それは、冷静に考えればなんとなく分かるものであった。
「でも……なんだろ。なにか引っかかるっていうか、臭うっていうか……」
「に、臭う……って、わたし
「あ、そう言うわけじゃなくて、和馬くんのこと」
「カズマ……?」
いまいち要領を得ない舞の発言に、小首を傾げる紬。
「これはうちの勘だけど、和馬くんってつむぎ姉のことが好きなんじゃないの?」
「……えっ、ぇぇえええっ!? それはないと思うよっ!?」
「そうかなぁ。『つむぎ姉だから相談に乗る』とか『つむぎ姉にしかこんな言葉を言うつもりないから』とか、今の話を聞く限りそうとしか考えられなくない?」
確信があるわけではないからこそ、舞は疑問を促す。これはあくまで予想であり、自信があるわけではない。紬の恋を応援する者として、変な勘違いをさせるわけにはいかないのだ。
「そ、それはわたしを元気にしてくれようとしてくれただけだよっ。カ、カズマは昔から優しいし……」
「確かにその可能性もなくはないけど、なんかなぁ……。もしかしたら、つむぎ姉みたいに家に帰った瞬間に『にへへ〜』なんて顏をしてるかもしれないよ?」
「カ、カズマが……? わたし相手にそれはないよ……」
紬がそう思うのも無理はなかった。和馬は表情が顏に出ることはあるものの、その表情を見られないよう上手く隠しているのだ。
紬からして、和馬がそんな表情をしているのは想像がつかないのである。舞の言ったことが実際に起こっていたとしても。
「つむぎ姉はもっと自分に自信持ったら? 一応、うちの自慢のお姉ちゃんなんだから。一応。ストーカーもするけど」
と、3段重ねの皮肉を込めながら『自慢の姉』だと伝える舞。
「な、なんか余計な言葉が多いよねっ!? 慰めるならもう少し言葉を選んでよぉ……」
「だって、慰めるのはうちより和馬くんの方が効果があるじゃん。それなら、別に良いかなぁって」
「も、もう、舞ったら……」
舞の言う言葉はもちろん事実。全てを見透かされているからこそ、紬は照れながら頰を書いた。
「それで、あと一回使えるお願い叶え権は何に使うつもりなの? ……まさかだけど、キスとか考えてたりしてないよね?」
「……し、してない……よ」
「してたね?」
「はぃ……」
嘘を付くのが上手い紬ではない。妹である舞にはバレバレだった。
「はぁ。つむぎ姉はそのお願い叶え権をもっと有効に使いなよ。キスが勿体ないとは言わないけどさ」
「う、うん……」
「やっぱり、一番安直なお願いはお買い物に付き合ってもらうとかじゃない? そうすれば1日和馬くんといられるし、良い雰囲気になればキスしたり出来るかもでしょ?」
「お、おぉ……!」
和馬と1日一緒にいられる。……それは紬にとって嬉しいこと。もしそこで上手くいけば舞が言う『キス』などの付属が付いてくるかもしれない。
そう考えれば、『お買い物に付き合ってもらう』と言うのは一番良いお願い叶え権の使い方なのかもしれない。
「でも……そろそろ攻めていかないとヤバイかもね」
舞は苦虫を噛み締めたような顏で不安を吐露する。
「大学のユウって人。あの人が出てきたおかげで少し危ない展開になったと思わない?」
「と、取られるかも……ってことだよ、ね?」
「好きになったり、気になったりするのは一瞬らしい。そのユウって人、和馬くんがバイトしてるところに今度お邪魔するんでしょ?」
「う、うん……」
「何もなければ良いけど……」
勘の良い舞は形の良いあごに手を当て、なにかを考えるそぶりを見せる。そんな舞を見て、モヤッとした不安を生む紬だった。
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