第5話 イチャイチャしたい?

「お二人さん! 付き合って何年目ですかあ!?」

 肩に揃えられた桜のようなピンク色の綺麗な髪に、女性らしく成長している身体。小ぶりな唇に、翡翠の瞳が特徴的な美人爆弾女に和馬は完全に呑まれていた。


 どうにか対処出来たのは紬だけ。そんな紬は両手を振りながらこう答える。


「つ、付き合ってないからっ!」

「うっそだー! 絶対嘘だー! 私のセンサーがビンビンに反応したから!」

「本当! つ、つつつ付き合ってないから」


(付き合ってたら……良いのにな……)

 なんて思いながら、顔を真っ赤にして誤解を解こうとする紬。


「えぇ……。だって、紬ちゃんは和馬君に気付かれないように、熱っぽい視線を向けてたでしょ?」

「え? 本当かそれ」

「そ、そんなことないしっ!」


 そんな爆弾女の情報で、和馬は頓狂な声を上げながら紬の顔を見る。標的となった紬は当然ヤケになって否定する。


「和馬君は和馬君で、紬ちゃんが集中してる時に優しい顔でずっと見てるし……」

「えっ……」

「ざ、残念ながらそれは気のせいだな。……そ、それより、どうして俺たちの名前を知ってるんだ?」


 そして、今度は逆……。爆弾女は紬にそんな情報を提示してくる。そう、それが事実だからこそ、話を逸らす必要があったのだ。


「入学初日にクラスの座席表を見て覚えました! あっ、まずは私の自己紹介をですね! 私の名前は桂木かつらぎ ユウです! ユウって呼んでください!」

 右手を上げながら、元気良く自己紹介をする美人爆弾女ことユウ。


「……それでそれで! いつから付き合ってるんですかあ!?」

「だ、だから付き合ってないのっ!」

 自己紹介という変化球を投げてからの、再び直球を投げてくるユウ。それは、話が振り出しに戻ったとことになる。


「大丈夫大丈夫。照れる気持ちは分からないでもないから! ……でもね、ここは素直に認めて私に恋愛のアドバイスをしてくれても良いと思わないかいッ!?」

「ったく、騒がしいやつが来たもんだ……」

「はい、騒がしいやつです! おはようございますっ!」

「……」


 そして、何を言われても折れることがない、寧ろ今の状況を楽しんでいるユウ。

 ニコニコと屈託のない笑みは、初対面ながらもとても似合っていると素直に感じてしまう。


「じゃあ紬ちゃんを優しい顔でずっと見ていた和馬君! いつから紬ちゃんと付き合ってるんですかっ!?」

「だからそれはユウの気のせいだって」


 冷静さを意識して、言葉を返す和馬だがユウには動揺を見破られていた。


「おや、今私から視線を逸らしましたね……?」

「……ち、小さい虫が飛んでたんだよ」

 和馬はこの瞬間から、ユウが一番厄介な相手だと判断した。

『紬に対して隠し続けている気持ち』を暴かれる可能性がある者だと。警戒しなければならない人物だと。


「ユウちゃん、本当にわたし達は付き合ってないよ……?」

「マ、マジなの……?」

本気まじです……」


「じゃあ、いつから付き合うの?」

「だからなんでそうなるのーっ!」

『両思い』という関係を無意識に攻めるユウ。

 そして、お互いに抱く『好き』の気持ちを隠す和馬と紬。防戦一方になるのも仕方がなかった。


「……一つ聞きたいんだが、なんでユウはそんなことを追求するんだ?」

「私も、お付き合いがしたいからです!」


 和馬と紬に高らかと公言するユウだが、その声はクラス中に聞こえるほど大きかった。

『な、なにっ……!?』

『お、おい、あの子彼氏募集中らしいぞ……!』

『に、肉食系女子……ッ!』

『やべぇ……付き合いたい……』

 クラス内の男子から、そんな感情が露出したのは気のせいではないだろう。


「そう! 付き合う為には、現在付き合ってる方にアドバイスを聞くのが一番だと思いましてですね!」

「……お前、告白されたことあるだろ?」


 ユウの容姿は間違いなく整っている。それだけでなく、他の女子よりも成長された身体。元気いっぱいで裏表のない性格。

 モテないであろう要素が思い浮かばなかった。


「少しだけされますけど……」

「じゃあ付き合えるだろ。これで問題解決じゃないのか?」

「だって、今まで告白してくる男子は私の身体目当てだったから……。だ、だから私は、紬ちゃんや和馬君のような、甘くてイチャイチャのお付き合いがしたいんですっ!」


「いやな、俺たちのどこをどう見たらイチャイチャしてるように見えるんだよ……。そもそも付き合ってないし」

「そ、そんなに……イチャイチャしてるように見えました……? ユウちゃん」

 そこで何故か、雪のように白い頰を赤く染めて紬はユウに問いかける。


「なんか……雰囲気から違うんです! 和馬君の場合は『紬は誰にも渡さないからな』みたいなオーラが出てて……」

「んなわけあるかよ」


 そんな和馬のツッコミを無視するユウは、またも自分のペースで話を進行させる。


「それで、紬ちゃんからは『和馬くん、格好いい……。もっと甘えたいぃぃ……』みたいなオーラが出てます!」

「え、そうなのか……紬?」

「そ、そそそそんなわけないですか! 逆に和馬くんは『私を誰にも渡さないからな』なんて思ってるんですかっ!?」


 そうして、ユウが撒いた火種がとうとうこの二人に影響を及ぼした。


「なにアホなこと言ってんだよ、このストーカー野郎」

「アホってなんですか、アホって!」

「ストーカーは認めるんだな」

「認めてないしっ! 監視するだけだもん!」


「いいなぁ、いいなぁ……私もイチャイチャしたいなぁ……」

「「してない!」」

「おおっ! 声も重なった……!」


 その和馬と紬の口論は、ユウに見守られながら数分間続いた。

 ただ……ユウが言ったオーラの事。それは決して間違いでは無かった。


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