第4話 時間割とクラスメイト
「……だ、大学って自分で
現在、和馬と紬の教室では履修の取り組めを決める時間となっていた。
履修とは、単位を取るために受ける授業のことである。
「自分で時間割を考えるってのが、高校と大学の一番違うところかもな。その講義も90分間あるし」
「い、1時間と30分……。わたし、大丈夫かな……」
「そんなに心配しなくて良いと思うぞ? 次第に慣れてくるもんだし……って、留年した俺が言うのもどうかと思うけどな」
頰を掻きながら、利き手で時間割を埋めていく和馬に紬はじぃーっと視線を定め、そわそわとしながら聞く。
「え、えっと……言いたくないなら言わなくて良いんだけど、なんでカズマは留年したの……?」
和馬が暴力行為や迷惑行為で留年したかもしれない……そんな可能性はないと信じる紬だが、念のため確認しておきたかった。
「バイトの入れ過ぎで勉強不足だったからだな」
「……な、なるほど」
「なるほどってなんだよ……ったく」
「でも……えへへ。そっかそっか」
「なんか嬉しそうだな。お前」
にへへ、と口元をだらしなく緩める紬を見て、和馬は敵意ある眼差しを見せる。
「そ、そんなことないよっ!? でも……もう大丈夫! カズマは留年しないから」
「なんでそんなことが断言出来るんだよ」
「わたしが監視するの。もしカズマが講義をサボろうとしたら、家に乗り込みます」
「本格的にストーカーになるつもりなんだな」
「もぅ、心配してるからなのに……」
紬にとって、一番大事なことは和馬と一緒に卒業することなのだ。
それは小学から高校までずっと叶えられなかったもの。だからこそ、意地になってでも叶えたいのだ。
「……そ、それでね、カズマはもう時間割を立てたの?」
「ああ。去年と同じ時間割にしたからな。バイトの関係もあるし」
「じゃあ、見せて……」
「ん、これをか?」
和馬は時間割を書いた用紙を手に持って、紬に見せる。
「うん!」
「嫌」
「なんでっ!?」
光の速さでのやり取り。その会話に参戦出来る者はいないだろう。
「時間割を真似しそうだし、なにより一緒になった時に講義の邪魔をしてきそうだし」
「講義の邪魔はしないから……っ!」
「講義の邪魔
「だめ……なの?」
「ああ」
「わたしが一緒じゃ……いや?」
うるうると瞳に涙を溜める紬。これは演技なのか、演技ではないのか……その判断が出来ない和馬は怯む他ない。
好きな女の子に、こんな顔をされれば誰だってそうなってしまう。
「……そ、そう言うわけじゃないが、俺ばっかに絡んでると友達なんか出来やしないぞ?」
「友達はカズマがいれば良いし……」
「お前って時より頑固になるよな。……別にそれが嫌なわけじゃないけど」
『はぁ』と小さくため息を吐きながら和馬は、書き終わった時間割を紬に渡す。
本音を言えば、和馬だって紬と一緒に授業を受けたいのだ。
……それに当たってマズイことは二つある。
一つ、自分が集中出来なくなること……。そして、余計に紬を意識してしまうこと。
それが分かっているからこそ、紬に時間割を見せたくなかったのだ。
「はわぁぁ……ありがとうっ!」
和馬がそんな思考をしている事など気が付くわけもなく、紬は瞳を輝かせながら嬉しそうにその用紙を受け取る。
(……ったく、嬉しそうにしやがって)
そんな紬を見て、自然と優しげな表情になる和馬。好きな人が喜んでいれば、当然自分だって嬉しくなる。それは当たり前の感情だ。
「えへへ、これで一緒だぁ……」
「……そうだな」
女の子らしい丸っこい字で時間割を書き写しながら独り言を呟く紬。その声は和馬に聞こえていた。
「良いなぁ、良いなぁ〜、そんな関係ッ!」
「ん?」
「ふえ……?」
その時ーー見ず知らずのクラスメイトが足音を響かせながら、突としてこちらに近付いてくる。
「お二人さん! 付き合って何年目ですかあ!?」
そして……うきうきほいほいとさせた一人の女子は、憧れ視線を向けながら、とんでもない爆弾を飛ばしてきたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます