第13話
僕たちは姉妹を守り、縄に繋いだ賊を見張りながら、馬車に戻った。
馬車には5、6人乗れるが、賊は馬車の後ろに縄を括りつけて引っ張っていくのだ。屋根の上で見張るのは僕。
目指すは東都。最寄りの宿場町ではない。そこは宿場町でありながら、亡者を恐れて日没後は余所者に扉を開けないのだ。その点東都なら、いつでもどこかしらの宿が開いている。
銀狼亭が真っ先に思い浮かぶが、空室はあるだろうか? まあ、何とかなるだろう。
さあ、出発だ。馬型ゴーレムがいななく。
しかし、動かない。どうしたんだ?
屋根に耳をつけて車中の話し声を聞いてみても、みな戸惑っているという事しか分からなかった。
様子を見るため屋根から下りると、
「おい、出発はまだか」
「丸腰で森にいるのはいやだよ」
車の後ろに繋いだ連中が騒がしい。
「モロー……」
中からラケル氏の声がしたがうるさくて聞き取れない。たぶん原因を調べろとでも言っているのだろう。
「おい、金髪と銀髪の坊やたちは本当に俺らの命を助ける気あんのか?」
「奴隷のあんたじゃ分かんねえかな?」
「うるせえ!」
そのとき、1人の首が血飛沫とともに飛んだ。1人また1人と、物のように破壊されてゆく。
姿を現したのは、この連中のボスだった男。
「何すんだ! なんで生きてるんだよ⁈」
激痛が僕の胴を貫いた。
男の長剣はそのまま馬車の車体に刺さった。僕は車体の脇に刺しつけられた格好だ。
命のない身体はこんなとき便利だ。痛みを怒りが超えて、僕は思わず両手で、柄を持つ奴の手を押さえつけていた。
「このくたばり損ないが!」
食い詰めた女子供をいたぶって飲む酒は美味かったか⁈ とでも言ってやりたいが、喋りながらでは力が入らない。ひたすら両手に力を込めた。
ああ、でも早くラケル様かリデル様がこいつの首もふっ飛ばしてくれないかなぁ。
「よう。うちの下僕が世話になったな」
刃一閃、返り血が吹き上がる……と思いきや、そこには何もなかった。僕の脇腹を貫いた剣さえも。
少し離れたところに、大男とさっきの女がうずくまっている。
目が合うと、また彼らは煙のように消えた。
「転移魔法だと……!」
僕は魔法の素養がまったくないが、ラケル氏の驚きようを見ればそれが凄いことだと分かる。
そればかりか、石化が治癒されていた。
なぜそんなことを出来る者がいる? 彼らは魔人狩りではなかったのか?
ジュゼット家の一員であるラケル氏を驚嘆させるほどの魔力の持ち主といえばローラが思い浮かぶ。だがそれは僕が無知だからだ。彼女があんな悪党に関わるはずがない。僕は心のなかでローラに詫びながら、いやな連想を否定した。
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