第12話
姉妹と双子とは、馬車に戻る前にリデル嬢の回復魔法によって傷を癒すことになった。
それを優先した上で、賊も条件つきで治療を施す。条件とは武器と防具を捨てて縄で両手を縛ること。
妹の目を治せないことを詫び、姉に処置する。
ラケル氏は僕の肩をぽんと叩いた
「こいつが魔法に集中してる間、周りにヤベー奴がいないか警戒してろ。俺はヤバかった奴らに対処する」
リデル嬢が祈りの言葉をつぶやきながら手をかざしていると、淡い光が少女の全身を包み込んだ。光は彼女の頭部や、引きずっていた片足に集まってゆく。そこが、いわば集中的に治すべきところなのかな、と僕は考えながらみていた。光が収まると、顔は腫れがひいて痣も消えていた。まだ少しやつれているが、可愛らしい目鼻立ちだ。
「わぁ、すごい!全然痛くなくなって」
言いながら顔に触れて治ったことを確かめようとする少女に、リデル嬢はそっと手鏡を渡した。それを覗きこみ、
「あ……ありがとう……」
妹のほうはさほどの傷を受けていなかったのか、すぐに治療が済んだ。
リデル嬢は次に、双子の兄ラケル氏の治療を始めた。その間に、メリッサの姉が僕に話しかけてきた。
「あの……私のこと覚えています?」
なんと、彼女は僕の過去を何か知っているというのか。
「エレンです。あなたに助けて頂いたのは、メリッサともどもこれで2度目になります。といっても、あの時は妹を隠したままでしたけれど」
女の子に恩人扱いされる僕というのがどうもピンと来なくて、理解が追いつかない。ローラのことは、僕が魔人狩りから守ろうとした……とラケル氏は言っていたが、それでローラが助かったのではなく、むしろ僕が余計なことをしたせいでローラが禁忌を犯す羽目になったと言いたげだった。
「本当に……ありがとうございます。このご恩は必ず、いえ大したことはできませんけれど、でも出来ることは何でもしますから。あの時、お名前を教えていただく間もなくて……今度は教えていただけませんか?」
まるで言葉の洪水に呑まれたような気分で、やっと返事をした。
「わるいけど、……僕はここ最近より前の記憶がないんだ。名前も思い出せない。君のことも……覚えていない、というより君のいう人が僕なのか分からない」
「そんな……」
エレンの潤んだ瞳が震えている。
「あのさ」
気まずい雰囲気を、ラケル氏の声が破った。
「俺たちはこいつを拾ったとき、仮の名前をつけた。モローっていうんだ。あんたもそう呼ぶといい」
それでいいですか? というようにエレンがこちらを見ている。
「うん……それで、どうぞ」
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