第11話

外に出るとき戦闘が終わっていなければ危険だ。

分かっていたのに僕は、気力が尽きる前に姉妹をラケル達……とくに回復魔法を得意とするリデル嬢と引き合わせることを焦った。なので、幼いメリッサがしきりに袖を引っ張っていたことにも、後で聞くまで気づかなかった。


目指していた玄関が開き、敵が転がるように入ってきた。僕は自分の迂闊さを悔いた。

が、僕たちと敵のあいだに、疾風のようにもう一人が割って入った。

剣の切っ先がきらめき、不快な音がした。一瞬で、僕の目の前で生きて動ける人間はただ1人になった。

ラケル氏がこちらを振り返った。

「間に合ったな」

返り血を少々浴びた程度では曇らない美貌に、僕の後ろで目の見える少女が嘆息した。

こうして僕たちは館を脱出した。


外にはリデル嬢が月光を浴びて佇む。兄と二人で倒した、数にして倍の敵。そのうち1人の背に片足を置いている。その姿は、肩で息をしていたが、悪魔を踏み付ける天使の像を思わせた。

「お兄様! みなさん!」

こちらに気づくと、安堵したようすで小走りに寄ってきた。

その背後で蠢く者が1人、傷が浅かったか、あるいは倒れたふりをしていたのか。立ち上がり襲いかかってくる。

「リデル様、後ろ!」

僕が声を上げたときには、彼女は絶妙な槍捌きで賊を地面に転がしていた。

「あなたは……! どうして」

取り押さえた賊の顔をみて嬢が驚いたのも無理はない。襲ってきたのは女だった。リデル嬢は彼女のことを、幼い妹を人質にとられた同情すべき姉と思っているはずだ。

「そこの女! もう争いは終わりだ。あんたの妹たちは助かったんだよ」

ラケル氏がそう言いながら駆けつけた。

僕とメリッサたちもあとに続いたが。

「違います! この人は私たちの姉でも何でもありません。病人のふりをしてサマルさんと私たちを騙していたのです」

そういうことか。

女は、武器を奪われると忌々しげに語り出した。

「ここの奴等はみんな似たようなもんさ。カタギの生活で食い詰めたところを拾われた奴、拐われて悪事を手伝わされた奴……あたしだって、少し前まではそこの小娘と同じ、被害者だったんだ。そのふたりばかり助けたって、何になるってんだ」

「それでも僕は、魔人狩りを減らしたいし、狩られる人を助けたい」

彼女は驚いたらしく目を見開いた。自分に意見するのは、見るからに高貴な双子のどちらかだとでも思っていたのだろう。

「あなたのことも、罪を償うなら、傷を治して町へお連れしますわ。ただし、この方たちが先です」

姉妹に、優しく微笑んだ。

「怖かったでしょう。もう大丈夫ですよ」

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