第6話
僕はきっと、ここの親分と取り巻きのいる部屋に連れられて拷問でもされるのだろう。死にはしないけれど苦痛はあるし、もし亡者だとバレたら、縛られたまま丁度ここの森に近い火山の火口に放り込まれかねない……それが僕のいちばん恐れていることだ。
亡者は不死だが、活動を一時的に、場合によっては半永久的に強制停止する方法はある。その一つは、亡者を火口に放り込むこと。
身体が燃え尽きても不死なので意識だけ残り、熱と苦痛しか感じられないまま存在し続けるという。
ただし、火山の勢いが弱まった時期に復活し始める場合がある。火山に近いこの森に亡者が多いのはそのせいだ。
……このさい、亡者とバレる前に、渋るふりして馬車の場所でも知らせるか? なにも本当のことを言う必要はない……。
などと思案する間に、彼らは早足で門に向かって歩き出しながら僕を小突いた。
「ほら、さっさと案内しろよ」
ただでさえ両脇の二人の方が体が大きいのに、僕は縛られているので歩くだけでもどうも勝手が違う。
とはいえ、敵の住処で囲まれるよりましだ。
僕から奪った魔法灯を持っている奴は、先程の僕と同様、光を館のほうに見せまいと警戒しているらしい。
もしかしたら、この2人は金をせしめたら館に戻らず逃亡する気かもしれない。それこそ話が早いから。なら裏切りついでに何か情報でもくれないか……と思うが焦ってはいけない。僕は先刻、雇い主を売るふりをした。なのに主人のために動く素振りを見せたら、彼らも警戒して考えを変え、やっぱり館で拷問という羽目になりかねない。
それより双子の居場所まで誘導したほうが良さそうだ。あとは双子が尋問なり何なりするだろう。
僕たちは門の外へ出た。
茂みの中で何かがガサリと音を立てた。
ふと、男たちの片方が嘲るような調子で話しだした。
「ところで、亡者避けの聖水って意外と当てにならねーって知ってるか?」
「へえ……」
てきとうに相槌を打ちながらさっき音のしたほうに注意していると、やはり葉擦れの音が断続的にしている。
「飢えた亡者が人間の群れを見つけて、全員が聖水をつけていたら」
知っている。亡者が人群れから遠ざかるか、そうでなければ一番効き目の薄れている奴が狙われるのだ。
葉擦れに呼吸の音が混じり始めた。すぐそこまで近づいている。
「俺らはさっき付けたばかりだ。あんたがくれた聖水をな」
茂みから姿を現した亡者。顔も分からないほど皮膚は爛れ、ところどころ筋肉や骨が露出している。
二人は僕の両側から腕をつかみ、それに向かって投げつけた。
「エサはこいつだ!」
顔から地面に落ちた。
亡者は……僕を通り越した。
「なんでこっち来んだよ!」
「知るか! 逃げろ」
草を踏む足音が遠ざかる。方向からして、二人はそろって見限ったはずの館の入り口へと駆けて行ったようだ。
向きを変えると、亡者がゆっくりと追うのが見えた。
ひとまず助かった。聖水の偽物を用意しておいて良かった。
僕が放り出された所は下生えも土も柔らかいのが不幸中の幸いだ。脚の力だけで立ち上がり、地面に落とされた魔法灯の持ち手を口に咥えて、ラケル氏たちのいる岩陰に戻ることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます