第4話

僕たちは東都を出て「祈りの小径」と呼ばれる件の場所に向かった。

ラケル氏の馬車を馬型ゴーレムに引かせている。双子の住まいだか常宿だかには本物の馬がいるそうだが、森を行くにはゴーレムのほうが狼などに狙われにくいからだ。


馬車の中にも、魔力に長けた家柄らしく魔法道具がいくつかある。現在位置が地図上に映し出される水晶鏡。リデル嬢のものだという高価で便利な「自在箱」。片手で持てる程度の軽さと大きさで、動かないものなら嵩張るものでも何でも収納でき、しかも重くならないそうだ。


ラケル氏を中心に、これからすることについて話し合う。

「敵の根城は見当がついてんだ。小径の脇を山奥に入ったところに、廃墟になっている屋敷がぽつんとある。夜には亡者を避けて閉じこもっているはずだ」


魔人狩りと聞いたときに思い浮かんだ、館に火を放つ案は言わなかった。被害者が中で生きている可能性があるからだ。


「祈りの小径」あたりは、夜になると野良の亡者がうろつく。

亡者は高度な魔術によって蘇らされた死人で、主人を失うと人間や動物を襲うようになる。噛まれた者は感染して新たな亡者に……とはならないが、しかし完全に消滅させる方法は、ほぼないのだ。


亡者が死ぬ唯一の方法は、自分を蘇らせた主人を亡者自身が殺すこと。他の要因で主人に死なれた野良の亡者には不可能だ。

主人を殺した亡者は、術をかけられる直前の姿に戻り、まもなく息絶えるという。双子は、いやローラを除くジュゼット家の人々は、僕にそれを望んでいる。

だから、彼らを信用しすぎてはならない。


ラケル氏は剣の達人で、強化魔法の使い手。剣の試合では魔法禁止のもそうでないのも何度か優勝している。

リデル嬢は神聖魔法の素質に富み、本人曰く多少は武術の心得があるとのこと。

とはいえ、いくら二人が強くても、敵の住処で囲まれては堪らない。


なので、僕の役目は賊をなるべく多く外におびき出すことだ。

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