第42話  サマンサ

アスカに少し似ている、小さな少女が怯え震えるのも構わず、ジェイドは整えられたベッドに放り投げる。


ピンと張っていた白いシーツがクシャリとシワを寄せた。


「あ、あのっ…」

憐れな召使いの少女カチュアは、困惑の表情をジェイドに向ける。

ジェイドは少しも表情を崩さず上着を脱いだ。


「脱げ」

何の説明もなかった。


カチュアは逆らうこともできず、震える指で召使いの服を脱ぐ。


しかし下着を脱げずに俯いていると、ジェイドは構わずカチュアをうつ伏せにさせた。


カチュアは、アスカと同じ肩下の黒髪…


白いテントの中、レオンの目の前でアスカを乱暴に奪ってから毎日抱いた体を思い出す。


苦痛と快楽の混在したアスカの表情と喘ぎ声。


ジェイドはうつ伏せのカチュアの下半身を露出させ、挿入する。


カチュアは悲鳴を上げたが、シーツに顔を押さえつけられてその声も小さくなった。



こんな状況でも、ジェイドの眼に浮かぶのは何故が優しい笑顔のアスカだった。


自分に向けられたものではなかったが、子供や動物を見たときのあの、優しい柔らかな暖かい、美しい笑顔。


(この感情は、なんだ…)



今まで彼に、それは愛、だと教える人間はいなかった。



夜明けを待たずに、カチュアはターリーに連れられてジェイドの部屋を出た。


カチュアはショックで青ざめ、歩くのも辛い様子だ。


「あなた、ちゃんとお勤めは果たしましたか?

若い娘が部屋付きになるということは夜のお世話もあるという事ぐらい知っていたでしょう。

初めてでもあるまいし、しっかりしなさい。」


カチュアは機械的に頷いた。


「…まあ、いいでしょう。ジェイド様は何も仰らなかったから、粗相があったわけではないのね。

今日は昼まで自分の部屋で休んでいいわ。

傷があるみたいだから、薬を届けさせます。」


カチュアはふらふらと自分の部屋に入った。


それを見届けたターリーの足音が遠ざかる。


それを確かめると、カチュアはドサッとベッドに腰掛けた。

「ちくしょう、あの野郎急に入れやがって、切れちまったよ!」


ガバッと足を開き傷の具合を確かめる。


「あらまぁ、可憐な少女がそんな格好するの?」

いつの間にかドアに背の高い召使いが立っていた。

切れ長の瞳で黒髪の、美しい女。


「サマンサ」


カチュアは自分が座っている横を顎で指した。

サマンサは薬を渡しながら長い足を組んでベッドに腰掛ける。


「なに?下手くそだったの?あの青のジェイド様は」

サマンサが面白そうに聞く。


「下手って言うかさあ、イキナリなんだよね。

まだこっちがどうにもなってないのに入れて動いて。乱暴だっつーの」

カチュアはそのせいで切れた箇所にたっぷりと薬を塗った。少しヒリヒリするので顔を歪める。


「ま、いーじゃない。憧れの的のジェイド様に可愛がってもらえるなんて。

赤ん坊でも出来れば超ラッキーだよ。」


「まあね」

カチュアはニヤリとした。


「この後、念のため2、3人とやるつもりなんだ。たっぷりとね…

日付けさえあってれば誰の子かなんて分かりゃしないんだから。

何とかジェイドの子を産んでやる!」


それを聞いたサマンサは、ニヤリと笑いながら黒髪の少女の肩を抱く。

「そうだよ、あたしたちはそうやって金と権力をつかんでいくんだ!

この国に、復讐を果たすために…!」


背の高い切れ長の瞳の美女は、ガバッと自分のスカートをめくりあげた。


あらわになったその部分には、男のモノと女のモノがある。


「じゃ、早速私ともやっちゃいましょう。数は多い方がいいからね…大丈夫、とっとと済ませてあげるわ」


カチュアは一瞬驚いたものの、すぐにニヤリと笑ってサマンサを受け入れた。



*****


レオンがサマンサによって発見されたのは、サマンサがカチュアとの遊びのような情事の後、部屋に戻り男の服に着替えて散歩している時だった。


サマンサは、男とでも女とでも、行為の後はいつも酷い虚無感に襲われるのだった。


「なんだかな…」

言葉にならない不快感を抱えながら小川沿いの草の上を歩く。


小雨が降った後のカシュリ、カシュリと音を立てる水々しい丈夫な草は、足の裏に心地良くて少し気力が戻るのを感じた。


最初に見つけたのはレオンの煉獄の剣の先で、まるで呼びかけるようにサマンサの目に飛び込んできた。


人通りのない奥まった所の林の下だったので、普段ならきっと気がつかなかっただろう。


赤い輝きの方に足を向けると、うつ伏せで倒れるレオンがいた。


サマンサは「なんだ、行き倒れか…」と呟いてその場を去ろうとしたが、レオンの呻くような声を聞いて足を止めた。


「アスカ…アスカ…!」










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