第35話  大鳥使い

レオンたちはコウモリの町の宿で一晩過ごした。


昨晩アンナが張り切って仕事の依頼を探しに行ったものの、目ぼしいものがなかったという。


しかし明け方に、アンナが幾らかのお金を握って帰ってきたことをレオンは不思議に思ったが、特に追及はしなかった。


アンナは昼過ぎまで宿で寝ると言うので、レオンはロンドと2人で大鳥使いの所に行くことにした。


大鳥使いたちは町の中でも崖の側に住んでいる。


崖を壁として利用した家は、まるで鳥の巣のようだ。


ロンドは、大鳥使いたちの受付役のような者がいると言い、その家に向かって行った。


その家は1番道沿いにあって、他の家より少し大きい。


入り口には大きな紫コウモリのオブジェが飾ってあった。


「スミマセーン」

ロンドは返事も待たずにかなり気軽な感じで入っていく。


中には囲炉裏があり、その周りに数人の男たちが座っていた。

皆、頭に黒い帽子をかぶっている。


1人の小柄な男が答えた。

「おー、ロンドじゃねーか!

久しぶりだな!」


「カカシ!」

ロンドは右手を上げながら男のそばに行き、豪快な握手をした。


カカシと呼ばれた男は、30歳ぐらいだろうか、浅黒い肌にこげ茶の無造作にカールした髪が肩下まで伸びている。

汚れた上着、ボロボロのズボン。

おおよそ清潔とは無縁な感じだ。


カカシは何本か抜けた歯を見せながら言った。

「また旅してんのか?いやー、せっかく寄ってもらったけどな、ここんとこ大鳥たちがサッパリ飛ばなくて、多分役に立てねーぞ」


「噂は聞いてるよ」

ロンドは勧められた椅子に座りながら答える。


「大鳥が飛ばないおかげで、左の大陸の情報がサッパリじゃないか。」


「海を渡らなければ飛びますか?」

レオンが聞いた。


ちょっと驚いた顔のカカシ。


「あ…ご挨拶が遅れて申し訳ありません。

ボクは人魚の村の村長の息子、レオンと申します。

ロンドさん、アンナさんと一緒に旅しています。

人魚の村にどうしても連絡を取りたいのですが、紫コウモリをお借りできるでしょうか?」


カカシはロンドをちらりと見て、フンフンと頷いた。


「わりぃがな、兄さん、オレたちの大鳥はただの1匹も巣から出ようとしねーんだ。

理由は…」


カカシが言い淀んだ時、ロンドが、

「各地に現れてる化け物のせいだろ?

大丈夫、こいつは知ってるよ。

なにせその化け物を1人で倒したんだからな。」

と言った。


「化け物を倒した⁈」

一切にどよめく大鳥使いたち。


「嘘だろ?冗談言っちゃいけねーぜロンド。

あの化け物たちは村や町の人々を皆殺しにし、いくつもの騎士団を壊滅させているんだぞ。

1人でなんて倒せっこねー!」


ロンドはニヤリと笑い、レオンの腰の剣を抜きながら言った。


「それが本当なのさ!なにせこの男は、伝説の剣の1つ、煉獄の剣に選ばれた勇者様なんだからな!」


薄暗い部屋の中で掲げた煉獄の剣が光る。

鈍い銀色の光の中に

シーンとする大鳥使いたち。


パサッ


奥の方から聞こえてきた。


パサッ パサッ パサッ


増える音。


バサッバサッバサッバサッ


それはさらに増え、近づいてきた。


バサッ


数十匹もの濃い紫色のコウモリたちが、レオンを取り囲むように天井にぶら下がる。


「こりゃ一体どうしたことだ…!

普段は昼間には洞窟から出ない大鳥たちが!」


大鳥使いたちはその異様な光景に驚愕した。


紫オオコウモリの中でも、1番大きい群れのボスが天井から降り、レオンの足元を這った。


それはまるで王に仕える騎士のようだ。


「バロンが…。」

群れのボスの名前はバロン。

カカシは黒い帽子を取って頭を掻いた。


「こいつはすげぇな…。ロンドの言うこと、信じるしかなさそうだ!

常に人間を見下ろしている大鳥が膝をつく相手なぞ、伝説の勇者様ぐらいしかいないだろう。


レオンとかいったな、これならバロンが人魚の村まで飛んでくれるかもしれない。


専用の皮があるから、手紙を書くといい。」


「よかった…!」

レオンはカカシからネズミの皮をもらい、手紙を書き始めた。



その夕方、久しぶりに大鳥がコウモリの町の空を飛び立った。


大きく広げると3メートルはある。


人々は一瞬過ぎる影に上空を見上げるのだ。


この町では見慣れた光景なのに、その紫色の姿は、この世の終わりを告知する地獄の使いに見え、皆ゾッとするのだった。



「やっぱすごいじゃん!レオン!」

宿に帰るとさっきまで寝ていたアンナがニコニコしながら言った。


「バロンなら早ければ明日には人魚の村に着いて、明後日にはまたこの村に返事を持って帰るそうだ。」

とロンド。


「ありがとう…。

ロンドとアンナのおかげだ。」

レオンは2人に頭を下げた。


「明後日までは待つしかないから、ボクにできる仕事はなんでもやるよ。」


「それがねー、今は依頼がないんだって。

化け物のせいで不景気よねー」

アンナは大袈裟にため息をついてみせる。


「あ、でも心配しないで。

宿代ぐらい私が稼ぐから!」


「え?依頼もないのにどうやって?」

不思議そうな顔をするレオンを見てアンナとロンドは心底可笑しそうに笑った。


「レオン、あんた本気で言ってんの?

てか今までどんな緩い生活してたの?

私もロンドも、仕事がなけりゃ体売ってんの!」
















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