仮想世界の創造主と少女

@nightec

第1話 /* プロローグ */

 夢の中で、昔読んだ本を思い出した。とりわけ、人生のタメになるありがたいお言葉が書き連ねられているわけでもなく、単なる夢物語を、非現実を書き連ねているだけの娯楽でもなく、どこかわずかな現実味を帯びた夢が書かれた本だった。

 内容はこうだ。

『夢を見ていた少年が、そこで出会った不思議な少女に手を引かれて街や森をただただ歩き、最後に星空を眺めたところで目が覚めてしまい現実に連れ戻される話』だ。こうして書いてみるとどうにも現実味があるようには思えないのだけれど、その時の自分は言葉にできない感覚と現実味に襲われていた。

 未だ夢見心地のままソファーから体を起こす。ソファーはベッド代わりに使うにはあまり横幅がないせいで頭と足がそれぞれ両方の肘掛けに乗るので体が痛い。ぐちゃぐちゃに散らかった自室で机へと向かい着替えもせずに作業を再開する。

 しばらくすると部屋のドアをノックする音が聞こえるが反応するのが億劫になり無視を決め込む。

「せんせー、入りますよー」

という元気の良い声をキーボードのタイプする音しかしない部屋に響かせて一人の青年がやってきた。

「また散らかして。どうして一週間もしないうちにゴミ屋敷になるんですか先生」と呆れられる。

「別に片してくれとは言っていない。とゆうより作業の邪魔になるからどこかへ行ってくれ」

そう適当にあしらうと彼は深々とため息をついた。

「それじゃ、先生に前頼まれていたモノは要らないようですから処分しておきますね」

そんな物騒な言葉が聞こえてしまったら反応せざるを得ない。面倒だがきっと自分は何かを頼んでいたのだろう。何を頼んでいたのかは思い出せないがたしかに頼んだ記憶がある。振り返ると青年はUSBメモリをポケットにしまう寸前だ。

 頼みごとの内容を思い出したのでちょっと待ったと声をかける。

「そういえば、君には政府が提供している人間のデータをまとめてもらったんだったな。すっかり忘れていた」

 僕が今研究、もとい仕事で作成しているのは自身で開発したスナップショットとして政府に現在提供している現実シミュレーティングソフト、《セカンド》である。《セカンド》では現実の物理法則を演算しているだけではない。物理演算シミュレーターならいくばかか昔にすでに作成されている。この自身の開発したシミュレーターは何が違うのかというと現実を『人や動物などの行動の予測までしかできないもの』も含めてシミュレートするところである。

 そこで使用する人間の傾向やその他名前のリストや命名規則のようなものなどありとあらゆる人間に関するデータをまとめられたデータがあまりにもぐちゃぐちゃだったので整理が大好きのようである彼にデータをフォルダに分けたりなどの作業を一週間前くらいに頼んでいたのだ。

「先生が思い出すなんて珍しいですね。本当にUSBを持ち帰ってネットの海にでも垂れ流してやろうかと思ってたのに残念です」

「それは本当にやめてくれ。そんな末恐ろしいことが行われる前に思い出せてよかった」

行政から頂いたそのデータは一般には公開されていないデータであるが故に彼にすら見せてもいいものかイマイチわからないところであるがそこは考えないでおく。

 USBを受け取り、作業に戻る。今日は講義もないので一日をひたすらに開発に費やすことを許されている。

 僕が作業を無言で初めたところでその青年は部屋から静かに出ていった。

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