第23話 大学3回生、9月
9月。
俺と美雨ちゃんとの間に、進展は無し。
美雨ちゃんと、意中の人との進展は・・・不明。
俺自身は、美雨ちゃんの好きな人が誰か、特定出来ていない。
情報も集めていない。
・・・正直、知りたく無い、と言うのが本音だ。
最近、良く考える。
美雨ちゃんが本当に好きなら、美雨ちゃんが意中の人に告白する前に、美雨ちゃんに告白すべきでは無いか、と。
先月、先々月の恋人騒動があって以降、本当に強く思う様になった。
だが、正面からぶつかっても、受け入れてもらえる見込みは、無い。
なら・・・利用できる最大の武器・・・俺と美雨ちゃんを繋ぐ唯一の接点・・・
妹に頼る。
それしかない。
先ずは妹のご機嫌取りからだ。
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「凛夏、相変わらず綺麗だね。流石国民ナンバーワングループのトップを連覇し続けているだけはあるよ」
「あら、お兄、有難う。国民ナンバーワングループのトップなのに、ファンから、代理で出場して貰った事がある友人の事ばかり聞かれるアイドルは私くらいでしょうね」
流石凛夏。
褒められたのを上手く受け流すのに手慣れている。
「凛夏、何か欲しい物は無いか?」
「事務所に問い合わせ殺到してどうしようもないから、美雨のサイン色紙10枚用意して誤魔化す事になったの。貰っておいてくれる?」
何故美雨ちゃん。
そして何故俺に言った。
「美雨ちゃんのサイン、俺が貰える訳無いだろう。それはお前が貰ってくれ」
「ええ・・・じゃあ、お兄のサイン10枚で良いよ。そっちも必要だし」
俺のサイン欲しがる奴はいないよ!
まあ、それで良いなら書くけど。
「で、お兄、何でそんな事言い出したの?何か頼みでも?」
流石聡い我が妹。
全国トップのアイドルグループで不動のセンターを務め、同時に全国模試で2位を叩き出す。
そして水泳で全国大会で優勝。
まさに文武両道、俺には出来過ぎた妹だ。
俺は、心を決めて、告げた。
「凜夏・・・」
「うん・・・?」
「俺は、美雨ちゃんの事が好きだ」
「うん?」
驚愕の事実に驚いた・・・顔では無い。
「俺は美雨ちゃんと付き合いたい・・・だから、仲を取り持ってほしい」
「・・・は?」
妹が真顔で告げる。
俺は察した。
それは、見込みの無い事だと。
「・・・何を言っているの?」
俺は崩れ落ち、目からは涙が溢れてくる。
「え、お兄、何やってるの?!というか、あんたら二人共、私をからかってるんだよね?!よく分からない寸劇に巻き込まれる方の身にもなって?!」
「凜夏・・・俺は・・・どうしたら良いのかな?」
「知らないよ?!どうしたの?何か行き違いでも起きてるの?!直接2人で話して欲しいんだけど!」
酷薄に響く凜夏の声。
「直接・・・俺と美雨ちゃんの関係は知ってるだろ?」
「・・・?そりゃ、全国誰でも知ってるよね」
何でだよ。
スケールでか過ぎるわ。
「俺と美雨ちゃんは・・・妹の親友、と言う、それだけの繋がりしか無い」
「何でよっ」
妹よ、今のは全力でツッコむところでは無いぞ。
妹は深呼吸すると、
「あんたら、本気で言ってるの?私をからかってるんじゃないの?」
「・・・どこにからかう要素が?」
「・・・」
妹はこめかみを押さえながら溜め息をつくと、
電話で美雨ちゃんを呼びつけた。
--
「・・・で、あんた達はお互いが好きで、付き合いたい、と」
「凜夏?!何でバラすの?!」
「おい、凜夏。美雨ちゃんにバレ・・・」
・・・
「あれ、美雨ちゃんも俺の事が?」
「あれ・・・おにーさんも私の事を・・・?」
「もしかして」
「私達」
「「両想い?!」」
「・・・そういう事か・・・言われてみれば、美雨ちゃんが言ってた条件に俺が当てはまるな・・・」
「先輩が言ってた条件に、私、幾つか当てはまります!」
凜夏が呆れた口調で言う。
「いや、多分、幾つかじゃなくて全部当てはまってると思うわ」
美雨ちゃんが頭を振ると、
「私・・・可愛く無いし」
「所属メンバーでも無ければアイドルでも無いのに、総投票の9割集めて毎年大量の無効票出す元凶が何を言うの?」
「私・・・頭良くないし・・・」
「統一模試の全国1位常連だったよね」
「模試は模試だからね」
「国の最難関学部に首席合格したのは誰ですかね」
「運動も得意じゃないし」
「体育の世界大会の多種目で金取ってたよね。普通、置き場所困るくらいの量が無いからね?」
「でも・・・おにーさんより少ないし・・・」
「お兄は比較する事がおかしいから」
何でだよ。
美雨ちゃんがじっと俺を見て・・・
「お兄さん・・・私・・・貴方の事が・・・好きです!」
「美雨ちゃん・・・俺も・・・美雨ちゃんの事が好きだよ」
美雨ちゃんが泣き始めた。
俺も、目から涙が溢れてきた。
嬉しい・・・
「美雨ちゃん・・・俺の彼女になって下さい」
「はい・・・私をお兄さんの彼女にして下さい」
美雨ちゃんが抱きついてきて・・・抱きしめ返す。
「・・・美雨ちゃんのお父さんに、事情を説明すべきだな・・・お父さん、俺を信頼して美雨ちゃんを任せてくれてたんだから」
「・・・私もお義母さんに言わないと・・・」
「やめて?!」
何故か凛夏が止める。
何故だ。
「両親も、世間も、お兄と美雨付き合ってると思ってるんだから。今更改めて報告しても混乱するよ」
美雨ちゃんは困った様に呟く。
「・・・早とちりさんが多いのですね」
「まあ、時期を見て話すとするか・・・」
俺も溜息をつき、言った。
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