第22話 大学3回生、8月

8月。


美雨ちゃんは可愛い。

笑顔は勿論最高なのだけど、慌てているところ、むくれているところ、怒っているところ・・・泣いているところ。

どれも素晴らしい。


そして、今、何故か怒っているようだ。


「おにーさん、どういう事ですか?」


何がだろう・・・


「どうしたの、美雨ちゃん。怒っていたら君の可愛い顔が・・・いや、怒っていても凄く可愛いのだけど」


「えっ、あ、えへへ〜」


嬉しそうにする美雨ちゃん。

本当に表情が豊かだ。


「あ、そうじゃなくて、おにーさん!」


「どうしたの?」


「彼女さんがいるってどういう事ですか!」


勿論、いない。

先月の逆バージョンだな。

何故か根も葉もない噂が立ったのだろう。


「俺がモテないのは、美雨ちゃんも知っているだろ。当然彼女はいないよ」


「先輩がモテない訳無いじゃないですか!」


あれ?


「俺ってモテてるの?」


「そりゃ勿論━━モテる訳無いじゃないですか!先輩には私しかいないんです!」


やっぱりモテないよね。

後、美雨ちゃんも好きな人いるよね。


「とにかく、俺には彼女はいないよ。だいたい、授業以外はほぼ美雨ちゃんと一緒にいるじゃないか」


「それはそうですけど・・・でもでも、噂になってるし、決定的な証拠だって有るんです!」


それは、中庭で撮影された写真。

俺が、青い長髪の女の子と、顔を近づけて・・・キスをしている様にも見える写真。

女の子は、顔が見えない。


「どーですか!」


いや、これは。


「美雨ちゃん、これ、1週間くらい前、さくらんぼの」


「・・・あ、これ私ですか」


「撮られてたのかあ」


ちなみに、種を明かせば、どうということは無い。


さくらんぼの柄を口の中で結ぶ、と言う話題になり。

そこから、美雨ちゃんが舌の上に乗せた柄を俺が結べるかって話になって。

試していた時の写真だ。


大分苦労したけど、何とか結ぶのに成功した。

まあ、つまり、写真を撮った人の勘違い・・・いや、分かっててわざと撮ったのかな?


「あの、もう一つ決定的な証拠が有るんです!」


「どんなの?」


「凛夏に聞いたら、おにーさん恋人いるって!」


「ぶっ」


凛夏よ・・・

何故嘘をついた・・・


「いないよ。何故凛夏が勘違い?をしているのか分からないけど」


多分、騙そうとした訳では無いと思う。


「うう・・・凛夏ぁ・・・私の気持ち知ってる癖に・・・酷いよ・・・」


凛夏は、美雨ちゃんが好きな人知っているのか。


ぽふ


美雨ちゃんが、俺に体重を預け、


「良かったです・・・ほっとしました」


・・・何故俺に恋人がいなくて、美雨ちゃんがホッとするのか。

ひょっとしたら、美雨ちゃんが気づいてないだけで、俺に対しても少し気があって・・・つまり、ワンチャン有るのだろうか?


そっと美雨ちゃんを抱き締める。


いつか、この胸の内を明かしたい、と思う。

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