第21話 大学3回生、7月

7月。


「おにーさん・・・大丈夫ですか?おっぱい揉む?」


「揉む」


俺は、落ち込んでいた。

美雨ちゃんが心配して色々声をかけてくれるが、殆ど耳に入っていない。


「ひ・・・ちょ、お兄さん、もう少し優しく・・・ああ、優しすぎるのもちょ・・・」


こうなった原因は、美雨ちゃんと言えば美雨ちゃん。

いや。

悪いのは、俺の力不足・・・行動力不足・・・勇気不足・・・俺が原因だ。


「あ・・・ちょ、直接・・・」


美雨ちゃんに、彼氏がいる。

それが、俺が今日知った事実だ。


いや、今までも薄々は気付いていた。

気付きたく無かったのだ。


これからは美雨ちゃんへのセクハラは許されないし。

むしろ、今までの様に同じ部屋に住むのも問題が有るだろう。


「おにーさん、聞いてますか?」


「ああ、美雨ちゃん可愛いよ」


「はう・・・」


午後の事だ。

教室で学生達が美雨ちゃんの噂をしていた。

それは日常茶飯事なのだけど。


「おにーさん、おにーさん。聞こえてますか?」


学生の一人が、美雨ちゃんに告白しようとして。


「おにーさん・・・す・き・で・す。大好きです。ラブラブです」


そして、学生達が呆れた様に言ったのだ。


「おにーさん、貴方が好きです。橋場美雨は、朧月誠也が好きです。・・・朧月美雨、うん、良い感じですよね」


美雨ちゃんには、完璧超人の彼氏がいる、と。


そこから後の事は、あまり覚えていない。

ショックのあまり、考えがまとまらないのだ。


「おにーさん・・・へへへ・・・にゅー、ごろごろ」


それでも、聞き耳は立て・・・


他の学生のうわさも聞き・・・


実は、美雨ちゃんに完璧超人の彼氏がいるのは、相当有名な事だった様だ。

各所で当然の様に話していた。


・・・実は、口が硬い友人に、さり気なく聞いてみた。


美雨ちゃんに彼氏が居る、そう言ったらどうする、と。


友人は困惑した様に言った。


知ってる、と。


ふと気づくと、何だか凄い状況になっていた。

あれ、俺、彼氏持ちの女の子に何をやってるんだ。


「わ、美雨ちゃん、ごめん」


美雨ちゃんはぷくーっと膨れると、


「何で謝るんですか」


・・・うん、謝って済む問題じゃないか。


「それより、おにーさん、どうしたんですか?」


「うん・・・実は」


「はい?」


「美雨ちゃん、彼氏が出来たらしいね。おめでとう」


「えええ?!」


美雨ちゃん驚きの声を上げる。


「私はお付き合いしている人居ないですよ。めっちゃフリーです。ウェルカムですよ」


涙目で叫び、俺をがくがく揺らす。


・・・デマ?!


「あれ・・・大学で結構話題になってたけど・・・違ったの?」


「当然です!」


何故か必死に否定する美雨ちゃん。


「・・・そっか、違ったのか・・・良かったあ」


安堵の溜め息をつく。


「そうですよ。まったく、何でそんなデマが出回ったのか・・・」


ぷくーっと、膨れて、


どさ


美雨ちゃんが俺に体重を預けてくる。


・・・


「おにーさん、今、良かった、って言いました?」


美雨ちゃんが俺の目を見つめて言う。

・・・しまった!


「あ、いや、その・・・」


美雨ちゃんは、何故か嬉しそうにすると、


「私、頑張ります」


そう言うと、強く抱きついてきた。

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