第12話 高校3年、12月

12月。

クリスマス。


去年は妹と、美雨ちゃん、そしておまけの俺、3人で過ごした。

今年は、美雨ちゃんは想い人と・・・と思っていたのだけど。

どんな奇跡か、美雨ちゃんと二人きり。


妹は、クリスマスライブなるもので出掛けている。


せっかくのクリスマスに自宅で過ごすのもなんなので、街に出る事にした。

失敗した。

リア充多すぎだろう。


「先輩・・・寒いです」


美雨ちゃんが寒そうにしている。

そう言えば、マフラーしていないな。


「美雨ちゃん、一緒にマフラー使わない?」


「はい、お願いします」


出掛ける前に美雨ちゃんにマフラーを貰ったのだけど。

サイズを間違えたらしく、長過ぎたのだ。

失敗して、てへぺろ、と誤魔化す美雨ちゃんも凄く可愛かったのだけど。

どうしてこんなに可愛い生き物がいるのか。


閑話休題。

美雨ちゃんにマフラーの半分をかける。

自然と、美雨ちゃんが腕を絡めて来た。

マフラーを共有する以上、そうしないと歩きにくいからだろう。

ラッキー。


それにしても、美雨ちゃんは本当に凄い。

今日、いつも以上に可愛い格好をしているせいもあるのか、街ゆく人々が、男女問わず振り返っている。

美雨ちゃんの彼氏になる人は、本当に幸せだと思う。


「せーんぱい、どうしましたぁ?」


美雨ちゃんが小悪魔っぽい顔をしながら、顔を覗き込んでくる。

小悪魔な天使。

当たってるんですが。


「いや、美雨ちゃんは本当に可愛いなって。美雨ちゃんの彼氏になる人は本当に幸せだと思う。そう思ってただけ」


「はわ?!はう・・・」


可愛いらしい声をあげて、抱きつく力を強める。

本当に初心だ。

男女関係を考えるのはまだまだ早いのだろう。


「ねえ、美雨ちゃん」


「は、はい・・・」


「美雨ちゃんの好きな人って、俺━━」


「・・・!」


美雨ちゃんが、まっすぐに俺の目を見る。


「━━の知っている人か?」


「・・・はい」


何故か、しょんぼり垂れた耳と尻尾が幻視された。

これは・・・ここまで一緒に居て、まだそこまでしか特定出来てないと言うがっかり感・・・

やらかした。

言い訳すると、美雨ちゃん、四六時中俺と一緒に居るんだもん。

気付いたら俺を見てるし。

一体誰なんだ?

美雨ちゃんの意中の人は。


俺は、美雨ちゃんが好きだ。

勿論、彼女になったらな、とは思う。

それでも、想い続けている男性がいるのだ。

俺は・・・美雨ちゃんを応援したい。

それが美雨ちゃんの幸せだから。


「ごめん、美雨ちゃん。まだ誰か分かっていなくて・・・教えてくれたら、応援してあげられるんだけど・・・勿論、今の関係、俺には凄く楽しいから、残念ではあるけどね」


「あの・・・駄目です、まだ自信が無くて・・・先輩には言えません」


美雨ちゃんに告白されたら誰でも二つ返事で受け入れると断言できるのだけど。


「せめて、苗字だけでも教えてくれる?」


「朧月です!」


なるほど。

俺と同じ苗字か。

整理しよう。


・俺と同じ高校に通っている。

・俺と同じ部活に入っている。

・俺の所属している模型部は、俺以外は女性だ。

・美雨ちゃんが好きな人の苗字は朧月だ。

・俺の所属している模型部に、朧月という苗字は俺だけだ。

 (ちなみに、妹は別の高校だ)


・・・あれ、何か前提に誤りが無いか?

これだと解が無い。


「・・・名前までは教えて貰えない?」


「すみません・・・苗字までが限界です」


ですよね・・・


思索に集中していたせいか、気付いたら人気の無い公園に入り込んでいる。


「あの・・・先輩・・・」


美雨ちゃんがじっと見上げてくる。


「その・・・将来彼女さんができた時の為に、予行演習、させてあげます」


「予行演習?」


雪が降って来た。

髪の毛に、少し雪がついている。


「はい・・・好きにして、良いですよ」


それは、天使か、悪魔か。

いや、それよりも魅力的な、美雨ちゃんだ。


髪の毛の雪を払ってやり、頭を抱き寄せ・・・そっとキスをした。


ややあって、顔を離すと。

美雨ちゃんは力無く俺に倒れかかり、


「今夜は泊めて下さいね」


そう言うと、顔を擦り付けてきた。

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