第11話 高校3年、11月

11月。

高校の文化祭。

3年生は資料展示、1年生と2年生は模擬店。


俺のクラスは、手抜きで終わらせた。

夏に雑誌に投稿した記事を俺が再編、ポスターにして。

その理論を使ってクラスのみんなが展示物を作り、並べている。

受験生なので、教室に待機して接客・・・といった事はしない。

無論、たまたま自クラスにいる時に質問を受けたら対応するけど(教室の半分は自クラス用の休憩室だ)。


「英語(すみません、マサヤ・オボロヅキはご在室でしょうか?)」


「英語(私です)」


「英語(貴方でしたか、失礼しました。この論文に関して教えて頂きたいのですが)」


やっぱり教室に居ると話しかけられまくるな。

適当に受け答えをする。


「英語(お送りした留学の件、考えておいて下さい)」


訳の分からない事を言って去るおっちゃん。

だからアメリカなんて自宅から通えないから無理だって言ってるのに。


それより、ちょっと早いけど天使に会いに行こう。


美雨ちゃんのクラスはメイド/執事喫茶。

美雨ちゃんは勿論メイド・・・ではなく。


「いらっしゃいませ、旦那様」


天使の笑顔で微笑む美雨ちゃん・・・は、執事の格好。

俺がメイド服を他人に見せる事に難色を示したら、意見が通ってしまったのだ。

ひょっとしたら意中の先輩にアピールする機会だったかも知れないのに・・・

ごめん、美雨ちゃん。

もし意中の先輩を射止められなかったら俺が責任取るよ。

・・・うん、身勝手過ぎるね。


「美雨ちゃん、その姿も美しいね」


美雨ちゃんは俺の耳元で、


「流石に先輩みたいに速攻でセクハラ人は居ないと思いましたが、念の為こちらにさせて貰いました。先輩にはこの姿でも危険なようですけどね」


「いや、だって、可愛すぎて・・・」


「駄目ですよ。後でまた部屋で着てあげますから、此処では我慢して下さい」


美雨ちゃんが困った様に言う。

美雨ちゃんが続ける。


「今まで調理を担当してたんですよ。先輩が来たのが分かったので、調理任せて出てきたんです」


おや?


「何で俺が来る事が分かったんだ?」


「だってそりゃ、黄色い声が・・・じゃなくて、先輩が来る予感がしたんです」


まさかの超能力?!


「でも先輩、約束していたのはもう少し後ですよね。早くないですか?」


「美雨ちゃんに早く会いたくて、ね」


「多分、自教室にいたら、来場者に色々話し掛けられて面倒だったとかですよね」


ぐふ。

流石に鋭い。


「分かっちゃうか」


俺が頭をポリポリ掻きながら言うと、


「はい、分かっちゃいます。何せ大好きなひ・・・ねり餅を昨日食べましたからね」


美雨ちゃんが胸を張って言う。

なるほど。

好物を食べると勘が冴えるのか。

それにしても、やっぱり美雨ちゃんは可愛いなあ。


「お席に案内しますね」


美雨ちゃんが微笑みを浮かべ、手を引いてくれる。

やっぱり天使だと思う。


--


風、無し。

角度、距離、自分の分身たる銃身から感じる・・・威力、誤差、癖・・・

対象の大きさ、重心、そして・・・

世界を流れる気の流れすら把握して・・・

何かが降りてくる感覚・・・いける!


射出。


銃身から放たれた弾丸は、マイクロメートルの誤差すら無く対象に突き刺さり・・・

景品がゆっくりと地面に落ちる。

底に打ち付けてあった釘が舞い散る。


「ば・・・馬鹿な・・・落ちる訳が・・・」


店員の学生が呻く。


「おい、インチキじゃないか!」


客が学生に詰め寄り・・・騒がしくなってきた。


「そのゲーム機、貰って行くよ」


「えっ・・・あ、はい・・・朧月さん流石っす・・・」


店員の学生がゲームを差し出す。


「先輩、凄いです!でも、そのゲーム機持ってますよね?」


「凜夏が欲しがってたからな。美雨ちゃん欲しかった?」


「私も持ってますよ」


美雨ちゃんが微笑んで言う。

やっぱり、凛夏にあげればいいか。


詰め寄られる学生を置いて、美雨ちゃんと教室の外に出た。


美雨ちゃんと一緒に回るのは、俺は楽しいけど、美雨ちゃんは良かったんだろうか。


「美雨ちゃん、せっかくの文化祭なのに、俺と一緒で良かったの?」


「はい、先輩と一緒に回りたかったんです」


天使の笑顔で、美雨ちゃんがそう言い・・・見る見る顔が耳まで真っ赤になり、


「ちが・・・そういう意味じゃなくてですね。何時も先輩と一緒に居るから安心すると言いますか、ずっと一緒に居たいと言いますかですね」


早口で捲し立てる美雨ちゃん。

やばい。

めちゃくちゃ可愛い。


まあ、好きな人と一緒だと緊張するけど、親友の兄となら気を張らなくて良いって事だろうね。


美雨ちゃんの頭をぽんぽん叩き、


「有難う。俺も、美雨ちゃんとずっと一緒に居たいよ。これからも宜しくな」


そう言ってさり気なく肩に手を回す。


「ふみゅう・・・」


逆襲された。

声にならない声を上げて、くてんと頭を寄せ、体重をかけてくる。

可愛すぎる。


周囲の視線が痛かったけど、今は無視。

その後も、文化祭を楽しんだ。


途中の出店でひねり餅を見つけて、美雨ちゃんに話を振ったら、きょとんとされた。

俺は何か聞き間違いをしたようだ。

恥ずかしい。

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