第3話 高校2年、秋

「お兄さん、ここ教えて下さい」


美雨ちゃんが教科書を開いて見せ、尋ねる。

美雨ちゃんも受験生。

俺の部屋で勉強を教えている。


妹に教われば良い気がするが、妹は天才肌の為、分かりにくいらしい。

今は保健体育を教えている。

最近は受験に保健体育が必要らしい。


「ここはね」


教えながら、背後からくっつくように覆いかぶさる。

俺の声は小さいらしく、密着した方が聞き取りやすいらしい。


「ほら、ここが」


「ひゃ?!」


美雨ちゃんが驚いてこっちを見る。

涙目で顔が真っ赤だ。


「お兄さん、いきなり胸を触るなんて・・・本当に変態ですね!」


じろり、と睨まれる。

有難う御座います。

じゃなくて・・・


「いや、分かりにくそうだったから教えようかと・・・」


「それでも、いきなり触ったらびっくりしますよね」


ですよね。


「えっと、じゃあ、触るぞ」


「え」


・・・


「まあ、このあたりの記述が」


ややあって、説明を再開する。


「・・・説明止まってましたよね。お兄さん、触りたかっただけじゃないんですか?」


蔑んだ目、継続中。

それにしても大きくなったなあ。


昔、知り合って間もない頃、大雨が降ったとき、偶然に偶然が重なって、一緒にお風呂に入った事があった。

まあ、妹とお風呂に入るのの延長線上だ。

もっとも、妹と最後に入ったのは俺が小学校低学年の頃までだけど。


「いや・・・あくまで説明の為に」


優しい親友のお兄さん、の立ち位置を崩す訳にはいかない。


「保健体育以外の教科は良いの?」


「ですね・・・今のところ、間違える頻度は激減してきました。本番の緊張感の中でどれだけ取れるか分からないのですが・・・」


確かに。

俺も、何時もなら解ける問題逃したしなあ。


「そうだな・・・緊張感か・・・間違えたらペナルティをつけるとか・・・」


美雨ちゃんがきょとんとする。


「ペナルティですか?」


「ああ・・・間違えたら、服を1枚ずつ脱いでいくとか」


あ、また蔑んだ目。


「お兄さんは本当に変態ですね。お兄さんが私の裸を見たいだけじゃないんですか?」


「いや・・・あくまで緊張感を・・・」


何とかそう言うと、美雨ちゃんは溜め息をつき、


「分かりました。逆にお兄さんを裸にしてあげますからね」


睨まれた。

俺も脱ぐの?!


「さあ、問題を出して下さい」


--


「うう・・・本当にちゃんと学習範囲から出していますか?」


下着に靴下だけという格好で、美雨ちゃんが涙目で睨んでくる。

あれ・・・ちゃんと学校の教科書に書いてある範囲なのだけど。

思ったより緊張感を与えられているようだ。


靴下は最初に脱ごうとしたのだけど、冗談で不満気にしたら、残してここに至る。

・・・なんか、逆にえっちな。


「どうする美雨ちゃん。これ以上は後が無いよ。そうだね・・・脱ぐ物がなくなったら、触らせて貰おうかな」


いや、どう考えても、今の時点で終了、で良いんだけどね。

これ以上脱いだら下着すら脱ぐ事に。

靴下はあるけど。


「・・・変態、変態、変態」


手で隠しつつ、睨まれる。


「次の問題を早く出して下さい」


続けるの?!


「えっと・・・じゃあ・・・8✕9は?」


徐々にレベルを下げ、ついに九九に。

キミ、この前全国模試で上位取ってたよね?


「・・・64ですか?」


間違うの?!


「72です」


「う・・・」


美雨ちゃんが泣きそうな声を出す。

そして・・・ブラに手をかける。

靴下じゃなくていいの?!


手で隠しつつ、睨んでくる。


「次は間違えないですからね」


--


「うう・・・もうお嫁に行けないよお・・・」


美雨ちゃんが泣きながら服を着ていく。

結局靴下は脱がなかった。

美雨ちゃん凄く可愛いから、争奪戦起きてそうだけど。

まあ、今は勉強を優先したいらしい。


「嫁の貰い手がなければ、責任取るよ」


ぽんぽん、と頭に手を乗せると、


「約束ですからね」


赤い目で睨んでくる。

いや、絶対モテるから大丈夫だよ。


思えば、この日が美雨ちゃんにセクハラした最初だったと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る