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「そうでしたか」

 一瞬反応が遅れてしまったのは表情からしてもっと暗い話だと思っていたらまさかの恋バナだったから。伏せていたのはただ恥ずかしかったからなのか。

「その人はいつも通勤の電車が同じ時間で同じ車両に乗る人なんです。俺よりも先に電車に乗っていて、俺の方が先に降りるのでどこに住んでいてどこで働いているのか分からないんですけど、いつも同じ車両なんです」

「運命、ですね」

 電車なんてド田舎じゃないんだから頻繁に来るのに全く同じってちょっとくらいそう思わない?

「いや、さすがにたまたまでしょう。いつもと同じ時間じゃない時は会わない時もあるし」

 なぜか急に俺だけ現実に戻された感ある。良いじゃん、毎朝見かける人に運命感じても。

「あ、でもこの間遅刻しそうになった時、急いで電車に飛び込んだら、なぜかそこにその人もいて目が合って」

 そこまで言って彼は小さく笑みを零した。

「二人して笑ったんです。笑ったって言うか微笑んでくれたって言うか。多分彼女も遅刻しそうだったんだと思います」

「そんなことが。それじゃぁ彼女もカシノさんの事をご存じなんですね」

「どうでしょう? 本当に急いで飛び込んだから笑われただけかもしれません」

 そんなネガティブにならなくても。もしかしたら彼女も気になっているかもしれないよ? なんて。

「そんなことないですって」なんて言葉が続くと思ったのに。

「気になってくれていると思いますか?」

 なんてカシノさんったら急に浮ついた声で言うんだもん。ちょっと笑みが零れてしまいそうになるわ。

「かもしれませんよ」

 少なくとも毎朝同じ電車を使う人だってことは知っているみたいだし、目が合って微笑んでくれたんだし。

「機会があったら声を掛けたいな、とは思っているんですけど。どうやって声を掛けたらいいか」

 うーん、確かに困るよな。話しかけるタイミングなんてそうそうないし。

 でも、そんなこと言ってちゃ前にも進めないし。

 ネガティブな感じだったのに実はやる気があったなんてこっちとしても応援したくなっちゃうじゃん。

「何か良い方法を一緒に考えましょう。ベタですけどハンカチを落とすのはどうです?」

「それって男がする場合どうなんでしょう?」

 え、ダメかな?

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