2-tone

カゲトモ

1ページ

「俺、変じゃないですか?」

 時計は零時を過ぎて店内に流れる空気がゆっくりになった時。カウンターに腰かけていた男性が小さな声で問いかけて来た。

「いいえ、素敵ですよ」

「そんな、お世辞は辞めてください」

「そんなことは」

 本当にないんだけどなぁ。半袖のシャツにはセンスの良いネクタイを締めているし、胸板だって程よく筋肉が付いているし、ひげも綺麗に剃られているし、髪も爪も手入れがされているのが良く分かる。いつもと変わらず、カシノさんは清潔感があって素敵なリーマンって感じだけど?

「こんなの、どんな会社にでもいるでしょう?」

 うぐ。そう返されると笑顔で口を紡ぐことしか出来ない。

 この国でリーマンとして働くなら一定の規則は必ずあるもの。清潔感が感じられなければ採用すらされないかもしれないし、指導が入るはずだ。社員は会社の名前も背負っているのだから。

「その辺にいるサラリーマンAとかじゃダメなんです」

「ダメ?」

「何かインパクトがないと」

「いったいどうしたんです?」

 カシノさんは深刻そうな顔で考えるように視線を逸らした。

 なんだ、どうした。来店した時は多少お疲れモードだったけど、ここまで暗い顔はしていなかったような・・・?

「実は」

 沈黙を破ったのは苦い声だった。

「・・・一目ぼれした女性がいて」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る