2-tone

カゲトモ

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「俺、変じゃないですか?」

 時計は零時を過ぎて店内に流れる空気がゆっくりになった時。カウンターに腰かけていた男性が小さな声で問いかけて来た。

「いいえ、素敵ですよ」

「そんな、お世辞は辞めてください」

「そんなことは」

 本当にないんだけどなぁ。半袖のシャツにはセンスの良いネクタイを締めているし、胸板だって程よく筋肉が付いているし、ひげも綺麗に剃られているし、髪も爪も手入れがされているのが良く分かる。いつもと変わらず、カシノさんは清潔感があって素敵なリーマンって感じだけど?

「こんなの、どんな会社にでもいるでしょう?」

 うぐ。そう返されると笑顔で口を紡ぐことしか出来ない。

 この国でリーマンとして働くなら一定の規則は必ずあるもの。清潔感が感じられなければ採用すらされないかもしれないし、指導が入るはずだ。社員は会社の名前も背負っているのだから。

「その辺にいるサラリーマンAとかじゃダメなんです」

「ダメ?」

「何かインパクトがないと」

「いったいどうしたんです?」

 カシノさんは深刻そうな顔で考えるように視線を逸らした。

 なんだ、どうした。来店した時は多少お疲れモードだったけど、ここまで暗い顔はしていなかったような・・・?

「実は」

 沈黙を破ったのは苦い声だった。

「・・・一目ぼれした女性がいて」

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