第36話 『勇者の採取』

 

 朝食を取り終えた勇者たちは、宿を出てすぐのところで集まっていた。



「昨日連絡したと思うけど、今日は薬草採取をするわ」



「はい!」



 比奈が生徒のように手を挙げる。先生役はアイリスだ。



「何かしら?」



「薬草なんて見分けられません!!」



「……私も……」



「それは大丈夫よ。こちら側と二人組で探してもらうから」



「こちら側」というのは元からこの世界にいた住人ということだろう。

 それを聞いた比奈は納得し、手を下ろす。



「それじゃあ組を言うわね。えっと――ちょっ!?」



 アイリスは懐から一枚の紙を出し、読み上げようとしたが、その前に湊にとられてしまった。そしてそれを湊が代わりに読み上げる。



「俺とメルティア、アイリスと美月、比奈とリーベルトな」



「か・え・し・な・さいっ!!」



 アイリスが途中、掴みかかってくるも、難なく躱して続ける。側から見るとアイリスは猫じゃらしで遊ばれている猫のようだった。



「散策する場所は……アイリス班は川沿い、比奈班は森の奥、そして――俺たちはベッド周りだ!!」



 そう言うと同時にメルティアと肩を組む。しかし、紙を狙い撃ちしていたアイリスによって頭を叩かれた。



「ちゃんと探せ!!」



「エロ本をか?」



「ああぁ〜〜〜、もうっ!! 宿から離れなさいって言ってるのよ!!」



「なんだ変わって欲しかったのか……すまないメルティア、アイリスと変わってやってくれ」



 湊の言葉でずっと聞きに徹していた比奈が誤解し、少し泣きそうな声で呟く。



「え? そ、そんな……アイリスさん、湊さんと寝たかったんですか……」



「変な言い方しないで! 誤解だし! メルティア班は昨日登ってきた方角よ!!」



 これ以上疲れるのは嫌だと言わんばかりにアイリスは無理矢理話を終わらせた。美月、メルティア、そしてリーベルトの三人はその様子を不憫に思いながら見つめている。



「それじゃあそれぞれ別れなさい」




 ーーーーーーーーーーーー


 別れた後、湊とメルティアは昨日登ってきた道を今度は下っていた。

 道中襲ってきた魔物は全てメルティアが倒しており、湊はお荷物係をしていた。



「性女様〜。そろそろ森入ろうぜ?」



「聖女です。まあ、そうですね。探索を開始しましょうか」



 メルティアは湊の軽いジャブを躱しながら、森の中に入っていった。その後ろに湊もついていく。


 森の中は魔物が生息しているからか、そこまで草が生えているわけでもなく、さっきのデコボコ道より少ししんどい程度だった。



「――あっ! ありました! これです」



 薬草は意外とすぐに見つかった。見た目は普通の雑草とあまり変わらず、違いは少しだけ緑が深くて綺麗というぐらいだった。



「ふむ。ではこれは?」

 


「それは雑草です」



「これは?」



「それも雑草です」



「これは?」



「雑草です」



「これは?」



「雑草」



「これは?」



「ざっ――じゃなくて薬草です」



 五回目にしてやっと見つけることに成功する湊。

 適当に渡していたので、メルティアもまさか本物があると思わず、ついつい雑草と言いそうになってしまった。



「ついでにこんな物も拾ってきたぞ」



 そう言って湊が見せた物は――



「――それはっ!? …………なぜあなたがもっているのですか?」



 ――手にはおパンツが握られていた。



 メルティアは絶対零度の目線を向けている。


 しかし、効果はいまひとつのようだ。


 湊はパンツをメルティアの顔に投げつけた!


 メルティアはそのパンツが誰のものなのか理解した!



「これ、ユタさんのパンツですね……」



「――ぐはっ!?」



 ユタさんの精神攻撃!


 効果は抜群のようだ。


 勇者ミナトは倒れた。目の前が真っ白になった。



「俺のことはいい……だから回復薬と財産半分置いて先に行け!!」



「湊さん……」



 湊の自己犠牲の精神にメルティアは感動している――



「――訳ないでしょう!! いい加減にしてください! 仮にも自己犠牲の精神をするなら何も要求してはいけません。わかりましたか?」



 いつものノリでしたおふざけは、何故か別方向の説教をくらうはめになったのだった。



「それにしても、いつのまにそんなもの盗ってきたんですか?」



「森に落ちてた。これホントだぞ」



 意外にもこれは事実だった。

 薬草を探している途中にパンツが見つかったときは、さすがの湊も驚愕した。どうしてこんなところに落ちていたのか、という疑問も当然浮かんだ。



「はぁ……まあ、ユタさんならありえますね」



「そうなのか?」



「あの方は下着姿で森の中の魔物と戯れたり、木々をなぎ倒したりしていますからね」



「うわぁ……」



 ついつい想像してしまう女性用下着姿の漢(実際には女)。その漢がその状態で生き物たちと触れ合い、また、怪力によって木々をなぎ倒していく……



「悪りぃ、ちょっとトイレ……!」



「わ、私もです……ちょっと刺激が――うっ」



 二人とも口を押さえながら、速やかにお互いの位置が確認できない位置まで移動し、汚れた滝を流すのだった。



 それから数時間後、昼が少しだけすぎ、集合時間に遅れないように湊たちは再び登っていた。



「それにしても採れましたねぇ」


 

「そうか?」



「はい、そうです。何故かあれから湊さんが持ってくる草が『薬草』か『毒草』のどちらかでしたし……あれ、ワザとですよね?」



「イヤイヤ、そんなわけでないだろ。いくら間違って毒草使っちゃったヤツが見てみたいと思っていても、メルティアが自信満々に薬草と間違えるところを見てみたいと思っていても、実際にやるわけないことはないじゃないか」



「つまりワザと、なんですね?」



「すんませーーーーん!!」



「はぁ……まあ、間違うことがなかったのでよしとしましょう」



 湊の軽い土下座は目にもくれず、メルティアはそのまま山道を登っていった。道中の魔物掃除は相変わらず全てメルティア任せであり、湊が戦ったのはすでに瀕死のゴブリンだけだった。 



「フハハハハッ! 我に逆らうとは……命知らずなゴブリンめ! ここで成敗してくれる!!」



「ぐ、グギャーーーー!!」



 ゴブリン一体に壮大で時間のかかる戦闘をする湊に、メルティアのため息を吐いている。

 湊は死にかけのゴブリンの腹を踏み潰す。なんだかとてもゴブリンが可哀想な絵面だった。


 結局瀕死のゴブリンを倒すのに五分近くかかっていた。本来なら首をはねるだけで終わる作業なのだが。



 この後、メルティアの命についての説教をくらった湊であった。

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