第24話 『聖騎士の自白』
次の日、朝食にはいつも通りの面子、つまりアイリス、メルティア、湊、比奈、そして美月がきていた。そのことにアイリスとメルティアは顔を綻ばせており、比奈は少しだけ照れていた。
「昨夜はお楽しみでしたね?」
「――ちょっ!? なんで知ってるんですか!!」
「……比奈、その言い方はまずい……」
「ち、違いますからね! 私たちは別に何もしてませんからね? 私が好きなのは――って何言わせるんですか!!」
勝手に自爆している比奈を面白そうな顔で見ながら、湊はアイリスのスープに自分のパンをつけて食べる。あまりそういう話に耐性がない王族貴族のアイリスとメルティアは、顔を赤くして横を向いており、湊の行為に気づいていなかった。
「お、おほんっ!! ……あの後のことについて、報告させていただいてもいいですか?」
「え、ええ。お願い」
「アイリスの味がする」
湊は顔が赤いままのアイリスに頭を殴られた。何も言わないのはメルティアの話を聞きたかったからだろう。
「あの後、村長の報告によりますと、最近引っ越してきた娘が一人行方不明になっています」
「まさか、オークに……」
「いえ、戦闘終了時にはまだいたらしいので、別の理由だと思うのですが、まだ詳しくはわかっていません」
メルティアは比奈の不安を和らげるつもりで言ったのだが、結局のところ行方がわかっていないので不安なのは変わらなかった。
(あの妙に魔力纏っていたヤツか……追跡魔法かけとくべきだったか……)
湊は言われずともだいたい誰かわかっていた。そして、その人物が姿を偽っていたことも。
しかし、その場での優先事項として低かったので放置していたのだが、今回それが裏目に出た。
「村はすでに建て直しを始めており、一カ月ほどで元に戻る見込みです。多少防衛面での強化はしてありますが……」
「バランさんたちはどうなったんですか?」
「それは冒険者ギルドの管轄なので、まだわかっていません。おそらくランクが上がるか特別報酬を貰うのでしょう」
「それで? オークキングが森の奥から現れた理由はわかったの?」
アイリスの言葉で全員がメルティアに目を向けた。それは湊も例外ではなく、メルティアはいつも以上に真剣な顔で答える。
「昨日、Aランク冒険者に森の調査を依頼したところ、オークキングの住処らしき場所が壊されていました。犯人がこの街の方に逃げた痕跡が残っていたそうです」
「わざとってことね……」
「……娘、怪しい……」
「私もそう思います!」
メルティアも二人の勇者たちと同じ意見なのか、コクリと頷いた。
アイリスは少し考え込む仕草をし、まとまったのか口を開いた。
「その娘、キラ傭兵団のメンバーの可能性が高いわね」
「キラ傭兵団!? まさか、そんな……彼らにかぎって……」
「いや、あなた知らないでしょうが!!」
アイリスのツッコミが比奈に入る。
この中でその傭兵団について知っていたメルティアが、詳しく知らない湊たちに説明する。
「彼らは、このセントリア王国を憎んでいます。そのメンバーは全員、この間死刑されたある馬鹿貴族によって、平和な生活を脅かされた者たちなのです」
「でも、なんでそれだけでそのキラ傭兵団のメンバーだってわかるんですか?」
「魔族の場合、魔法職業の者は簡単に正体を見破れるのよ。それに、他の国は魔族たちと戦ってあげているこの国の戦力を削るような真似はしない」
「キラ傭兵団の場合、危険をものともしませんから。全てを、命さえもこの国を滅ぼすことに賭けていますので……」
食事の間全体に静寂が広がり、暗い空気となった。
しかし、そんな空気をものともしない男は気にせず食事の続きを始める。もちろんアイリスの皿にある……
「ちょっ!? なんで私のを食べるのよ!!」
「俺の朝食がなくなったからだ」
「それじゃあ、おかわりしなさいよ!」
「そんなの持って来させるの料理人に迷惑じゃねーか」
「私の方が迷惑かかってるんだけど!?」
「アイリスさん、高宮くんはさっきの真面目な話し中も食べてましたよ。真剣な話だったんで黙ってましたけど……」
アイリスがキッと湊を睨んだので、湊はアイリスの皿の上に食べさしのパンを置く。
「ほら、残飯だ」
「抑えるのよ、私。ダメよ、魔族との戦いが終わるまで全力はダメよ……」
アイリスは自分の右腕を抑えながら、自分に言い聞かせるように呟く。その格好をお仲間だと勘違いした比奈が、興奮気味に言う。
「アイリスさん、まさか右腕に何か封印してるんですか!? もう一人の自分とか、闇の力とか!!」
「はぁ……なんで朝からこんなに騒げるんでしょうか……」
「……同意……」
三人のやりとりを見て、メルティアと美月は疲れた表情で呟いた。
この後、数分カオスなやりとりが続き、昨日のことで今日は仕事が多いのか、勇者全員が自由行動となった。
比奈は午前中は美月と訓練をするらしく、訓練場に向かった。比奈が帰ってきたことはリズにすでに伝えてある。
湊は一旦部屋に帰り、数分した後、ナナを連れてアイリスのいるであろう事務室に向かった。中からはペンをはしらせる音が聞こえており、アイリスがいることはすぐにわかった。
湊はノックをするも、返事を待たずに中に入っていった。
「邪魔するぞ〜」
「何かようかしら? 私は忙しいから用があるなら手短にお願い」
アイリスは書類に目を通しながら、めんどくさそうに言った。ナナはそれに少しムッとするが、さすがに王女に対しては何も言えなかった。
「そんじゃあ手短に、ナナ、お前もそっちに立て」
「わ、私ですか?」
突然声をかけられたナナは、驚きながらも素直に指示に従い、アイリスの近く、湊の前に移動した。アイリスもその指示に疑問を顔に浮かべている。
「二度は言うつもりないから、黙って聞いとけ」
湊はそう言った後、
「「――っ!?」」
深く頭を下げた。
「今回はお前らが来てくれて本当に助かった。ありがとう」
その後湊はすぐに顔を上げ、部屋を退室していった。
残った二人は、唖然としたまま、アイリスは手に持っていた書類を机に落とし、ナナは顔を徐々に赤くしていった。
「…………誰?」
「夢、なんでしょうか?」
少し抱えている思いの違いはあれど、二人とも今起こった現実が信じられなかった。
その後、上機嫌で廊下を歩くナナを見た他のメイドたちは、それこそ夢を見ているかのような顔をしていたのだが、ナナがそれに気づくことはなかった。
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