第22話 『聖騎士の技名』

 

 バランと比奈は、オークキングとの命のやり取りが終わり、緊張の糸が切れたのか、立ち上がることができなくなっていた。メルティアはそんな二人に回復魔法をかけにくる。



「比奈さん……よく、戦ってくださいました……」



「へへへ……私の聖剣、見ましたか? すんごい光を纏ったアレがバーストしましたよっ!!」



「ばーすと? とは何かわかりませんが、神聖な光を纏った剣は見ました。素晴らしかったですよ」



 比奈の言う単語の一部が理解できなかったメルティアだが、わかった部分だけを切り取って言葉を返し、比奈を褒め称えた。

 その様子を見ていた湊はなぜか眉をひそめる。



「佐々木……必殺技に名前をつけるのは常識だろう。まさかつけていないのか?」



「はっ!? そうでした!! ……〝ほわいとあるてぃめっとわんだふるくらっしゃー〟はどうでしょう?」



 湊のふざけた疑問に、真剣な顔で答える比奈。

 メルティアとバランは、この光景をなんとも言えない顔で見ていた。

 湊もまさか真剣に答えられるとは思っていなかったのか、一瞬惚けた顔をするも、すぐにノリにのる。



「長いっ!! 言い切る前にやられるから、ここは略して〝とあるくらっしゃー〟でどうだ?」



「それじゃあ、何のクラッシャーなのか全然わかりませんよ……」



 湊の考えた、というかただ比奈の考えたものを略しただけの名前に、メルティアは思わず呟いてしまった。


 バランと比奈の治療は完全に終わっているのだが、どうやら腰が抜けて動けないらしく、二人とも立とうとはしない。バランは、寝転んでいたのを座り直している。



「略すなら〝ホワイトクラッシャー〟でいいだろ」



「なん……だと……!」



「バランさん……天才ですか!?」



「これで天才になるなら世の中の人間、すべてが天才だよ」



「わからなかった俺が天才なのだから、確かにお前は天才ではないな……よっ! 凡人!!」



「あんた、よく初対面の相手に対してそんなこと言えるな……」



 バランは呆れ顔でそう言うも、その声音はどこか楽しそうだ。さすがにこの会話には比奈も苦笑をしている。メルティアはそんな三人を温かな目で見ていた。


 しかし、平和な時間はすぐに過ぎ去る。



「うわぁーーーーーっ!!」



「「「「――!?」」」」



 オークの残党を狩っていた一人の冒険者が、オークによる突進で吹っ飛んだのだ。それだけなら問題はあまりないのだが、それによって湊たち四人の注意はオークの残党の方に向いた。

 そこでは、オークたちが全く怪我を恐れずに、ひたすら冒険者たちに攻撃を仕掛けていた。暴走していたのだ。


 ただのオークぐらいなら冒険者たちに任せてもいいだろうと考えていた湊の考えは、予想外の方向に外れてしまっていた。



「た、助けないと――あれっ?」



「腰が抜けて……立てねぇ……くそっ、情け無ぇ」



「くっ! ……私ももう魔力が残ってません……」



 二人はオークキングとの戦闘で腰が抜けて、メルティアはそんな二人や村人たちに回復魔法をかけ続けたせいで魔力が無くなり、オークたちと戦うことができなくなっていた。



(俺の読みが甘かった! くそっ……ここで俺が全員とこっそり戦うか? いや、それは確実にバレる。そんじゃあ、どうするのが一番だ? それはやっぱり俺が……)



 湊は結局、自分が戦うことを選択した。その顔には、珍しく冷や汗が流れていた。

 しかし、湊が行動を起こそうとしたその時、オークたちの上に炎でできた大量の槍が降り注いだ。



「「「「グオォーーーー!?」」」」



 その場にいた全員が驚愕する中、炎の槍を受けてなお生き残っているオークを、一人のメイド服の女性が確実に殺していく。


 わずか数分で暴走していたオークたちは片付いた。

 そして、メイド――ナナと、ローブの隙間から少しだけ金髪が見えている女性が湊たちの前にやってきた。



「湊様っ、無事でしたか!?」



「あ、ああ」



 ナナは非公式ではあるが、王女の前だということも忘れ、瞳に涙をためて湊に抱きついた。それを見た比奈は頰を膨らまし、メルティアは赤面する。



「ほとんど終わっていたみたいだけど、城に戻ってことの顛末を聞かせてもらえる?」



 ナナと一緒にいるということと、少しだけ見えている金髪でわかっていたのか、声がアイリスのものであることに誰も驚かない。

 先程までその場にいたバランは、既にパーティの仲間たちの手によって別のところに移っていた。



「そうですね。村の人や冒険者の方たちの注目も集めてしまっていますし」



「俺の顔に見惚れているな」



 メルティアの言葉通り、湊たちは、オークたちを倒した、村の危機を救ってくれた恩人として注目を集めつつあった。


 普段通りのふざけた言葉に、アイリスはツッコミを入れそうになったが、実際、周りを見渡すと数人の女性が湊に見惚れていたので何も言えなかった。



「……はぁ……でも、比奈を説得してくれたわけだし、まあいいでしょう……」



「何がだ? 俺は佐々木の頭の上に蜜柑を置いて俺の代わりに命をかけて戦うよう言っただけだぞ?」



「何やってるのよ!! 言ってること最低よ!?」



「お前は男だから戦えというのか? この男女差別者め!!」



「男以前に人として最低だって言ってるのよ!!」



「あっ、これその時の蜜柑です。どうぞ」



「いらないわよ! そんな傷みまくった蜜柑!! なんでポケットに入れて持ち歩いてるのよ!?」



「アイリス王女、秘密で抜け出してきているので、もう少し声を……」



 湊と比奈の言葉にツッコミを入れ続けたアイリスは、ナナに言われてハッと思い出したように静かになる。その直前、湊を睨むことも忘れなかったが、睨んだ先はニヤニヤとした顔があり、余計に疲れが溜まっただけであった。


 湊たちは会話をしながらも城に向かって歩いており、途中からアイリスとナナがいつもと違う道に進んだことで、比奈とメルティアは疑問を抱いた。



「いいのか? 隠れ家、俺たちに教えて」



「いいのよ。あなたたちなら信頼してるわ……――って、なんで知ってるのよ!?」



「城の中は暇な時に調べてるからな。隠し金庫の場所とかも知ってるぞ」



「ちょうど今信頼できなくなったわ……」



 アイリスは眉の間を指で押さえながら言った。

 比奈は城の中に、他の隠れた神殿とかがないのか聞いており、ないと知って落ち込んでいる。それによって湊のことがさらに信頼できなくなったアイリスであった。

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