第20話 『聖騎士の参戦』


オークが暴れているところは騒ぎになっており、その方面から逃げてくる人々がいたので場所に迷って困ることはなかった。


五分ほど探すと目的の村に到着し、そこでは三パーティくらいの冒険者たちが数十体のオークと戦っていた。地面に倒れているオークの数を見ると、かなりの時間戦っていたようで、冒険者たちはかなり劣勢になっている。



「城の方はとうぶんこないか……佐々木! 怪我は気にしないでいい……存分に俺強え〜してこい!!」



「だから恥ずかしいって……でも、ありがと……」



比奈は頰を膨らませた後、湊に小さな声でお礼を言って冒険者たちの助けに向かった。流石聖騎士というべきか、その力は他の冒険者たちと一線を画していた。



「さて、メルティアを探すか」



湊は破壊しかかっている家のうち、まだ中に入ることのできる家の中を確認していく。誰も見ていないことがわかっているからか、途中で邪魔をしてくるオークは光魔法で瞬殺していく。

四軒ほど探した時、やっと数人の村人を治療しているメルティアを見つけた。



「無事だったか?」



「湊さん!? ええ、傷は浅かったようですから」



湊はメルティアの無事を尋ねたつもりだったのだが、どうやらメルティアは村人たちの安否についてだと勘違いしたらしかった。メルティアの無事は見たらわかったので、湊はそのことについてそれ以上何も言わなかった。



「なぜこんなに早かったのですか? 城までは大分距離があったと思いますが……」



「城じゃなくて宿に行ってたからな」



「なっ!? 今の状況わかっ……いえ、すいません。何をされていたのか聞いてもいいですか?」



メルティアは湊の言葉に激昂しかけたが、最近の出来事を振り返り、自分が怒って間違ったことの方が多かったことを思い出した。



「聖騎士の頭に蜜柑を置いて俺の代わりに戦闘を強要してきた」



「「「「・・・・」」」」



周りで話を聞いていた村人たちは唖然としている。メルティアは頭を抑え、「推測しろということですね、そうなんですね?」と、現実逃避気味に呟いている。



「あと、二人で一緒になんたら〜とか?」



「なっ!? 不潔です!!」



「――ぶへっ!?」



湊の間違ってはいないがところどころ抜けまくっている説明を聞いたメルティアは、何を勘違いしたのか赤面した顔を片手で抑えて湊の頰をひっぱたいた。

村人の中の女性も同じように顔を赤くしている。ただ、一人年配のお婆ちゃんは「若いねぇ」と、微笑ましそうにしながら呟いた。



「そ、それで……比奈さんは来てくれたのですか?」



「ああ。外見てみな。俺強え〜してるから」



「俺、なんですか?」



俺強え〜を知らないメルティアは、不思議そうにしながら外の様子を確認する。なぜ比奈の居場所についてわかったのかは、答えてくれないとわかっていたのか、湊が質問されることはなかった。



外では、先ほどまで冒険者たちに猛威を振るっていたオークたちの死体がそこら中に散らばっていた。そして比奈は現在、絶賛オークたちの中心で暴れまわっている最中である。



「冒険者ってのはあんなに少ないもんなのか?」



「いえ。この近くにたまたま通りかかった、心優しい冒険者パーティの方々が手助けをしてくださっているのです。ギルドは王城以上に離れていますから」



「なるほど」



「城の救援はナナさんが向かったんですよね?」



「ああ。けど、到着前に終わりそうだけどな」



湊が向ける目線の先に、一体のオークが飛んでくる。その体からは大量の血が流れており、何もしなくても死にそうだ。

湊はそのオークの傷を無言で踏みにじる。



「グオオォーーーー!!」



オークは泣き叫んで数秒した後、ピクリとも動かなくなった。メルティアたちは家の中に戻っていたのでその様子を見ていない。



(人間も殺せたんだし、当たり前か……)



湊は、オークで自分が魔物を殺すことに忌避間を感じるのか試したのだ。結果は殺す前からわかっていたのか、当然という顔をしている。

比奈の方も大丈夫だろうと思い、家の中に入ろうとしたその時……



「グオオォォオーーーーーーーー!!!」



凄まじい怒号が村全体を覆った。

その叫びによって、元々壊れかけだった家は次々と崩壊していく。メルティアたちも、安全を確保するために家から出てきた。



「――!? オークキングじゃねーか!! なんでこんなとこにいんだよ!!」



冒険者の一人がそう叫び、それを聞いた他の冒険者、そして村人たちが絶望の顔をする。比奈もオークキングについては習ったのか、緊張感を持ち始めた。


オークキングとはAランク上位の魔物で、あまり森の奥から出てくることはない。基本、現れたらAランクの数パーティで討伐にあたる魔物なのだ。



「グオオォーーーー!!」



オークキングは一番近くにいた女の冒険者を、手に持っていた太い木の棒で殴ら飛ばした。なんとかガードは間に合ったようで、致命傷にはならなかったが、女の冒険者は体が痺れて動けない。



「クラウン、俺が注意を引きつける! その間にメリーを頼む!」



吹っ飛ばされた女の冒険者と同じパーティらしき男が、もう一人の仲間にそう言い捨ててオークに火魔法で火の粉を飛ばす。注意を引きつけるためだからか、威力はほとんどない。



「こっちだ化け物!!」



「私も加勢します!」



注意を引きつけている冒険者の隣まで跳んで、比奈は剣を構えながらそう言った。その間にクラウンは動けなくなっているメリーを救出する。



「クラウンさん! こちらに!」



メルティアはメリーを肩に抱えて走っているクラウンにそう呼びかけた。聖女だけあって、冒険者に対する顔は広く、クラウンは素直にその言葉に従ってメルティアの方に向かった。



「ここに寝かせてください。表面上の傷は少ないですが、中がボロボロですので、早く治療しないと……」



「お願いします。俺はバランの援護に!」



「了解しました。お気をつけて」



クラウンはメリーを寝かせた後、オークキングを引きつけているバランのもとに向かった。しかし、途中でオークが邪魔をしてうまく進めない。


メルティアは、メリーに回復魔法をかけながら湊を目で探していた。

メルティアの知る限り、湊に戦闘経験をさせたことはない。いや、一度だけあったが、それは相手が戦わない人間だった。だから、オークたちと冒険者たちの戦闘に巻き込まれていないか心配だったのだ。



(無事だといいのですが……)



治療が終わったメルティアは、両手で首にかけている十字架を握りしめながら深く目を閉じ、神に祈りを捧げた。

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