第13話 『魔王の初戦』
第三部隊が行動を起こして数時間が経った頃、ヌフの森ではダユラが無数の人族たちと戦っていた。否、殲滅していたと言った方がただしいかもしれない。戦闘はそれほど圧倒的であった。
ダユラが通過したところには人族の死骸が残り、ダユラの前方には恐怖しながらも立ち向かおうとする人族の兵士や冒険者たちがいる。戦闘に関してどこまでも純粋なダユラは、そんな人族に対し、敬意を抱いて殺していた。
「はははははははっ! もっとつえーやつはいねーのかーー?」
「「「「ーーぐわーっ!?」」」」
「くっそ! 立て直せーー!!」
「救援はまだか!?」
「そんなものすぐはこねー! ここは最前線だぞ!」
次々と人族がやられる中、指揮官らしき人物は叶わぬ願いを口にした。しかし、同じく副官らしき人物に一喝される。その間にもダユラは近づいてきていた。
「アイツの体力は無くならんのか!」
「魔精族だからな……」
ダユラは人族と戦い始めてかれこれ四日、一度も休んでいなかった。しかし、疲れた様子は全くない。
ダユラは紫色の体をしており、リザードと同じ種族の魔精族である。魔精族の特徴は、無限の体力。どれだけ動こうと、その体力がなくなることはない。だからか、魔精族はその体力に見合うための筋力をつけたがる。よってマッチョ率が高くなった種族でもある。
「じゃあなっ!!」
ダユラはそう言って腰を抜かして座り込んでしまっている一人の兵士にトドメをさそうとした……が、一人の男の手によって止められた。
「中々の魔族だな。よく鍛えてある。俺といい勝負出来そうだ」
その男はダユラに負けぬ程筋肉モリモリの体をしており、その目は楽しげに笑っていた。まさか自分の拳を止めるものが現れるとは思わず、ダユラは心底嬉しそうな顔をしながら後ろに跳び引いた。そして丁度その時……
「ダユラたーいちょ! 我々第三部隊、魔王様の命により、隊長の援護に参りました……ってことで周りは任せて遊んでくださいっす!」
「アルカス!? おめーら丁度いいタイミングじゃねーか。流石魔王様ってとこか? 脳筋の俺らにはわかんねー推測してくるぜ」
「「「「兄貴の周りにいる雑魚は俺たちにまかせてくだせーー!!」」」」
「魔王が復活!? まいったな。それこそまさかのタイミングだ。いや、絶滅寸前だからこそ、か……」
魔王が現れたことを知った人族の男は少し驚いたが、すぐに納得した。しかし、周りの兵や冒険者たちはそうはいかず、パニック状態に陥っていた。
「そんじゃあ、始めようぜ?」
「いやいや丁度今やることが増えたんだが……」
「こっちには関係ないさっ!」
パニック状態の人族を見てそう返す男に、ダユラは殴りかかった。しかし、人族の男はそれを躱し、蹴りを返してきた。
受け止めて殴り返す。受け止めて殴り返す。受け止めて蹴り返す。そんな激しい近接戦闘戦の中、二人はずっと笑っていた。
そして途中、一度手を止めると……
「俺は魔王軍第三部隊隊長、ダユラだ。お前、名前は? 」
「俺はSランク冒険者のザクロだ。幹部ってのは全員お前よりつえーのか?」
「相性によるさ。俺は魔王軍の中でも脳筋なもんで、あんま知らねーがな」
「そうか、気があうなっ!」
再び戦闘が始まり、空気が震えだす。その光景を指揮官たちは唖然としながら見ていた。アルカスの存在を忘れて……
「手応えないっすね。サヨナラっす……」
「ーーおまーー!?」
指揮官は最後まで喋ることなく、その生を終わらせた。その体に首はない。
アルカスは短剣を愛し、格闘タイプの多い第三部隊の中では珍しく正面から戦わない。しかし、第三部隊の隊員は、自分たちはしないが勝負はなんでもありだと考えており、アルカスのことを尊敬していた。あねさんと呼ぶほどには……
「副官は逃げたっすか……指揮官よりは有能っすね」
「あねさん! 残った人族の殲滅手伝ってくだせー」
「はいはいっす!」
別にアルカスに話しかけたこの隊員は偉くない。しかし、隊員が副隊長に軽い口調で話しても何ら問題がないのが三番隊である。それは隊長に関しても同じだ。
「目標は千人っすね」
「なら俺は一万人で」
アルカスの言葉に笑みを浮かべながらそう言った隊員。しかし、おそらくその具体的な数はわかっていないのだろう。人族たちのところに向かいながらアルカスは苦笑した。
ダユラとザクロの戦いはますます激しさを増しており、その周りは既に崩壊していた。元が森だったと信じられないくらいにだ。おそらく二人が魔法を使わず戦ったと言っても誰も信じないだろう。
「ははっ! 想像以上につえーなぁ。俺は一応Aランクの武道家なんだが……」
「あまり敵に教えることはないが……お前には特別に教えてやる。俺はBランク格闘王だ」
「成る程。ランクでは勝っていても、職業そのもののレベルが違う、か……」
「生まれはEランクだったがな!」
そう、ダユラは生まれた時、Eランクだった。1ランクを上げるにはとんでもない努力が必要だ。ダユラはそれを三度上げていることになる。ダユラは現在167歳で、人族よりは長生きしているが、普通なら三も上げることのできる期間ではない。
ならどうやったか。
簡単である。永遠と努力し続けただけだ。1日たりとも休む日はなく、永遠と。死と隣り合わせの怪物が住む森で……
「成る程。強いわけだ……俺は別に魔族が嫌いではないから、もし時代が違ったらいい関係でいられたろうに……」
「そりゃ違いねー! そんじゃあ、再開といこう!」
ダユラは相変わらず笑っていた。しかし、ザクロは少しだけ悲しそうな表情をした。だがそれも一瞬、戦闘が始まると、その顔には既に笑みが浮かんでいた。
「さっきよりペース上げてくぜ? ついてこいよ!」
「当然!」
その戦闘は荒々しく、そして美しかった。人族の殲滅が終わり、その光景を見ていたアルカスは何故かそう思った。周りの隊員もダユラの手助けはしない。その行為がダユラに対する侮辱だとわかっているから……
おそらくどこかの勇者が聞いたら鼻で笑って石ころを投げつけるであろう理由だ。しかし、それでも、もしダユラが負けるとしても、三番隊は助けに入らないだろう。
「ま、ダユラ隊長なら勝つっすね……」
そんなアルカスの呟きに答えるように、ダユラはザクロを地面に蹴り落とした。ザクロは地面に大の字で倒れており、血だらけの体で、そして清々しい顔で負けを認めた。
「……俺の負け、か……」
「楽しかったぜ?」
「ははっ……最後の戦いが楽しくて……良かったよ……」
ザクロの目は遠い目をしていた。それは、冒険者として生きてきたことを思い返していたのだろう。その中には思い出したくないものもあったかもしれない。
ダユラは最後に「じゃあな、戦友……」と、そう言って風魔法で首をはねた。
そしてそれが、ダユラのこのヌフの森での最後の戦闘となった。
「んじゃ、帰るか?」
「そうっすね」
この戦いで、魔王復活を各国が知った。そして、人族の間では、この戦いが最も始めの魔王による世界征服の始まりだと言われている。
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