第12話 『魔王の決断』
大広間での幹部紹介があった日から一週間が経ち、その性格もあったか悠人はすっかり城内の空気に慣れていた。
現在の悠人は格闘術、暗器術ともに既に素人レベルではなく、魔法の腕前も全ての属性の中級、そして闇魔法の上級まで使うことが出来る。
魔法の師であるグランパスは普段はやる気がないが、悠人に魔法を教える時は意外にも真剣だった。
その理由が強くなった悠人と戦いたいということなのは、弟子である悠人が一番よくわかっていた。
「ギア、人族に現在進行されている魔族領はどこまでなんだ?」
「第三部隊隊長ダユラがこの〝ヌフ〟の森にて、現在最前線に出ている人族と交戦しております」
現在、悠人は部屋でギアにこの世界の知識について教えられ、それが終わって休憩していた。しかし、何気なく質問した問いの答えが予想以上に悪く、焦った声に変わる。
「ダユラ一人か?」
「ええ。ですが、相手にそこまでの強者は出てきておらず、ダユラは戦闘力だけなら一級品ですから大丈夫でしょう」
「……いや、第三部隊をそこに連れていけ。その後の指示はその場に応じて副隊長にさせろ」
「はっ!!」
悠人の有能さは既に幹部全体に知れ渡っており、ギアは反論することなく部屋を出ていった。
悠人に自分の感が、魔王の感が告げていた。このままではダユラの守るヌフの森は抜けられてしまう、と。
「さて……ブルーム! 第四部隊にバラス海からスラの街を攻撃させろ!」
悠人がそう叫ぶと、ドアからブルームが入ってきた。おそらくドアの前で話を聞いていたのだろう。中に入り、一礼するとブルームは口を開いた。
「良いのですか? あそこには人族の中でも強者が一人おりますが。おそらく第四部隊隊長のクラでは勝てないでしょう」
「あそこにその強者はいなくなる」
「……なるほど」
ブルームは悠人の言葉に悪そうな笑みを浮かべ、部屋を出ていった。それと同時に今度はバガンが中に入ってくる。
「見事なものですな。まだこの世界に来て一週間しか経っていたないというのに」
「そんなことはないさ。ただ、せっかく人族では通過出来ないバラス海のルートを通れる部隊があるんだ……使わない手はないだろ?」
悠人はそう言って少し口元を吊り上げた。以前の悠人なら決してしなかったであろう表情ーーーそんな表情になっていることに、悠人は気づいていない。いや、気づくことが出来ない。なぜなら、いまの悠人はそれが普通だと認識しているから……
「次はグランパスの魔法訓練ね〜」
「アイツが真面目なのが意外でした」
「俺と戦いたいんだろうな……魔法戦じゃあ、俺に勝ち目はないか……」
「しかし、アイツが幹部最強たらしめているのは魔法だけではありませんよ?」
「……何?」
バガンが言ったことに悠人は心底驚いた。なにせ悠人は、魔法だけでも手も足もでないのだ。他の戦闘方法まで持ち合わせているとなると、勝つビジョンが全く見えなかった。
「もし、魔法だけが得意なのであれば相性の問題でブルームが勝ちます。ブルームは魔素喰いですからね」
「たしかに……ならアイツはどうやって戦うんだ?」
「……アイツは龍人です。ですから、龍化することが出来ます。そしてそれは魔物と扱われ、龍となったグランパスは危険度Sランクーーー動く災害です」
「ーー!? ……そんなにか……」
バガンの言葉に嘘は見えず、この世界の龍についての知識は全て悠人は手に入れていた。だからこそ、その恐ろしさがよくわかった。
龍とは、危険度Sランクの魔物の中でも最も危険な部類で、普通の危険度Sならば冒険者ギルドが総出で対処する。しかし、龍となれば話は別で、一国まるまる動くことになるのだ。
「ですが、まあ魔王様は一国家どころではなく、人族全てが動くレベルなのですし、グランパスよりも危険度は高いでしょうな! はっはっはっ!」
「まあ、戦わないでいいならそれに越したことはないんだけどな……」
悠人は既に魔族のために戦うと決めていた。この一週間で、悠人はアスモディスに住む住民達を見て回っていた。アスモディスにはいろんな魔族がいた。
優しい魔族。
面白い魔族。
気の合う魔族。
勇敢な魔族。
暴漢する魔族。
偉そうな魔族。
最悪な魔族。
クズ魔族。
それは、人族となんら変わらなかった。
ーーー俺は魔族だ……魔族が同族。人族と魔族が変わらないというのなら、俺は魔族を救おう……俺は魔王、魔族の王だからーーー
ーーーーーーーーーーーーー
同時刻、ギアは三番隊副隊長、アルカスに悠人の言葉を伝えていた。
「アルカス、魔王様の命だ。今すぐ隊長の援護に迎え。その後の指揮もお前に任せる」
「まじっすか! ダユラ隊長なら大丈夫だと思うんすけどね〜。まあ、魔王様の噂は聞いてますし、言うこと聞きますけどね」
アルカスは鬼族の女の子で、やや好戦的な性格をしており、強いものの言うことは聞くタイプだ。この隊に入ったのもダユラに負けたからで、その実力は副隊長である通り三番隊ナンバー2。
「魔王様をガッカリさせるなよ。まあ、戦闘力が無駄に高いお前の隊はあまり心配せんでもよいか……」
「それ、脳筋ってことっすか? ヤギに脳筋呼ばわりされるとか……お前ら〜! 5+7は?」
「14!!」
「何言ってんだ? 17に決まってんだろ?」
二人の三番隊所属の魔族が自信満々に答えるも、全て間違っていた。そして、答えがわからずともそれが間違っているとわかった一人の魔族が代表して口を開いた。
「あねさん! どうやら俺達には難しいようです!
「すんません……ヤギさんほど聡明で草を食べるヤツはこの隊にはいないようっす……」
「それは多少教育を受けて入ればこどもでもわかりますよ? それと私は肉食です」
「最近のこども半端ねー!? ……あ、私も肉好きっすので今度焼肉や一緒にどうっすか?」
「あなた、私がバガンだったら既に三回ぶっ飛ばされてますよ。まあ、それが三番隊の絆が高い理由ですか……」
ギアは少し呆れたように呟いた。その呟きが聞こえた三番隊の面々は自慢げな顔で笑っていた。それを見たギアは「せいぜい頑張ってください」と言って城内に戻っていったのであった。
「それじゃあ野郎どもーー! ダユラ隊長の援護に行くっすよーーー!!」
「「「「おおぉおーーーーーーー!!!」」」」
魔王軍三番隊。それは、魔王軍の先行部隊であり、最も隊員の絆が深い部隊である。
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