第11話 『魔王の幹部』


部屋を出た悠人は、バガンに案内してもらって城内全てを見て回った。中には拷問部屋などもあり、途中気分が悪くなって休憩したりもしたが流石悠人と言うべきか、それとも体がバアルになったためか、すぐに慣れた。



「それでは大広間にて幹部を紹介いたしますので、こちらへお越しください」



バガンはそう言って悠人を、昨日召喚した際に使った大広間に連れていった。そこには一つの大きな、そしてとても禍々しい椅子が置いてあった。



「魔王様、どうぞあちらへ」



「わ、わかった……」



(罰ゲームじゃねーか……)



嫌そうな顔をしながら悠人は椅子のところに行き、そして座った。意外に座り心地は良く、悠人の顔は少しだけ柔らいだ。

悠人が顔を前の広間に向けると、いつの間に来ていたのか、七人の魔族がそこでこうべを垂れていた。その中にはバガンも含まれている。そして、一番右端にいた白い髪の吸血鬼らしき女が顔を上げ、口を開く。



「お初にお目にかかります、魔王様。私の名はクシャーナと申します。魔王様の身の回りのお世話をさせていただきます」



クシャーナはそう言った後、また顔を下げ、隣にいた青い髪の鬼族、バガンが後を引き継ぐ。どうやら右端から順番に挨拶するらしく、他の者は一切口を開かない。



「先程も自己紹介させていただきましたが、私はバガンと申します。クシャーナとともに、魔王様の身の回りのお世話をさせていただきます」



次に顔を上げたのは、禿げた筋肉モリモリで紫色の体をした男だった。その目は黄色く光っており、謎の威圧感があった。



「私はリザードと申します。魔王様の近接戦闘の師をさせていただきます」



リザードはそう言うと威圧感のある目を下に向け、悠人は少しホッとしたのであった。そして次は黒髪ロングの、魔族とは思えないぐらい普通の女性が顔を上げる。



「私はリムと申します。暗器術の師をさせていただきます」



そして次はトカゲの見た目の小男。



「おれ……私はブルームと申します。私は魔王様にこの世界の戦争における戦術について教えさせていただきます」



ブルームは少し敬語が苦手なのか、いつもの口調で話そうとしたがバガンとクシャーナに睨まれてしまい、敬語に言い直した。そして次は、完全に執事です! という格好をしているヤギの男。



「私の名はギアと申します。魔王様にこの世界の知識全般を教えさせていただきます」



その目は鋭く、悠人にサボらせないことを一瞬にしてわからせてしまうほどであった。

最後はダルそうな顔をした中年のおっさんだった。背中に翼が生えていたので、ただのおっさんではなかったが……



「俺はアンタに魔法教える、グランパスっつう見た目通りのおっさんだ」



「「ーーグランパスっ!?」」



グランパスの口調は完全に同格に対するそれで、そのことが気に食わなかったバガンとクシャーナは一瞬にしてグランパスの顔の前に剣を向けた。



「おいおいおい、ここは魔王様の御前だぜ?」



「ーーくっ!」



「も、申しわけございません!」



バガンはグランパスの正論に歯を食いしばり、クシャーナは慌てて悠人に謝罪した。しかし、グランパスは顔を上げたまま愉快そうな顔をしている。



(基本みんな忠実だけど、グランパスってヤツはそんなにってとこかな……それにしてもバガンとクシャーナの忠誠心はなんでこんなに高いんだ?)



「いいよ。でも出来れば喧嘩はやめてほしい。俺はあんまりそういうの好きじゃない」



「ーーっ!? もったいなきお言葉……感謝いたします……」



クシャーナはそう言って元の位置に戻っていった。バガンも悠人に一礼して同じように戻っていく。しかし、相変わらずグランパスの様子は変わらない。



「はぁ…………で? 俺を呼んだ理由は聞いたけど、君たちだけでも十分勝てそうだと思うんだが……」



「発言、お許しください。我々魔族と人族では、数の差が圧倒的に開いております。そして人族の中にも数人、我々と同格の者がおり、戦闘になった際は我々はそちらにあたらねばなりませんでしたので」



「それにな、俺たちはアンタのような魔王さんがいねーと力半減なんだわ」



「成る程ね……」



ブルームの言葉にグランパスが付け足し、悠人は納得した。グランパスのタメ口に、バガンとクシャーナの目は鋭くなっていたが、グランパスは気にしないようだ。



「お前たち以外のこっちの戦力は?」



「それは…………」




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


広間での自己紹介が終わり、悠人は先程の自室に戻ってきていた。中に入ると一人のヤギメイドが掃除をしており、悠人に気づいたら一礼して部屋を出ていった。



「ん〜……魔族ってのはどういうヤツなのか……それを知らないとな……」



今日の出来事を通して、悠人が思ったことはそれだった。もし魔族が前の世界でよく見る漫画のように、悪ばかりなら、根が善人である悠人は人族側につこうと考えていた。しかし、善人であるからこそ、魔族がいいヤツらだと信じてもいたのだ。



「まあ、あの戦力があるなら人族にやり返すのは簡単なんだけどね……」



悠人は湊と同じく天才である。その天才は、現在人族が圧倒的有利なこの状況、それをひっくり返す方法をいとも簡単に思いついていた。



(なんだか人を殺そうと考えても抵抗感が全然ないな……)



悠人は知らなかった。体がルシファーの、魔族のものへと変わったことにより、自分の考えが少しずつ変わっていっていることに……



ーーーーーーーーーーーーーーー


同刻、広間ではバガンとグランパスが争っていた。



「もしお前が負ければ、緊急事態を除いて、今後一切魔王様の御前で口を開くな」



「構わんぜ? 俺が勝ったら……そうだな、なんもねーわ」



グランパスの言葉はいつも通りなのか、特にその場にいた幹部たちは驚かなかった。しかし、その場にいた全員がその戦闘の勝者を悟っていた。

なにせ……


ーーーーグランパスは悠人と同じ、ランクSの闇の魔導王なのだから……



戦闘はグランパスが圧倒的な強さでバガンをねじ伏せて終わった。バガンは悔しそうな顔をしていたが、勝てないこともわかっていた。グランパスは幹部内でも最強の男なのだ。

この男が本気を出していれば、こんなに人族に追い詰められたりはしなかったのではないかと思うほどに、その強さはずば抜けていた。



「はぁ……どっかに楽しいヤツ落ちてねーかな〜。魔王さんが成長してくれるのを待つか〜」



グランパスはそう言って広間から出ていった。

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