第10話 『魔王の誕生』



「ーーま、魔王! 光の魔王です!!」



「「「「おおぉおーーーーーーー!!!」」」」



それはとある城の大広間。そこには何千何万という魔族達が歓声をあげていた。


ーーーー魔王の誕生。


それは、魔族達にとって人間への侵略を意味する出来事だった。それはいつの時代も、人族と魔族が戦争を起こす前兆。千三百年前、闇の魔王ルシファーが人族との平和を願い、裏切られて以来、一度も人族と魔族が手を取り合ったことはなかった……



「それでは新たなる魔族の王にーー忠誠を!」



「ーー忠誠を!!」



「「「「ーー忠誠を!!!」」」」



その日、その大広間から歓声が途切れることはなかった。

新たなる魔王ーーバアルの誕生祝い。その日はこの魔族領〝アスモディス〟の祝日として祝われることになる。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


次の日、骸骨の飾り物がしてあるベッドの上で は目が覚めた。光の魔王、バアルの姿で……



「……ぅう……ぅん……ん?」



体を起こし、欠伸をして自分の体を見た悠人は一瞬思考が停止する。しかし、すぐにまた動き出し、「夢か……」と呟いてもう一度寝転んだ。


それから数分経っても寝付けず、そもそも寝付けないってなんだ? そう思うってことは現実なのでは? と思い始めた頃、一人の男がドアから入ってきた。



「ーー!? ま、魔王様!? 既に起きてらっしゃいましたか!!」



「・・・・魔王? 俺が?」



「はいっ!」



「・・・・魔王? 俺が?」



「はいっ!」



「・・・・魔王? 俺が?」



「はいっ!」



「・・・・魔お「ご説明させていただきます!」」



どうやらその男も四回目はさすがにめんどくさかったらしく、悠人の言葉を途中で遮った。

男は角が二本生えており、いかにも鬼! という感じの中年の男の見た目である。



「魔王様、混乱なされるかもしれませんが、昨日、光の魔王バアルとして、別の世界からあなた様の精神だけを召喚させていただいたのです」



「はあ……? あの……俺以外に三人召喚してないですか?」



悠人はその性格から適応能力が半端なく高く、比較的落ち着いていた。そしてお人好しな悠人が最も始めに気になったのが、召喚時に一緒にいた他の三人、湊、美月、そして比奈の安否だった。



「敬語は不要です。我らは魔王様の下僕ですから。それと、召喚したのは魔王様だけですので、他の方は召喚しておりませんよ」



(よかった……湊がいれば美月も大丈夫だろう……)



湊の本当の性格を知らない悠人はそう考えていた。そして次に、状況確認のために自分の体を触り、全て触り終えた後、溜息をついた。



「化け物じゃん……」



「いえいえ。魔王様は魔族にとっては最高の体ですよ。なにせスペックが高い。その体は、千三百年前に存在なさった闇の魔王ルシファー様のお体ですから」



ルシファーという名前は元の世界で聞いたことはあったが、この世界でのその人物がどのような人物、いや、化け物だったのか当然悠人は知らなかった。



「とりあえず朝食をお持ちしますね。私の名はバガン、本日より魔王軍幹部となるものでございます。用事がございましたら、私に言いつけください」



バガンはそう言って部屋を出ていった。残った悠人は、もう一度ベッドに寝転びなおして目を瞑った。


悠人にとって元の世界に不満はなかった。たしかに大抵やればなんでもできる悠人は、元の世界での生きがいが少なかったかもしれない。だが、湊がーー自分と競い合うことのできる相手がいたのだ。



「この世界は……もっと生きやすいといいな……」



そう呟いた悠人の顔には、寂しげな笑みが浮かんでいた。


数十分後、バガンが美味しそうな匂いがする魚の食事を持ってきた。案の定と言うべきか、その魚はとてもに美味しく、元の世界では食べたことのない味だった。



「……それで……魔王様、何か聞きたいことはございますか?」



「そうだな……まず、なんで俺を召喚したんだ?」



「それは今、我々が人間達に滅ぼされかけているからでございます。魔王の職業を持つお方が今のアスモディスには現れず、最後に魔王となったお方が四年前にご病気で亡くなった風の魔王、アスタロト様でした。アスタロト様が亡くなった今、人間達はこれを好機と見て滅ぼしにかかっているのです」



「なるほど……その職業ってのは?」



「生まれた時に得られる力と役割のようなものです。魔王様のお力も、あの水晶に触れるとわかりますよ? まあ、イメージでもわかるのですが……」



バガンはそう言って壁の近くにある机の上に置いてあった水晶を悠人の前に持ってきた。水晶はまん丸な形をしていて、その美しさに悠人は見とれていた。



「触れてみてください」



バガンに促され、悠人は少し躊躇いながらも頷く。そして水晶に手を伸ばし……




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


職業:光の魔王 ランク:S


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その水晶に映ったものを見た悠人には、その強さがよくわからなかった。隣にいるバガンは既に知っていたため、今は驚かなかったが、初めて見たときは驚愕していた。なにせSランクの魔王は、それこそルシファー以来なのだ。



(この方は間違いなくルシファー様のお力を受け継いでおられる……)



「バガンさんはどうなんだ?」



「バガンで構いませんよ? それでは失礼します」



バガンはそう言って悠人の目の前に置いてあった水晶に手を触れた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


職業:風の魔剣王 ランク:A


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「私はこれでも、このアスモディスの中で、最強の剣豪と呼ばれております」



「へぇ〜……魔王ってのは、何が得意なんだ?」



「魔王という職業はとても特殊で、人間達にとっての勇者なのです。まあ、人間達は勇者の存在を知らないのですが……」



「勇者、ね……」



「はい。魔王という職業の得意なものは魔法、近接戦闘、この両方でございます。特に魔王様は光属性でございますので、光の魔法が得意となりますね」



「魔法……あるのか……まあそりゃそうだな」



少し驚いた悠人だったが、水晶を見て納得した。その後、いくつか聞きたいことを聞いて部屋から外に出ることにした。



「人間との戦いか……ははっ、まさに魔王だな……」



悠人はそう呟いて部屋を後にした。残ったバガンは、少しだけ申しわけない顔をしていたのだが、すぐに元の表情に戻り、悠人のーーバアルの後を追いかけていった。

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