第8話 『勇者の暗躍』


メルティアたちが探すこととなった屋敷は、この孤児院から最も近くにあるセパルトス家という貴族の屋敷だった。孤児院から走って10分で到着する距離にあり、メルティアとナナは急いで探しにいった。



「メルティア様、敵には手練れが一人いると聞いています。もし現れたら私がそちらを相手しますので、回復魔法が使えるメルティア様は見つからないように侵入をお願いします」



「わかりました。あの子のことは私に任せてください。必ず助け出してみせます!」



屋敷の前に到着した二人はそう話し合って中に入っていった。先にナナが、少し離れたところにメルティアがついていっている。メルティアは戦闘に関しては魔法だけならそこそこ戦えるが、近接戦闘はからっきしだ。屋敷には門兵らしき人物はおらず、すんなり通ることが出来た。


ナナが庭を抜けてドアを開けて入ろうとした時、急に空から黒服の男が現れた。



「ん? メイド? 戦えんのか? まあ、終わったら犯せるからいいか……」



「湊様並みに下品な方ですね。ここに少女を誘拐したのですか?」



「そだよ。普通に俺を信頼してんのか一階にいるよ。まあ、信頼に応えてアンタを通すつもりはないんだけどね?」



「情報ありがとうございます。ですが、私もそこそこ戦えますのでっ!」



黒服の男から情報を聞き出すと、ナナはどこからかナイフを取り出して黒服の男を斬りつけ始めた。黒服の男は当然それを躱し、同じく忍者らしいナイフをどこからか取り出すと反撃を開始する。



「同じ武器同士とは、運命を感じるね〜!」



「ーーくっ!?」



戦況はナナが押されており、黒服の男は余裕があるのか無駄口を叩いていた。しかしこれはナナの狙い通りで、ナナと黒服の男の位置はドアからだいぶ離れていた。


メルティアはその隙に、気づかれないようにドアを開けて中に入ることに成功する。中はとても広く、部屋がいくつかあったのだが、メルティアは迷わず一番正面の部屋に入っていった。何故なら、セパルトス家という貴族をメルティアは知っており、前に一度来たことがあったからだ。その時、何故か念入りにその部屋だけ入らないように言っていたことを思い出したのである。



「無事だといいのですが……」



メルティアはそう呟きながら部屋に入った。すると、そこには台の上に貼り付けにされた女の子と、セパルトス家の当主、デヌユ・セパルトスがいた。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



〜1時間前〜


デヌユは女の子を屋敷に連れ帰ると、自分の秘密が周りに暴露されないためにも兵を全員帰らせた。デヌユは女の子の母親が死んでいるものと思い込んでいたので、これで秘密が漏れることはないと安心していた。



「ノノス、一応屋根の上から侵入者を見張っておいてください。もし侵入してきたら生きた状態で捕獲をお願いします」



「りょ〜かい! 金は先払いね〜」



ノノスはデヌユから大量の金貨を受け取ると、部屋を出ていった。デヌユはその後、女の子を連れてたくさんの部屋がある中、一番正面の実験部屋に入っていった。



「全く……暴れないでください。実験の結果次第ではまだ生きられるかもしれないんですよ? モルモットとしてですが……」



デヌユが女の子を台に拘束しようとすると、女の子は体を捻らせながら暴れ始めた。しかし、すぐに抑えられて結局台に拘束されてしまった。



「あなたは後2時間くらいで死にますので、それまでに解剖を済ませておきたいのですよね〜」



「んーー!? んーー!?」



デヌユはそう言って実験器具を取りに部屋を出ていった。女の子はその言葉に声を荒げようとするが、口に紐を噛まされているため、言葉を発することが出来なかった。そして完全にドアが閉まったその時……



「よお、大丈夫か? いや、大丈夫なわけねーか……よくその歳で頑張ってるもんだよ、泣きもせずにさ」



女の子は急に窓から入ってきた人物を見て、痛みを忘れて目を見開いていた。なんと、そこにいたのは自分に最後の決意をさせた男、湊だったのだ。



「どれが呪いを治す薬なのかわかんねーし、とりあえずこの薬全部すり替えとくから、一旦俺はこの部屋出るぞ」



湊はそう言って台の周りにあった薬をポケットにしまい、どこからか持ってきていた同じ見た目の薬をその場所に置くとまた部屋から出ていった。


その時、デヌユは二階の実験器具と資料を置いてある部屋に来ていた。しかし、そこに置いてあったはずの呪いの資料が見つからず、さらにはいくつかの薬も無くなっており、デヌユは苛立っていた。



「屋敷のメイドでしょうか? 後でお仕置きですね」



デヌユが下卑た笑みを浮かべ、部屋を後にした後、屋敷の外から戦闘音が聞こえてきた。デヌユはそれを侵入者だとわかり、急いで実験部屋に戻った。



「ちっ! 結局どこに置いたのでしょうか……まあいいでしょう。それよりも侵入者ですね。ノノスには勝てないでしょうけど……念のため、この薬は割っておきましーー!?」



デヌユが言い切る前に、実験室のドアが開いてメルティアが入ってきてしまった。デヌユはメルティアのことを知っていたため、タイミングからしてもそこまで脅威だとは思わなかった。なにせ相手は聖女だ。戦闘はそこまで得意ではないだろうと思ったのだ。



「ちっ! ノノスのヤツは何をやっているんですか! くそっ! ……動かないでください! この娘の呪いを治す薬はここです。動いたらこれはこうです!」



デヌユはそう言って手に持っていた薬を地面に叩きつける仕草をした。

デヌユの言葉を聞いたメルティアは焦っていた。話をして気をそらしながら光魔法を使えば、戦闘が得意ではないデヌユならなんとかなるかもしれない。しかし、そんなにゆっくりしていたら女の子が危ないかもしれないのだ。なにせ今、女の子は痛みで拘束台の上で暴れ出している。なんとか泣くのは我慢しているようだが……



「そのまま両手を挙げてください。詠唱しようとすれば即座に割ります」



(くっ! このままではあの子が……)



メルティアがそう思って両手を上げたその時、後ろのドアが開き、そこから一人の男が入ってきた。



「すいませーん! この屋敷の金庫を探していると迷ってしまったのですが……あなた知ってますか?」



その登場に部屋にいる誰もが唖然としていた。しかし、メルティアはすぐに正気に戻って何故正面から入ってきたのか叱責する。



「何故正面から入ってきたのですか!? これでは仲間が増えた意味がありません!」



「はっ! 入ってきたのが馬鹿で助かりました。状況はわかりますね? そこから動けばこれをーーパリンーーは?」



「ちょっ!? 湊さん!?」



湊はデヌユの言葉を無視して、足元にあった実験器具をデヌユが持っていた薬に投げつけた。突然のことでデヌユは反応出来ず、薬は割れてしまう。



「あ、あなたは何をしたのかわかっていますか!?」



「ああ、薬を割ったな」



「お、お前はこの娘を助けにきたのではないのですか!?」



メルティアの叱責に湊は特に表情を変えずに答えると、デヌユが驚いて言った。しかし、湊はそれに答えず、笑ったままデヌユの方に歩き出す。



「ひっ!? く、来るな!」



「ははっ! 吹っ飛べ」



湊はそう言ってデヌユを窓から外に蹴り飛ばした。デヌユは悲鳴を上げながら裏庭の方に吹っ飛んでいき、メルティアはその様子を唖然としながら見ていた。

湊はその後すぐに女の子の拘束を解くと、ポケットから何かの薬を取り出して女の子に無理やり飲ませた。



「んーー!? んーー!?」



「み、湊さん!? いったい何を……」



「これが本物、さっきのは偽物。アイツが必死に偽物でお前を脅して、それにビビってるお前を見てる時、マジで笑いそうになってました」



「な!? ど、どういうことですか!?」



「そだな。種明かししてやろうか……」



湊はこの屋敷に入ってからのことをメルティアに説明した。女の子も呪いが解け、痛みが引いて恩人である湊に抱きついていた。話を聞いたメルティアは、湊がそんな行動をとったことに驚愕していた。



「ど、どうやって屋敷に入ったのですか!? それに何故この屋敷にこの子が捕らわれていると……」



「それは秘密。それよりナナの加勢に行こうぜ?」



「はっ!? そうでした! 相手は手練れです、急ぎましょう!」



湊は女の子をお姫様抱っこすると、メルティアと一緒に部屋を後にした。女の子はとても嬉しそうに湊の肩に手を回し、べったりしていた。


結局、湊はどうしてこの場所がわかったかというと、闇魔法の追跡だ。もしこの女の子を助ける方法があるのなら、それはこの呪いが誰かの故意でやった場合、さらにその結果が知りたい場合に、その何者かがもう一度女の子の前に現れ、その呪いを解く薬を持っていることだ。

湊はその薄い可能性に賭け、女の子に追跡の闇魔法をかけて別れた後に数分経った後、その魔力を追った。そして見事に賭けに勝ち、屋敷に到着したわけだ。


湊が入った時にはまだ門兵おり、門兵は何も知らないだろうと思い、傷つけないように闇魔法の隠蔽で見つからないようにして屋敷に侵入。そして一階の広間にいるノノスとデヌユに見つからないように二階に行き、部屋を探っていったのだ。


いくつかの部屋を探った時、見つけた資料を読んでいくつかの薬とそれを盗み、窓から裏庭に飛び降りた。

そして闇魔法の透視を使い、カーテンの奥の実験部屋の様子を見ていたというわけだ。

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