第3話 『勇者の決意』


玉座の間を出た勇者達は、メイドに部屋へ案内されていた。廊下は角が多く、一人で歩いていては迷いそうだった。比奈と美月は女性なので少し違う場所にある部屋らしく、湊は途中で別れていた。現在は黒色の髪をしたTheメイドという感じの服装をした女性に案内されている。



「ここが勇者様のお部屋でございます。お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」



「湊だ」



「私は湊様の専属メイドとなります、ナナと申します。不快な点がございましたら私に申しつけて下さい」



ついた部屋はそこそこ大きく、メイドは隣の部屋に入っていったことから本当に専属なのだろう。部屋に入ると、中心に大きなベッドがあり、あとは机やソファーなどが端に並んでいた。湊はベッドに寝転がると、顔に手を置いて目を瞑った。



(俺は……この世界でやりたいことだけをやろう……もう、無駄なことはしない……)



召喚されたことに対する怒りは残っているが、しかし、それでなにが変わるわけでもない。

湊は知っている。どんな状況でも、喚くだけのヤツは大抵何も出来ないヤツだということを。

そうして暫く寝転んでいると、ドアがノックされた。



「湊様。夕食のお時間です。食事の間にご案内いたします」



「ああ、わかった。今行く」



ドアの前で待っていたナナは、部屋から出てきた湊の顔を見た時、少しだけ驚いていた。なぜならシロの顔が部屋に入った時と違い、スッキリとした表情になっていたからだ。



(何か……ご決断なされたのでしょうか……?)



再びメイドに連れられ、角の多い廊下を歩いている時、比奈と美月にちょうど会って一緒に行くこととなった。二人は同じ部屋らしく、他に頼れる相手がいないためか、美月はだいぶ比奈と打ち解けていた。



「高宮くんの部屋はどんな感じでしたか?」



「ドラ◯もんが押入れの中で寝てる感じだ」



「それどんな感じですか!?」



「まず、机の引き出しを開けるとそこには佐々木の水玉パンツが入っていた」



「ちょっ!? なんでそんなの入ってるんですか! っていうかなんで私のパンツ知ってるんですか!?」



「……キモい……」



「本当に水玉だったのか……っていうか今履いているだろうが」



「そうでしたね……っていうか本当はどんな部屋だったんですか」



メイド達は勇者達のカオスな会話に顔を引きつらせていたのだが、比奈は気づいていないようだ。美月は完全に前の世界とは別人のような湊に、いつもより辛辣な言葉を放った。結局湊の部屋についてはわからないまま、食事の間についてしまった。



「この中には勇者様方と王族の方、そして王城雇いの料理人のみしか入れませんので、私達はここでお待ちしております」



ナナがそう言ってドアを開けた。中は王城の食事の間なだけあってとても広く、装飾品が飾ってあった。比奈と美月が綺麗な装飾品に見とれている中、湊は一番手前の椅子に歩いていった。



「はっ!? 見とれてしまってました! いや〜大きいですね、美月ちゃん! 私の家より大きいですよ!」



「……私の家よりも……」



「二人も席についてちょうだい」



先に座って待っていたアイリスが騒いでいる比奈と美月に言った。まあ、躊躇いもせずに堂々とアイリスの正面の席に座った湊に少し顔を引きつらせていたのだが……



「お父様は仕事があるから、もう料理人を呼ぶわよ」



「楽しみですね! 美月ちゃん、高宮くん!」



「お前はなんでそんなに元気なんだよ……」



「……不本意だけど……同意……」



湊と美月は、比奈が何故そんなにテンションが高いのかとても気になった。数分間そんなやりとりが続き、それを微笑みながらアイリスは見ていたのだが、途中でとばっちりを食らうことになる。



「アイリス、お前は何色のパンツを履いている?」



「は!? パンツ!?」



まさか話を振られると思っておらず、そのうえ、なんの前触れもなく急に下品な話に変わったので、アイリスは一瞬あっけにとられていた。ちなみに湊の質問に意味はない。ただ、微笑ましそうに見ていたアイリスに腹が立っただけである。



「そ、そんなのいうわけないでしょ! っていうか王女になんてこと聞いてるのよ!?」



「高宮くん、何事にも臆しませんね〜。その勇気ある行動、まさに勇者ですね!」



「パンツパンツ言ってる勇者なんていてたまるもんですか!!」



「食卓でパンツパンツって……王女がそれでいいのか?」



「アンタのせいでしょうが!」



アイリスは何にそんなに疲れたのか、息を切らしている。それを見た湊は満足そうに頷く。美月はそんなやりとりを興味なさそうに見ていた。ちなみに料理人は既に部屋に入っていたのだが、普段見ない王女の姿に唖然としてドアの前から動けないでいた。



(これ、行っていいのかな……)



「三人とも……料理人……来てる」



「あ……ご、ごめんなさい。運んできてもらえる?」



「は、はい!」



美月のおかげでようやく気づいてもらえた料理人は、嬉しそうに料理を運び始めた。置かれる料理は前の世界ではなかったものばかりで、比奈はまた騒が始める。アイリスは慣れているのか、平然とした様子でナイフとフォークを持ち、料理を食べ始めた。



「あら? あなた作法がわかるのね? 下品なくせに」



「まあ、下品な王女でも覚えられる作法だからな」



「くっ! この男は……」



全員が食事に手をつけ始め、貴族並みの美しい食べ方をする湊を見てアイリスは驚いた。そして先程のことを根に持っているのか、皮肉を込めた言葉を湊に送るが適当にあしらわれる。しかも言い返せず、無駄に疲れることとなっただけであった。



「これ、美味しいですね! アイリスさんは毎日こんな食事とってるんですか?」



「ええ。そうね。あなたは……そういや名前、まだ聞いてなかったわね。明日にもすることになると思うけど、順番に自己紹介してもらえるかしら?」



「では、私から! 私は佐々木 比奈です。趣味はアニメを見ることとラノベを読むこと……でした! お二人とは今日初めてお話したばかりです。比奈って呼んでください!」



比奈はここが異世界で、アニメやラノベがないことを思い出し、過去形に言い直した。アイリスはそのアニメとラノベが何かわからなかったが、比奈が二人と今日初めて話したということを信じられなかった。なにせさっきまであんなカオスな会話をしていたのだ。



「……吉田 美月……そいつ以外、美月でいい……」



そいつとは当然、湊である。美月の自己紹介はそれだけなのか、また黙々と食事を始めた。アイリスと比奈はそんな美月を見て苦笑している。



「最後に俺か……俺は高宮 湊。趣味はアイリスとイチャイチャすること……だった!」



「一度でもしたことあった!? っていうか今日初対面でしょうが! なんで過去形なのよ!」



「ふふっ、ふふふふふっ! 高宮くんなんか面白くなりましたね。私はそっちの方が好きですよ」



「……キモい……」



湊の自己紹介に、三人はそれぞれ違う反応を見せる。アイリスは湊がありもしない事実を悔しそうに過去形にしたことにツッコミをいれた。湊としては、アイリスをいじるのにハマってしまったので、そのついでに比奈の真似をしただけだ。美月は相変わらず湊を汚物を見るような目で見ている。


そうして夕食の時間は終わり、各自の部屋に戻って勇者達の異世界生活1日目が終わった。

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