# シュラ

  # シュラ


 熱を出して学校を欠席にしていると、夕方にシュラが家にきてくれた。学校のプリント、と云って右手に持っていたクリアファイルを差し出す。両親は不在だった。礼を云って私は受け取り、しかし私は彼女が左手にあるものに気を取られていた。

 彼女は花の茎を乱雑に握り締めていたのだ。

 花屋で買ったようにセロファンに巻かれたわけではなく、道端から摘んだ様子でもなく。そこに花瓶があって抜き出してきたかのようにゆたかに、スウィートピーの束を摑んでいた。まさか見舞いの花でもない。それはどうしても奇妙だと思った。慎重に云う。

「ねえシュラ、その花、水に浸ける?」

 シュラは首を傾げて、そして片手を見て意味が解らないように少し微笑んだ。

「花瓶に生けるとか、花屋さんみたいに水を含ませた脱脂綿で根を巻いて……」

「セラも欲しいの? この花」

 シュラが遮った。

「そういうわけではなくて」

「あのね、自分で盗らないでそれを喰べるのはいけないことだよ。だからあげない」「えっ」

 じぶんでとらないでたべる──。

「……喰べるって?」

「帰り途で喰べようと思って教室の花瓶から盗ったの。だって捨てられちゃう」

 私はびっくりして押し黙った。シュラはわらって、ひとくちスウィートピーを目の前で頬張ってみせ、硬直している私を残して出ていった。

 それがシュラについての記憶だ。私は熱がぶり返し、再び臥せった。


 あとになって、シュラ、とコンピュータに打ち込んだとき、修羅と変換されて、私はあっと吃驚して、押し黙った。

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