第4話 アラタナル世界

階段を駆け上る音が淡々と続く、長い階段だった。でもさすがは裏道だろうか、敵が全く出てこない。


「ていうか、何でこの場所を知っていたんですか?」

「いやね、常識だよ。裏の道位はさー、って詳しい人に聞いただけなんだけどね」


そう言うが手慣れた手つきと当たり前の様に来ていた事からこの人の事に付いて一つ気づいた。けど、それは突拍子もない話だけど。


「言っておくけどこの裏道はもうないよ。だから、あとは正規ルートを辿って行かないとね。けど、出来ればこの道は使いたくなかったんだけどなぁ」


そう言って何処か憂鬱そうに上を見上げている。やはり、裏道と言うのは楽ばかりでは無くそれなりの欠点があるに違いない。


「やっぱり、正規ルートの方が良いんですか?」

「いや、そう言う事じゃないんだけどさ。ほら、一階分飛ばせただけ少しだけ上の階段とこまで距離が有る訳さ。私、足痛いんだけどね、仕方ないか」


それは何も言えない気持ちに成る。


誰の失態だと言われれば確実に前もって説明していなかった僕の失敗だろう。きっと、これからの事を考えると今後僕が戦う時の事を考えなければいけない。


両手を見つめる、暗く、何も見えなかった場所がほんのりと戦った後ハッキリ見えるようになった。この手で、僕の意思で殺したいと思わなかったものまで殺してしまったらと、無意識に考え、やはり、人との接点を取るとそこがどうしても恐怖心に成り、欠点にもなる。


けど。


「ほらぼけっとしてないで、着いたよ。此処が四層さ」


この人に裏切られたくないと思ったんだ。





四層は森、と言うよりは密林に近い。生い茂った木と笑う植物はきっと観たことが無い、それに聳え立つ木は頑丈でどうも壊せそうになかった。


迷宮と言うよりは森だろ、これ。


「凄い、これどうやって攻略するんですか?」

「ハハ、攻略・・・ね。正確には攻略された道筋を辿るんだけど、二つ言いたい。


一つ、絶対に植物にはちかっずかない事。

二つ、戦う時は後ろで見守るか、合図で」




戦え、と言う事なんだろうか。それは作戦に介入するな、または邪魔だろ言う事なのだろうか。どちらにしても、僕にその言葉の真意は解らなかった。


「終わり。さ、行こうか?」


進んだ先は一向に道とは呼べない場所で、出来ている道は先に罠が掛けられていると言う。例えば、下からバクリと植物に食べられるわなが有ったり、水と思ったら強力な溶解液だったり、甘い匂いに誘われてそこへ行くと二度と帰ってこれない場所だったりと、ロクなことが無いそうな。


「そうえばさっきから魔物が出ませんね」

「あぁ、此処は植物型の魔物が多いんだよ。植物型の魔物は下に大抵は根を張っているから動けない、もしくはその根で攻撃し栄養分にするかのどっちなんだけど、どのみち移動できないんだよね。ま、移動できる奴も居るっちゃいるけど、稀だよ。うん」




その引きつった顔を見るとトラウマらしい。なんか、顔全体が青ざめていてアイシャさんじゃないみたいだ。


「あとはさ」


―STATUS OPEN


そう言って襲ってくる植物の根を掴んで切り刻んでいく、スピードのある斬撃と、全く落ちない剣の切れ目。連撃とも呼べるが少し違う攻撃を行っていた。


その剣戟は襲ってきた木の根を刺していなしている様だった。刺したはずの剣先がスムーズに抜けて放り投げている、だからそれは切り裂いているとも呼べない。


だが「もうかな」とアイシャさんがいった物の数秒で植物は枯れて消えていった。


「根っこの方でしか攻撃ができないから、ある程度攻撃したら栄養不足で動け無くなるか枯れて消えるかだから、比較的倒すのは楽」


「な、なるほど」


つまりは斬撃で短期的な消耗戦をしているのだろう。


剣戟で敵の体積を削り、その回復速度が底を付くまで対処をする、連撃。


観ていると限りなく難しい。だが、僕にとってソレは関係ないのだろう。きっと知識として入れておくのが肝心なのだ。それは、僕の中に居るもう一人に言い聞かせているように。


僕らはそれから前へと進んだ。


うやむやに続く乱雑な道に戸惑いはするもののそれと言った恐怖は無かった。きっと、前に有った戦闘がそれ以前にショッキングだったのだろう。


「それにしたって手慣れてますね。ここには何回か来た事あるんですか?」


進んでいくうちに連れ放すことが無くなり、唐突に気になった事を聞いた。


「え?あぁ、うん。まぁ、来た事は無いんだ。だから来る前に飽きるほど聞き込みや情報収集をして知識が身につくまで此処には来なかったの」


おぼつく言葉でそう言う。


「だからさ、君が必死扱いて助けてくれってな顔をしているトコを観つけさえしなければ私はもっと奥に行ってたよ」


「それじゃあ、まさか僕を助けるためにわざわざ?」


そう聞くと面倒くさそうで、けどやっぱり照れくさそうに彼女は言った。


「えへへ、実を言ったら、ね。けど、戻ろうとしたのは良い機会かも、健巳みたいな症状は聞いた事なかったし、ついでに調べとかないとね。もしかしたら、迷宮にそう言う効果が有るのかもしれないし」


「そうですね、地上に行ったら何かわかるかもしれないし」


けどソレは夢だ。僕はその地上に居た記憶すらない、結果として僕は異色なんだろう。馴染めない、きっと。この世界に馴染んでしまってはいけない気がする。血と、狂気が混じった世界じゃ帰れないと思った。


何処かには分からないけど、此処では無い何処か世界に。


「うげ、来たよ。動く植物、人を食う食人木。マダガスカルの木だ」


その木の枝とも呼べるところは蛇のようにうねっており、いくつもの蔓つたが生えて不規則な動くをしている。その無尽蔵な枝のような何かは明らかにこちらじっと見つめていた。


「STATUS OPEN」


疾走し先手を取るアイシャさんは剣戟の先に消耗戦と言う文字を浮かばせていた。説教をされていた時、聞いた知識だとマダガスカルの木は有る一定まで削り落とすと動きが鈍るらしく、その隙を見て根元を断絶するしかないそうだが。しかし、マダガスカルの木は短く、切る前に蔓に捕まって食べられる。


アイシャさんの剣戟は確かに蔦を切ってはいるが確かな一手には成りはしなかった。それはあらゆる方向に飛んでくる攻撃のため、動きにくいし、下がろうとすればその隙を突かれ掴まる。そして、切るためには逆に下がるのではなく潜り込まないと駄目なのだ。


このマダガスカルの木。生息している場所は階段、つまるところ人が集まるところに居ている事からきっとこの場所から出口は近いのだろうが。


アイシャさんの気まずい表情と、手を休めない攻撃を観てこれにてこずっているのが見えた。


なら、僕は。見守っている訳には、行かない。怖くて足が動けなくても行かなくてはいけないのだ。


「STATUS―ッ!?」


瞬間、腕を掴まれる。不意に、唐突に腕に絡め取られるような感覚がした。


一体腕に何が起こったのかは見ればわかった。そう、もう一体現れたのだ。マダガスカルの木がもう一体現れて背後から腕を掴まれた。


アイシャさんはこちらに気づいていない。なら、やるしかない。倒すんだ、手負いに成る前に、倒すんだ。頼んだぞ、もう一人の僕。


(――あぁ、任された)


声がした。何を言っているかは全く分からない、ノイズが邪魔をして乱す。この声がもう一人の僕だと言うのなら、それは少し聞きたいと思ってしまった。


「STATUS OPEN」


切り替わる瞬間、何かが渦巻く。無数に有る手が引きずり込んでゆく、意識が遠くなる中。少しだけ暖かい声が聞こえた、この声を僕は酷く懐かしく思えたのだ。あぁ、でも、薄れてもう思い出せない。


それは物凄く悲しい。


「安心しろよ、きっと思い出す」


関節を外して蔦から逃れた彼が言った第一声がそれだった。


「さて、と」そう言って敵を見渡す。


成程、敵の範囲の多い攻撃と手数、さらには倒すためには根本へ行かないと行かないが根本へ行けば行くほどに敵の蔦だって増えるし、何より攻撃の威力が上がるだろう。それほど、栄養分に近い位置にいるからだ。


それならあらかじめ切って切って最初に手数を減らしとけば何とかなるか。


打たれる蔦が鞭の様でしなやかに四方八方に飛んでくる。だが、掴んで根元を切るとたちまち数本のうちの一つは消えてなくなる。最初は生えてくるかと思った蔦も生えては来なく、元の手数が多いだけだった。


「これは手順さえ知っていれば」


言って、冷めた。手順通りにやる戦いなどは熱くない。心だって踊らない、だから冷めた。そして、その癖のおかげでいたって冷静に落ち着いて対処する。


一つ一つを切って手数を減らし、根本へと距離を少し開けて、一気に詰める。


一体どれほど切ったのだろう。数と言っても数十本、それほど多いと言う訳ではないが攻略法を知ってないと倒しにくい相手ではある。それほどに手数が多く、様々な方向から攻撃をしてくる。しかし、一回戦えば倒せる相手ではある。


根元を立つときの音は生々しくぐちぐちと音を立てて千切れる時の様子がまるで木の皮一枚一枚が皮膚の様で中にあるのが堅い肉の様にも感じられた。


「あとはアイシャさんの方だが」


そう言って振り向くとぶっきら棒な立ち振る舞いでこちらを眺めている一人の剣士が居た。やはり、先ほどの手こずっている様子は嘘だったようだ。


「お見事お見事!いやぁ、すごいな!ホント」


そう言ってくるアイシャさんの目は荒んでいた。そう、確実に俺を逃がさないために敵意を持って接していた。


「何か俺に聞きたい事でも?」

「そうだね、一個だけさ。とても簡単で、単純なコト.....」


敵意は変わらないのにそんな事が言えることが不思議だ。この人は何処か、可笑しいのだととっくに狂っている俺が気づいたのだ。


人差し指を唇に持ってゆき、シ―とどこかで見たことのある仕草をする。


「俺が逃げない様にずっと敵意を向けるのは良いがあまり長くするなよ.....敵意とはいえ気味が悪い物は悪い。殺すぞ」


肩をくすめて冗談交じりにそう言うが、これが冗談だと感じ取ったのか相手は少し笑ってはくすんでいた。


「ふふ、そんな事言わないでよ!笑っちゃったじゃないか。そうだね、本題だ。一体、君は誰だと言う簡単で至極まっとうな質問さ」


そうか、此奴はきっと何かを知っている。知った上で、取り繕ったのだ。


しばし考える。此奴がアレの存在を知って此処にいるのなら話は早いが、そもそも此奴が帰還者だと言うのならもっと強いハズだろう。だから、予想うする辺りでは帰還者に縁が有るものだろうが。


そして知って居た上であれば殺していた。全てを知って、脅威だと感じるはずなのだ。だが、奴の目と行動はどうも助けているように見えた。


ならば少なくとも味方ではあるか。だが、邪魔だ。


成らほんの少しの事実を言うだけで此奴は俺達を嫌悪するだろう。


「そうだな、俺は――だよ」


そう言った途端に場の空気は冷めた。一気に、紐解けたみたいに。アイツが一体記憶の何を失っているのかも、一体何を隠しているのかも。


きっとこの女にはすべて紐解かれた。


「失せた、ささっと帰れ罪人」


そう冷たく踵を返された。そう、俺たち罪人は罪を背をっている。それはどんな些細な事でも、重い罪と言う名前には変わりないのだと俺は思う。そして、罪にも種類と言うのが有る。善行による悪意無き罪、何時かの未来を見据えた希望の罪、生きる為に致し方のない罪、憎悪が入れ交じり何かを殺めてしまった罪。それでいて、今回の罪と言うのは。


―どうしようもなく、気味の悪い罪だ。



そう、此処は罪人が集う場所。下層、バベル。



罪人を裁く、地獄だ。


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