第2話 異色の恩恵
ヘルハウンドと対面した時、少なからず恐怖を感じたが。今、そんなものは微塵もない。
握った拳から力が溢れ出てくる。血が疼き、戦う術を本能が教えてくれる。
「さぁ、戦いの始まりだ」
走り出した足の速さは先ほどの比じゃない。巻き起こる土煙と、俺の姿を追うヘルハウンドが速くなったと告げてくれている。
そして何よりその速さに体が馴染む。それはきっと振り回されるほど異常な早さだった。しかし、本能で答え、理念より意思より、感で行動する俺の戦い方はその理不尽な速さに瞬時に適応する。
そしてそのままヘルハウンドの脳天を踵落としで攻撃する。
ヘルハウンドは衝撃のあまりに倒れ、そしてバウンドする。そこは、明らかな隙だった。
浮いているヘルハウンドに目が追いつき、スローモーションの様な光景が攻撃の合図を告げた。そして、そのまま二撃、三撃と上下にヘルハウンドを空中バウンドさせ、ヘルハウンドが抵抗するように体を燃え盛ると、そのまま蹴り飛ばす。
しかし、ヘルハウンドはまだ消滅していない。確かな意思を持ってこちらに火を飛ばしてくる。煉獄の炎は身をもろとも焼き尽くし、飛び放たれる。
「なら、これならどうだ?」
ポケットにある四つの試験管、その内の一つを放り投げる。
それが炎とぶつかった瞬間フラスコはそれらの炎を吸収し、ヘルハウンドの所まで飛び、当たった瞬間で爆散した。燃え盛る炎と、異様に着色された火の粉が反動でこちらにまで届くと言う事はヘルハウンドの火を吸ってそれを倍にして返したのだと予測できた。
「俺的にはあの火を防げたら何でもよかったんだが、とんだ誤算だ」
そして居なくなったヘルハンドの残留が数値と成って出てくる。
+Exp365
この数字が出て、再び地面に消滅するとステータスが現れLv upの文字が出てくるとステータスバーが表示された。
__________________________________
筋力 A 耐久 E 俊敏 AA 魔力 D
恩恵 来訪者 Lv-27↑↑
__________________________________
その文字通り、力があふれ出てくる感じが伝わって白と金色のエフェクトが体を包み込んでまるでゲーム様な感覚だった。いや、戦闘も、このステータスだって何もかもゲームそのものの様に思えた。
だがその通りなら少なくもレベルアップして、強くなったと言う事だろうか。まぁ、試してみないと解らないが。おそらく、時間だろう。
そしてこのマイナス表記、これはきっと――。
―半径一キロ以内に敵が居ないため武装を解除します―
その音が聞こえた瞬間、全ての武装が消え、元の姿に成っていた。
「・・・・一体、何が起こったんだ?」
先ほどまでの性格が豹変し、大人しい口調に戻ると言う事は僕に少なからずの戦闘の終わりを告げていた。
戦闘の後の後遺症はなし、STATUS OPENの言葉で力が身に付くのは確定と言う事で良いんだけどデメリットはなさそうだ。だけど、あの光景とあの口調はどうも自分らしくは無かった。何かに乗っ取られたかのように、突然と意識がすり替わった。
見覚えのない感覚は、乗っ取られた?だとしたら、きっかけはあの言葉。武装をすることで意識が変わる、のか。解らない、判別がつかないのだ。
そして、後ろから伝わる足音がさらに不安を仰ぐが。でも、先ほどの敵と言う表記からしてもう敵じゃないことを祈りたい。しかし、敵を表している表記が有ってそれでも近ずく音がするなら、それは人か否か。僕には判別がつかない。
「やぁ!君凄いね!?なに!カッコいい!!!あの武装!!私アノ恩恵は初めて見たかもしれない....」
振り向くとそこには白髪の可愛い女の人がいた。口は達者そうで、胸は平ら。そして何よりその軽武装と話具合からして安全性が高そうな人だと見た目で判断した。良いんだ、人は見た目で九割ぐらいは判断する。
けれどこの場で出てきた人は僕の心をそことなく安心させた。
「やぁ、えっと、君は誰かな?」
「僕かい?そうだね、僕はアイシャ、アイシャ・クローグ。しがないが探索家をやっている。君は?」
「僕はここに迷い込んで....それから何も覚えてないんだよ。名前は、えっと」
あれ?僕の名前は、
それっぽい名前が出てくるがどうも思い出せない、口汚い言葉が僕の名前を隠すのだ、何て言っているのかも判断ができない。そして何より感情が、邪魔をする。
その感情が何なのかも判別ができないからもどかしいし、何よりポロポロと何かが崩れていく音がした、壁がはがれる様な、コンクリートが崩れ落ちていくそんな音が響き、そのとたん何かが抜け落ちていった。コレは多分、記憶だと実感した。
「大丈夫?顔色悪いよ?」
「あ、あぁ、大丈夫。思い出した、僕の名前は新童だ、
「健巳ね、変わった名前」
即席で思い付いた名前なんだから仕方がない。それに、名前を思い出そうとすると頭痛がする。酷く痛い頭痛だ、何回も頭を打ち付けているような、そんな感覚。それに耐えられそうになく、偽名を思い付いた。
「あのさ、うぅんーと。ねぇ、此処って何処か解る?」
その言葉を聞いたあと物凄く引いた顔をされた。当たり前のことを当たり前の様に聞く事はどうやら引かれる事らしい。多分、絶対違うけど。
「何処って.....バベル。その下層だよ?」
「ば、バベル?それってもしかして設計不可能と言われている天空への塔バベルの事?」
おっと、趣味の範囲が・・・・。まぁ、神話については聞きかじった程度だがある程度は大雑把に覚えている。
バベル、と言うのはもともと一つの街で、人が神との統一を図ろうとした時神様にその塔を壊され、人はバラバラにされ、かつて使っていた統一された言語は消え、今のようにな違った言語に成った。と言うお話、だっけな。
「設計不可能かどうかは神さまが作っちゃたから知らないけど。天使への昇格、古人が求める最大の地位、天使。それはこの塔を上った者しか与えられないと言われている。迷宮の塔バベル。・・・・・ま、私たちが今いるのはその下層なんだけどね?」
「下層?って事は下に居るの、バベルなのに?」
バベルの目的、その設計の根端は神と世界、全てを繋ぐ空高き塔の筈だ。つまり、天空の塔の名の通り俺が知っている知識からすると上るのが正しい。けど、下層と言う事は、つまりどういう事だ。
「バベルにはね、地獄と天国が有るの。下が地獄、罪科を犯した罪人たちの群れ。そして、上層、天国。それは人々の夢と、希望。それらが全て詰まったとされている命がけの桃源郷」
下層、この人の話を聞く限り地獄。罪人、と言ったけど僕には罪を犯した気も記憶さえないのだ。でも、記憶が無くなる前に何かしたのだろうか。判らない、でもきっとそんなのは関係ない。僕は此処からでなきゃいけない、外に行って状況を確認をしたいし。
なにより、こんな湿っぽい所だとな。
それとあったかいご飯も食べたいし。
「ごめん、アイシャさん。僕此処から出たいんだけど、道知ってる?」
そう言うとアイシャさんは黙って上と下を観てこくりと頷いてくれた。
「むふふふ、任せなさい。下層7階程度、キミと私なら余裕だよ!」
その言葉はきっと、アイシャさんも戦えると言う事だろう。さらりと、二人一緒だって、いや、なにか。姉弟じみている物を感じなくも、ないのかな。
◇
下層7階と言う微妙な場所。そこからの脱出経路として幾つかの道が複数有るとアイシャさんが説明してくれた。
一つ、階段を上り、上へ到達。そのまま地上に帰る、事。だが、突然の様にトラップが多く、出来立てコンビニ突破は難しいとのこと。
二つ、階段を下り、さらに下層へ行き。一番下に行って地上に戻る。これは、このバベル最下層に有るバベルの移送手段。つまり、バベル内のワープ権の会得と言う事だ。さっき聞いた。
三つ、何処かにある転移結晶と言う帰還アイテムを探す。これは有無を結わさず却下だ、絶対にな。
「ねぇ、ねぇ、なんでさ!なんで七階層上るの!?転移結晶は!?」
「嫌だ。絶対にそんな此方が一ミリも得しない探索をしないといけないんだ!」
どういうギャンブラー精神をしているんだこの女性は。それで勝っていたら良いかもしれないが、嫌絶対にそんな事は無い。こういう奴は大体勝たない主義なのが世の中。
そしてそう決めつけたのが理由として言ってきた「売れるから」と言う言葉だ。
この言葉に僕は認識を改めざるを得なかった。
「そうえば。この戦い方について教えてくれない?」
意識が切り替わって戦う時には僕の意思が無いけど、一応知識としてはいれたかったのだ。
「構わないよ。あれだね、STATUS OPENで自分の恩恵に合った武装が着装されて、あとは思うままに!....って。ハハ、なんでわざわざSTATUS OPENって言わなきゃって感じだけど。これはLv50からは言わなくても力が発揮できるから、いわば体が慣れるまでのセーフティーロックらしいよ」
「と言う事は、長く武装していたら体に悪影響でも出るんですか?」
「いや、そこは私も覚えてないんだよね!ホント」
なんだか能天気だな。でも、悪影響が出ると言う事は覚えておこう。コレはきっと覚えておいて役に立つはずだ。でもなんか僕の場合は最初の段階で悪影響が出てくるから関係ないような、そうじゃないような。
「では、7階層まで登りましょうか」
「おー!」
この時、僕は用心しておくべきだったのだろう。この人がなぜ、いきなり出てきたのか。僕にかかわりを持とうとしたのかと言うのを、少しは考えておくべきだったのかもしれない。
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