こちら、異世界から

白玉

第1話 マイナス

その世界は戦争と言う荒事を抱え動いていた。果てに世界を観て、それを創った神々も巻き込み。宇宙規模の神話大戦が行われた。




人は死に、力無き物は存在する事も許されない。




神は自ら創った人の失敗を肌で感じ、戦う事すらやむを得なかった。




そんな時代は一つ最終兵器、ラグナロクで幕を閉じ、この戦争の名前を人々は終戦戦争と残した。




それから数年、人は別れた。人でありながら人の姿をしない者、人の知恵を凌駕し、神に仕える者、魔力が人の域に収まらず長寿を得、少しだけ形が変わった者。




そして、何も変わらない人たちを古人ふるびとと呼んだ。








深い闇から落ちてゆく、暗くしばらくすると落ちると言う感覚でさえあやふやに成る左右と、古今東西、後ろと前さえも見分けがつかないまましばらくすると有る場所に立っていた。



「・・・・此処は、何処だ?」




気が付いたら底に居た。暗い、何も見えないが、湿気と長く続く穴倉の様な気味の悪い道に此処は地下の奥底だと気づいた。




そして何よりなぜそう言った経緯で此処にいるのか、僕がどうやって生まれたのかが解らなかった。けど、服も私服、持ち物は無く、ギリギリ靴は履いていた。そして触った感覚からして片方知らない靴下を履いていた、、、、これが事件を解くカギに――成らないな、うん。




そして、好奇心と恐怖心から状況の把握と、確認の為に辺りを探索することにした。




どこかで見慣れたのだろうか白骨死体には驚くはするものの恐怖は無く、上から垂れてくる水を乾いた時には飲みこんだりと小一時間走ったり歩いたりした。それにしても、あやふやに続く道と染み渡る鉄臭いが鼻に来た。




そして、聞きなれた。不名誉に聞きなれた音が記憶を叩いた。




あぁ、懐かしいなぁ....この音。でも、出来れば聞きたくはないのだ、何故だか解らないが無償に恐怖を煽る音、多分トラウマの類。




地面を蹴り鳴らす鳴らす音と、四本足特有のリズミカルなテンポが遠くから聞こえ、後ろを振り向くと二つの細い目がこちらを睨みつけていた。




この感じには覚えが有る。何度追いかけられただろうか、昔の、幼い事だろうか。小さな足で四本足の動物から逃げ切れるわけも無く、その追ってくる姿がチーターのようにも見えた瞬間、震えた足と、小刻みに震える体が恐怖を告げる。そうだ、あの動物は確か犬、だった。




けれど追ってくる音は何かが違った。犬の様で、少し違う。本能が告げた危険信号にぐるりと後ろを振り向いてその姿を観た瞬間、駆け出した。




持っている物は何もない転げ落ちるのは労力と意味不明な場所に送り込んだ奴への憎しみ。使える武器は拳とそこら辺に転がっている石だけだ。




そして、残念なお知らせが告げていた。石を蹴る音と、唸り声と、口に火が灯ったその時。コイツは普通の犬ではないよと、天命があざ笑いながら言ってきた。




「待って、ちょっと待って。火?それって本物なの?もし本物なら一言いい?それって多分熱くて危ないからお口の中にしまっておいた方が――」




瞬間、ゴウッと言う放火音が鳴り響き、真っ赤な熱い火の玉が頬の間を通り抜ける。だが、観たのはその光景ではない。




牙を研ぎ、毛は黒くもチリチリと火が灯る異様な姿と狼の様な顔は通常の犬では無い。ましては、火を吐く狼何て、聞いた事も無い。




瞬間、理解する。




殺されると。




「ッ」




全力を振り絞り、逃げだした。




息遣いが荒くなり、足一歩一歩に命と言う重みが掛かる。フザケテる。ははっ、走る事でこの命が助かるならもっと体力を取っておけば良かったと後悔もする。




狂うな、感覚が、命が、重みが、全て惜しい。




アレは・・・・、曲がり角か!?




突き進んだ先に曲がり角が一筋の望みとして現れる。僕はこれを逃すほど、この場に絶望をしてはいなかった。




前進する。命の希望と、後ろから伝わる火の音の絶望から逃れる為に。




「ぐッ」




全力で走り、曲がり角の先を掴んで遠心力で曲がる。指が痛み、曲がった後に業火が進みゆく。


本物の火、燃え盛る音は少なからず此処に酸素が有る事を告げ、人が生きれる環境だと知った。




足に力を入れ、やがて後ろからくる音が追ってくることを知らせて、恐怖し、走り込む。




そして曲がった先には十字路が観え、その左を曲がると、目の前に何かが見えた。




目を凝らし、進んでいくうちに招待が割れる。それは、灯りを持って進む行く人。それも一人じゃない、集団の様に人影が見えた。




「おーい!おーい!」




そうとにかく大きな声でこちらに注目を浴びせた、そしてその声で後方に居るヘルハウンドが完璧に僕の姿をとらえたのだ。




追ってくる、追ってきた、火を吐く化け物は次に備えて火を貯める。が、しかしその灯りが逆に僕の姿と後ろに居る化け物を目の前にいる集団に見せつけられる。




「おい!人が来るぞ!!!STATU SOPEN!」


「「STATUS OPEN」」




そう言うと次々に彼らは武装を装着されていった。いや、装着と言う表現は正しくは無いのかもしれない、正しくは自動的に着させられていた。変身、と言った方が解りやすいかもしれない。彼らは着替えたのではなく、事実一瞬にして姿が変わった。鎧に身を包み、ローブを被り、戦闘態勢に入ったのだ。




「よし、後ろのガキは放っておけ!まずは後ろのヘルハウンドから狩るぞ!!!!」


「「了解」」




俺は見届けるしかなかった。渦巻く水が、ヘルハウンドと呼ばれる、さっきまで追いかけられていた化け物に対等に戦える人の存在を。




ヘルハウンドは先ほどまでとは違った様子だった。体の毛は火を噴き、灰の様に飛び散り、尻尾と鎧がぶつかる音は鉄と鉄が凄い勢いでぶつかった音がしたし、何より身軽に動き、噛んだ先から鎧を溶かしにかかるほどだ。




さっきまでのは、遊び.......。




そう思った。




鎧を着た男性がヘルハウンドに対し追撃し、魔導士の様な格好をした女の人が道を削り、ヘルハウンドの逃げ道を減らして打撃数を上げていき、後ろい居る帽子をかぶった人は各自の回復をして、もう一人の鎧の人がそこへの道を断っていた。




これらの攻撃が、ヘルハウンドの火で灯され一瞬一瞬が観える。






斬撃が鳴り響き、防戦する楯の重みが伝わって、自在に動く水が質量のある重みでヘルハウンドを叩きつける。そして、ヘルハウンドが攻撃した致命傷を後ろの人が治してゆく。




防音が、斬撃音が、水を叩きつける音が、指示を出す声が、そして何よりヘルハウンドの放火音が鳴り響く中、突如として、変な音が鳴り響いた。




―BAD TIME―




その音は紛れも無く全てを静寂に染めた、絶望のお告げ。




「逃げろォオオおお!!!!!!!!!!!!!」




この音を聞いた四人一行は豹変し、ヘルハウンドから逃げた。ヘルハウンドもまた粒子の様に散ってゆき、透けた看板が出来上がる。そこには、BAD TIMEの文字が刻まれていた。




そして看板が薄れて消えた瞬間、喰われた。




後ろの壁が牙と暗闇の渦の様な喉を創り、一瞬で四人は壁に食われたのだ。




そして壁はあざ笑うように笑い、満足したように消え去った。そして、そこには一体のさっき消えたはずのヘルハウンドが居た。




「うそ、だろ?四人には.......まだ此処が何処かとかいろいろ、聞きたいことがあって、ハハ、逃げ切れる訳、無いじゃないか......」




こんな弱い僕が、さっきまで逃げていたんだぞ。希望が見えたはずなんだ、人と解りあえる希望が、観えて、でも僕には何の力も無い。けど、怖いんだ。




ヘルハウンドはこちらを観て笑った。二度と同じ失敗をしない様に火を灯し、殺しに来た。




(なぁ、死んでいいのか?)




嫌だ、僕は死にたくはない。




不意に出てきた声に答えてしまう。満身創痍で、幻聴が耳を囁くように鳴らした。言葉は、幻聴とは思えないぐらいに生々しい声だった。




(なら足りない頭を使って思い出せよ?生きたいんじゃないのかッ!)


力強い声は地響きのようなうねりを上げて心と体に浸透する。


そうだ、あの戦いの前。彼らが言っていた言葉が有る。呪文の様で、でも、僕に出来るかが解らない。それは失敗したら喰われて死ぬと言う恐怖だ。けど、乗り越えなきゃ、やってられない。




僕は生きたいんだ、何だってやってやる。




「STATUS OPEN!!!」




瞬間、中身が切り変わった。




小手に甲冑、そしてジャンパーの様な物を羽織り、ポケットには二種類の試験管が四つ入っており、ステータスが表示される。


__________________________________


筋力 A 耐久 E 俊敏 AA 魔力 D




恩恵 来訪者 Lv-50


__________________________________




力があふれ出てくる。この感覚、溺れそうになる。これなら、戦える。やれる。俺は!行ける!!!!戦える!!!!!




笑みを引きつらせるヘルハウンドは徐々に先ほど見せていた臨戦態勢に入る。それは、俺を敵と認めたと言う証だった。




「来いよ、今度は俺が遊んでやる」

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