第12話 増え続けるモンスター。

「…そうきたか」

僕は飛ばされた先、鬱蒼と生い茂る森の中で現状を把握する。

多分あの魔法陣は転移系の魔法だろう。


そして僕が飛ばされた先は、同じ無人島。

とは言っても、キャンプ地があった島の中央と比べてだいぶ北に飛ばされた。

それに先程から島中に飛ばされた式神で確認したところ、クラスメイトも同じように散りじりに飛ばされている。


全く、面倒なことになった。


僕がみんなの位置を把握してるなら迎えに行けばいいが、そうはいかない。

先程から筆を動かして式神を生み出し続ける一方で、同じ数が島のどこかで消えていく。

比較的最初の方に作った弱い奴だが、それを一撃で倒しているものがいる。


「…チーターが良いか」

探索に鳥、そして素早くクラスメイトのところに派遣するために素早さの象徴のチーターを描いていく。


式神から意思が飛んでくる。


やられた、仲間が。

巨大な生き物。

応援ちょうだい。

牙の生えた動物。

もっともっと。


明らかに昨日まではいなかった凶悪な生物が鼠算式に増えていく。


「…試練ってこれのことか。それにあのスイッチ。もしかしてこれを止めるためか?」

確かあの時ネコはこう言った、止めたきゃこれを押すんだにゃってね。


今のところ増え始めの段階の為、クラスメイトと遭遇しているモンスターはいないがこれは時間の問題だ。


今この状況を把握できるのは多分僕と、阿澄だけだろう。

阿澄はそこまで戦闘が出来るわけじゃない。

ならここは僕が動く必要があるか。


「…モンスターを斬ったことは無いけど、緊急事態だ。覚悟するか」

最後のチーターを生み出したら、直ぐに筆を止める事なく金の線を走らせる。

息を吹きかけると同時に生まれたのは馴染みのあの刀。


握ると、カチャッと無機質な音がなる。


「じゃぁ行け、モンスターを見かけ次第倒すんだ」

僕は生み出した2メートルはあろうチーターと、1メートルはあるワシに似た鳥の大群に指示を出した。


チーターは森の木々の隙間を縫うように走り出し、鳥は一斉に飛びたした拍子で風圧が生まれる。


それを見届けた僕は刀を一振りして木の枝を切り落とし、歩き出した。






◇◆◇◆◇◆◇◆

最初に現れたゴブリンのような集団を、刀で切り裂く。

まるでゲームを真似て作ったかのような、汚い腰巻に小さい剣や棍棒を持った奴らだ。

ぎゃっぎゃと言語かもわからない言葉を発しており、僕を見つけ次第走り寄ってきた。


僕はその遅い動きに遅れを取るわけもなく、振り抜かれる剣や棍棒を避けて刀を胴体に沿うように斬り抜く。


サッと豆腐を撫でたかのような感覚で、ゴブリンは上下に二分する。

傷口から血が吹き出る瞬間、煙となって消えた。


「…煙? 生きてないって事か?」

僕はその現象に疑問を抱きつつ残りのゴブリンを斬り伏せた。


「んー、この世界ではこう言う物なのか? それともあの猫によって造られたとかで死ぬと消える?」

考えて見てもわからない。


空気に漂う煙の名残に目を向けつつ前に進む。


それからは数を重ねるにつれて増えるモンスター。

ゴブリンであったり、狼型のモンスタであったり様々だ。


僕はモンスターを切り捨てながら、式神から飛ばされてくる意思を頼りに森を歩く。

コンパスのような意思は確かに場所を示している。


「…危険? なんでだ?」

僕は突然送られてきた意思に一瞬戸惑う。


大変、人が人を襲ってるよー


おかしい。

あの猫が生み出したのはモンスターだけじゃないのか?

式神は外見で判断してるから、もしかしたら人形のモンスタかも知れない。


それでも、モンスターがクラスメイトを襲ってるのは危険な状況だ。


僕は、嫌な予感がしながらも意思を飛ばしてきた式神の元へと方向を変えた。







◇◆◇◆◇◆◇◆

「きゃー!」

「…え?」

「…は?」


式神がいるであろうところに来ると、そこのは男子生徒が女子生徒を襲っている光景があった。

這いずるように後ろに後ずさっている女子生徒を、男子生徒が血走った目と上気した頬で迫る。

ハァ、ハァと息を荒くしていたところを僕が発見し、男と目があった。


いやいや、何故こんなことになってんだよ。

え、飛ばされてまだ30分くらいしか経ってないよね?

いきなりこんなR18展開になるか、普通。


「…と、取り敢えずやめなよ」

「い、いいから助けて!!」

一応クラスメイトのため穏便に済まそうと思ったが、どうやら女子生徒はガチで怖いらしい。涙目で訴えてきている。


って、よく見たら久礼野さんじゃないか。


それにあの男子生徒、少しぽっちゃり気味の斎藤と凄く仲がよかったやつだった気がする。


「う、う、うっせぇ! 邪魔すんな!」

「…まぁ、それは犯罪だから」

男子生徒がこちらに怒鳴り散らして来るのを気にもせず、そのままステータス任せに一瞬で近づいて腹部に拳を入れる。


「うぐっ、があっ」

「まぁ、ごめんね」

くの字に体を歪ませて口からよだれを撒き散らして崩れ落ちる。

気絶したのか、体をピクピクさせて倒れている。


「あ、ありがとう。ってか、天燈君ってこんな強かったのね」

「そう? あ、あと久礼野さん、服が…」

息を荒くしながら立ち上がってこちらに近づいてきた久礼野さんの服が乱れており、下着が見え隠れしていた。

ワイシャツのボタンがいくつか千切れてピンクのブラが見えていて、僕は咄嗟に手で目を覆う。


「っっっ! ちょ、ちょっとそっち向いてて!」

「わ、わかった」

一瞬にして顔が赤に染まり後ろに振り向いた久礼野さんを、視界に入れないようにして僕も後ろを向く。


「そ、それでどうしてこうなったの?」

「そ、それがね…」

僕が地面に付している男子生徒をチラッと眺めつつ後ろにいる久礼野さんに事情を聞いた。


初めはどうやら近くにいたため偶然合流したときから始まった。久礼野さんと彼、田中はあまり話したことがなかったらしく、初めは田中が戸惑っていたらしいが段々と詰め寄ってきたらしい。


俺がなんとかするから。

こっち来いよ。

なぁ、俺強いだろって。


流石に嫌になってきた久礼野さんが親しくもないのにそれは嫌と言ったら逆上したと言う。


まぁなんとも、愚かな田中だなぁ。


久礼野さんもステータスは伸びていたらしいが元々治癒師というか非戦闘職であるから、自力では負けていた。

それで、いやらしい目で見てくるようになった田中が襲いかかったところに僕が来たと。


「…そっか。大変だったね」

「で、でも天燈君が来てくれたし助かったよ。ありがとう」

綺麗に整えられた制服を着た久礼野さんが、まだ赤い顔でふっと笑った。

綺麗な茶色の髪はまだ少し乱れている。


それにしても、普通ここまでするか?

確かにこのおかしな環境でタガが外れてしまうのはわかるが、流石にこの閉鎖した無人島という空間でこんな暴挙に出るのは少し考えづらい。

もし人に知られたらクラスメイトによるリンチだってありえるし、そこまで愚かな奴にも見えない。

いや、それともそれをどうにかする策を持っていた?

襲われた久礼野さんの口をふさぐ手段が。



理由を聞こうにも気絶してるし起きる気配がない。

それに起きるまで待ってる暇はないし、早く他の人と合流してこの騒動をなんとかしたい。


僕は一旦田中を拘束してここに放置することにする。


「…ここに置いてくの?」

「うん、でも式神も置いてくし心配はないと思うよ」

直前に襲われたというのに、まだ心配の色を顔に浮かべた久礼野さんが僕の顔を覗き込んできた。

流石にモンスターに襲われて死なれたら大問題だからね、式神を数体置いて行くことにする。


懐から筆を取り出し空に走らせる。

息を吹きかけると同時に生まれる2メートルはあるような、暗い金の毛色をしたゴリラが四匹生まれ落ちた。


「す、すごいね。式神だっけ? こんな巨大なゴリラまで生まれるんだね」

若干金色を帯びたゴリラが、知性を持った瞳でこちらを見つめて来る。

指示が出るまで一切微動だにしない。


「じゃぁこいつを拘束して、モンスターが襲ってきたら守るように」

一瞬唸り声を上げると二匹が田中の体を掴んで拘束し、残りが周りをうろつき出して警戒し始めた。


「じゃぁ行こうか」

「行くあてがあるの? それに今何が起こってるのか知ってる?」

僕が歩き出そうとすると、不安そうにしている久礼野さんが、僕の腕を遠慮気味に掴んで止めてきた。


「歩きながら話すよ」

「わ、わかったわ」

逆の手で安心させるように久礼野さんの腕を掴むと、そのまま式神から送られて来る意思に従って歩き出した。

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