第10話 神魔法。
それから僕たちのサバイバル生活は、険しくも安定したペースで豊かになっていく。
4日目は普段通りに探索班が木刀を片手に森に入っていき、一方で居残り班は自分が持つ力を使って生活用品を整えていく。
僕も生活のリズムが整ってきた。
起きたらまずやることは女子の、少しずつ混ざってきた男子達の洗顔の代わりのように顔を綺麗にしていく。
男は要望があれば上半身はお祓いで浄化してあげる。
その後は特にこれと言った用事もないので阿澄とスキル上げ、レベル上げも兼ねて式神を作っては消して行き、他のスキルを使っていく。
そして現在のステータスが此方だ。
名前 アマト キヨミヤ
性別 男
種族 ヒューマン
職業 神主 Lv.21
魔法 神魔法Lv.1
固有スキル 御神体Lv.1 禊ぎLv.2 祈祷Lv.1 祝詞Lv.1 お祓いLv.4 式神Lv.6
エクストラスキル 言語理解 神威耐性 御護り 神血制御
名前 アスミ キヨミヤ
性別 女
種族 ヒューマン
職業 巫女 Lv.14
魔法 神魔法Lv.1
固有スキル 神楽Lv.1 式神Lv.4 禊ぎlv.2 占いLv.1 口寄せLv.1
エクストラスキル 言語理解 神威軽減 御守り 神血抑制
最初に比べて随分とレベルも上がったし、それにスキルも増えた。
阿澄も禊ぎを手に入れ、後は占いと口寄せというスキルが発現した。
後ろの二つはいつのまにか出現していたらしい。巫女と関係ないと思うかもしれないが、昔の巫女は占いや口寄せと言ったものも行なっていたらしい。
多分職業に影響したのかな。
僕は伸びたステータスを確認するために、少し体を動かすことにする。
みんなが集まる広場から少し離れた森側に移動し、周りに障害物がないか確認する。
岩とかも無いし、大丈夫か。
「…よし。ふっ」
僕は少し構えの体制をとると、地面を蹴り上げるようにして勢いよく走り出す。
途端に眼に映る景色が川のように過ぎ去っていった。
「…はっや。もしかして100メートル7、8秒くらいになってるんじゃ無いか?」
森に沿って走り出した地点からおよそ50mは走った。多分体感で3、4秒。
これがステータスの影響か。
それにまだ全力で走ってないでこれだ。流石にいきなり全力を出してアキレス腱でも切ったら困るにで力を抑えたが、逆に全力のタイムを知りたくなってくる。
別にちょっとくらいは良いよね?
少し辺りを見渡すようにクラスメイトの位置を確認する。それぞれが作業を行なっており、此方を見つめているものはいなかった。
僕は咄嗟に森に入って木に身を隠した。
「…筆もあるし、武器は大丈夫か」
僕は足音を立てないように、木の枝に注意しつつ森に入っていく。
制服に汚れを残さないように上着を脱いで抱え、木から生えている枝を押しのけて進む。
「ここら辺でいいか。広いスペース。それに岩とか障害物も見当たらないし」
森の探索班と鉢合わせにならないように式神で把握しつつ進んでいき、少し大きめの広場に出た。
因みに、森に入ってすぐに阿澄が放っていた式神に見つかったため、多分阿澄にはばれた。
でも大丈夫なはずだ、見つかった時両手を合わせて頭を下げといたし。
怒らないよね。
取り敢えず身体能力の把握から入る。
広場の端から思いっきり地面を蹴った走った。
先程よりもはるかに全力でだ。
走り出した瞬間に体にあたる風圧で一瞬体制を崩すが、すぐに持ち直して走り出す。
「…まるで車の窓から見える景色じゃないか! ははっ!」
はやい、想定以上だ。
目算100メートル五秒くらいか?
まだレベル20前後でこれとは本当にこの世界は恐ろしい。
レベル上限はどれくらいか。この世界の人の平均は? いまの僕はどの位置にいるのか。
全く情報を得られない状況で少し怖くもあるが、その時はその時だ。別に僕達は争うつもりなんてないし、穏便に対処できるようになんとかするだろう。
その時の僕が。
「じゃぁ次は、何しよう。何にしても武器だけ作っておくか」
僕はズボンのポケットから筆を取り出すと、慣れた手つきで空に金色の線を走らす。
思いっきり横に引っ張り、鋭く線を引いていき素早く書き終える。
随分と慣れたなぁ。
この絵は初めて書くけど。
まぁ成功するだろう。
僕はいつも以上に強く気を吹き付けると、空からピースが外れたように地面に落ちる。
ガチャリ
無機質な音と共に落ちたのは、日本人に馴染み深いあの刀だ。
柄の部分から細長く、少し反り上がったように伸びる刃がとても鋭く光に反射している。
普通であれば鉄色で冷たい色合いの筈の刀は、今や薄っすらと表面が金色にコーティングされているように鮮やかな。
「んー、成金感が凄いなぁ。まぁ金と言ってもそこまで明るくないからいいけど」
動物の時も人間が金髪に染めたような若干茶を混じった色と同様に、刀の方は金に黒の液体を数滴混ぜたような暗い色合いだ。
僕は初めて触る真剣に少し緊張する。
小さい頃は父から剣道をにわか並みに教わったが、真剣に師事した事はない。
斬り方はなんとなくわかるが、そこまで詳しくないと言った感じだ。
それでも脳内で一度どのように動くか想像して、その残像を体にトレースするように動く。
両手で構えて上段から降ろす。そして次に切り返すように横に薙ぎ払う。
潰すんではなく、表面を切り裂くように滑らかに。
空を切り続けた刀は最後に、僕が走り出した勢いに乗って森の脇にある枝を撫でるように切り裂いた。
「まさか両断とは」
一瞬にして厚さ5センチはある枝が、なんの抵抗もなく綺麗に落ちる。
ある程度ステータスによる体の影響を確認した僕は、刀を消して戻る事にした。
戻って後は式神の作成練習、建築師による家作成の補助、シャワー室の壁の補修などの時間を使う。
因みに阿澄には一言、次は私も連れて行ってくださいと言われただけで済んだ。
森から帰ってきた探索組は今日も獲物を片手に戻ってきた。
今回はいつもより大きめの猪だ。
見たところ体を切り裂いたような傷跡が残っている。
多分室木たちもレベルが上がったのかな。
あの切れ味生身の人間じゃ厳しいし。
美味しくイノシシをいただいたあとはみんなの浄化を行い、そして新しくできた木製の家で寝る事にした。
数は男女で4個。小さな一軒家並みの大きさだが、作りは簡易的だ。屋根は長い木の枝を並べるように置かれ、壁は同じく薄い木を並べてある。
そこに3、4人のグループを作って寝た。
◇◆◇◆◇◆◇◆
5、6日目が経つ頃には、衣食住も現代までとはいかないが中世の基準までは満たしてきた。
僕達男も専用のシャワー室を得て汗を流し、今まで隠れるようにしていたトイレはボットン便所だが男女別々に二つづつ作られた。
それに簡易的なテーブルに椅子。
それぞれが自分の役割を自然と分別して別れた。
既に1週間を目前としているが、ほとんどの人が暗い表情を見せない。
もしこれが一人だけ、若しくは生活が苦しい状況や危険な場合は嘆き叫んだだろう。
それでもクラスのリーダー的室木や、そのグループに近しい明るい存在がクラスメイトの心のストッパーになってると思う。
「…平和だなぁ」
僕はナレーション的に心の中で状況を説明しつつ、木陰で休憩を取っている。
正直役割がほとんどない僕とか阿澄、後は先生に土御門さんとかはほとんど仕事はないんだよね。
職業柄生活に関与しづらいし。
それでも一般的な魔法であれば何か役に立っただろうが、僕は神魔法という特殊なものを与えられた。
水魔法に火魔法、後は土に光とクラスメイトで使える人がいたが、使えるようになるにはほとんど想像らしい。
なら神魔法って何を想像すればいいんだ?
神魔法っていうから、神道系のことが出来るとか?
もしかして神の力が使えるなんて事は。
そんなはずは無いか。
確かに種族はヒューマンだし使える訳がない。
「…ねぇ、阿澄どうすれば僕達も魔法使えるかな?」
「神魔法がなんだか分からない限り出来ませんよね。それにこんな魔法相談しづらいですし」
隣で休んでいた阿澄に相談しても、こんな感じだ。
あんまり興味がなさそうだし。
「よし、とりあえず何か試してみるか」
感覚だけ掴もうと試しに使ってみる事にする。
僕の予想だが、魔法系は全て何か発動するための源があるはずだ。ゲーム的に言うと魔力的なものが。
初めはそれを感じるところから始めてみる。
多分使えないだろうけど、水魔法を使うイメージを開始する。
少しでも魔力のカケラにでも触れられたらと言う思いで。
意識する、体の中心にある魔力を。
そう、例えるならもう一つの心臓。
トクン、トクン、と鼓動するたびに血液とは別の脈、魔力管(仮)で全身に魔力が運ばれるのを仮定する。
そしてその魔力が増幅するように魔力管から漏れ出て皮膚に到達する。
空気に触れた瞬間、水へと変換するイメージだ。
「…こい!」
ピタ
地面に一滴の水が垂れた。
「…できた! できたよ、阿澄!」
「おめでとうございます。…ですが兄さん、確かに水魔法は持ってなかった気がするのですが」
僕は喜びのあまりバッと後ろを振り返り阿澄を見つめると、目を見開きながら祝ってくれたが、すぐに不思議そうに首をかしげる。
たしかにそうだ。
僕は感覚を掴もうとできないのを前提に実行したが、実際は僅かにだが水が生まれた。
ひどい手汗のように水で湿っている手を眺める。
「…どう言う事だ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます