第9話 洗顔代用人。


「って、先生もですか」

「なんだぁ? 私も一応女なんだぞ? 肌には気を使ってるんだ」

「いえ、別にそんなんじゃ」

久礼野さんに土御門さんとクラスの女子たちにお祓いをかけて肌の浄化を行なっていると、次に来たのは先生だった。

まだ乾き切っていない髪を片側の肩に流して近づいてくる。

いや別に女じゃないとは思ってないけど、肌なんて気にしないと思ってた。

稀にいる手入れ無しで綺麗なタイプかと。


「じゃぁやってくれ」

「わかりました」

もう一歩近づいて僅か20cmの距離まで詰めて、右手を先生の顔に近づける。

スキルが発動するのを意識すると、手を淡い青色が帯びるように光り出した。

そのまま先生の顔の僅か5cmほどまで近づけ、淡い光が肌に浸透していくように移っていく。

移ったとこから光るように肌に広がり、汚れが肌の中から押し出されるように綺麗になっていく。

そのまま顔全体に移るように顔の凹凸に合わせ、肌に沿うように手を動かす。


こんな至近距離じゃないと出来ないからやってる方は恥ずかしいんだよ。

女の子も恥ずかしそうにしてるけど、僕だって恥ずかしいんだ。


だから早く終われと言う念を込めて光を強くする。


「はい、終わりました」

「…ふむ、本当に綺麗になったな」

「じゃぁ次がつかえてるので」

フッと息を吐いて先生の後ろに並んでいるクラスメイトを視界に収めつつ先生に退くように促したが、一向に動く気配がない。


なんだ、そんなに考え込んで。


綺麗になった肌を撫でつつ、じっと僕の手を眺めている。

そして何を思ったか僕と目を合わせるように視線を動かすと、艶のある綺麗な唇とクッとあげた。


まさか。


僕はこの力を肌を綺麗に使っている時、若干邪推した考えがある。


でもそんな。


考えはしたがそれはあまりにも恥ずかしいし、第一に女子からの提案はないと思っていた。


でも。


先生の口から言葉が発せられる。


「なぁ、それを体の方にも使ってくれないか?」

「いや無理だよ!!!」

僕は高校に入って一番の声量を、このツッコミに使ってしまった。



いやいやいや、この人は変態か。

淫乱か。まさか、ヴィッチなのか。


「いやいやいや、何を考えてるんですか、変態教師」

「変態教師とは失礼な。だがこれを体に使ったら肌のくすみも落ちてピッカピカになるんだろう? エステみたいなもんじゃないか」

「エステって、それは女性同士だから出来ることであって、僕は男です。しかもこれ殆ど至近距離じゃないと出来ないので万が一触れちゃったら逮捕ですよ!」

不満そうにくちびるを尖らせるが、こんなの承認できるわけないじゃないか。

それにみんなも居るのにやったら変態認定は間違いない。

クラスメイトから痴漢魔と騒がれ、働きアリのごとく足蹴にされながら労働を強いられるの目に見えている。


「っち。良い案だと思ったんだが、まぁしょうがないか」

先生は僕が譲らないと分かったのか大人しく列を外れて去っていく。

そして後ろの人が一方前に出て近づく。


「…わ、私は気にしないです」

「…うちはそう言うのはやってないです」

「…がーん」

目元が隠れるくらい前髪が長い、文学少女の様な大人しい女子生徒がまさかそんなことを言うとは思ってなかった。若干の間を作ってしまったが丁寧に断りを入れると、あからさまながっかり擬音を口から漏らす。


いや君、やるやらない以前に僕から見ても肌真っ白だし必要ないでしょ。

インドアっぽいし、日焼けとか一切ないじゃなか。


だから髪の隙間から覗く目をキョロキョロするのはやめてくれ。






◇◆◇◆◇◆◇◆

長い行列を捌き切った僕は、自分の木と葉でできた仮設テントまで来ると、入る前に何となく地面に横たわって夜空を眺める。

意外とこの景色を気に入ってるのかもしれない。


若干溜まった疲労に眠気が襲って来るが、眠る前にステータスを確認する事にした。


名前 アマト キヨミヤ

性別 男

種族 ヒューマン

職業 神主 Lv.18

魔法 神魔法Lv.1

固有スキル 御神体Lv.1 禊ぎLv.1 祈祷Lv.1 祝詞Lv.1 お祓いLv.3 式神Lv.5

エクストラスキル 言語理解 神威耐性 御護り 神血制御


まぁそりゃあれだけお祓いすればスキルレベルも上がるか。

最後の方なんて明らかに最初よりも範囲も効果も上がってたし。


一通り確認を終えたらプレートを懐にしまう。


ーーーなぁ、これからどうする? もう3日目も終わりだし。

ーーーうーん、テンプレ通りチートっぽい力はあるけど、使い道がね。

ーーー二人ともまだ早いよ。俺の力があればハーレムだって出来るんだから。


夜の静けさの中、隣のテントから数人の男の声が聞こえてきた。僅かに喜びに似た笑い声を交えて、少し不気味な雰囲気がある。


何言ってるんだ? 少し遠くて上手く聞こえない。


でもここで近寄って聞き耳立ててもおかしな奴と思われるので気にしない事にする。

別にそこまで興味ある訳じゃないしね。


その後すぐに静かになった隣のテントを不思議に思いながらも、今日の火の番の時間までテントに入って寝る事にした。


まだ日も出ていない丑三つ時。

ピピピピ、ピピピピ。


僕はセットしていた腕時計のタイマーで目を覚ます。

「…時間か。ふぁあ」


転移してから暗くなったら寝る様になったため、この時間帯に起きてもそこまで辛くはない。

口から出た欠伸を手で押さえつつテントの葉を避けて出ると、パチパチと弾ける焚き火が目に入る。

まだ慣れない火の番に眠りそうになって居るクラスメイトの姿を見て確認して苦笑してしまう。


「…時間だよ。変わる」

「…あぁ、清宮か。悪りぃな。はぁ寝みぃ。おい、起きろ」

「ん? あぁすまん。交代か」

音を立てない様に忍び足で近づいて火の番をしていたクラスメイトに声をかける。

既に目も半分は閉まりかけていたクラスメイトは、隣でウトウトとしていた同じ火の番の人を叩いて起こすと、二人してテントへ歩いて言った。


「…名前今更聞けないよね」

正直今初めて話した人だったため、顔は知っているが名前は知らなかった。

あちらも僕を知らなければ今自己紹介的なことができると踏んでいたが、普通に清宮って言われてしまった。


「…あれ、火の番って確か2人だった様な」

「ごめん、遅れた」

寂しく開いた隣のスペースを不思議に思っていると後ろからトントンと肩を叩かれて声をかけられる。


「…室木だったんだ」

「…知らなかったのかい?」

振り向くとすこし寝癖のついた、眠そうに欠伸をこらえている室木がいた。

そのまま僕の隣に腰を下ろす。

僕はすこしスペースを開ける様に隣にずれる。


「そう言えばこうやって君とちゃんと話すのは初めてかな?」

「…そうだっけ? こっちに来るまでは機会が無かったからね」

ボソっと沈黙を破る様に口を開いた室木に僕も同じような声量で返す。


正直沈黙になったらどうしようと思ってたから、はじめに話し始めてくれたのは嬉しい。


僕は室木が何となく降ってくる話題にポツポツと答えていく。

例えば好きな食べ物であったり、趣味や得意な事。 まるで自己紹介をしている気分になって来る。


段々と話題が変わっていく。

好きなタイプ、どんなアイドルが好きかなど、一般男子高校生に有り勝ちな話題だ。


「そう言えば室木は好きな人はいるの?」

「あはは、まぁね。そりゃあいるさ」

そう答える横顔はすこし照れたような笑顔だ。

スッとした鼻筋に切れ長の綺麗な唇。


あぁ、やっぱイケメンだなぁ。

そんな室木が好きな人って誰なんだろ。

久礼野さんかな、仲が良さそうだし。


付き合っているという噂を聞いたことはないが、周りが二人はお似合いというガヤが結構ある。

まぁ僕から見ても二人はお似合いだと思ってる。


「久礼野さんとか?」

「あぁ、よく噂されてるね。でも違うよ。確かに芽衣とは小さい頃からの幼馴染だけどそんな感情はないし」

「…そうなんだ」

やばい、一度でいいからそんなこと言って見たい。

そもそも可愛い幼馴染がいるって何だよ、ずるくないか。

いや僕にも美人な婚約者がいるけど、既にあやふやだしさ。


「…清宮は芽衣のことをどう思ってるんだ?」

「…え、何でいきなり?」

「いや、何となく。で、どうなの?」

じっと僕の目を見つめてきたため、一瞬目を逸らしそうになる。

嘘なんてつく必要もないから別に正直に答える事にする。


「ん、いい人、かな。元からちゃんと目を見て話してくれるし」

「…そっか。つまり好きって事だよね?」

「い、いやそんなんじゃない!」

なぜ良い人からいきなり好きにベースアップするんだよ。

思わず声が大きくなってしまう。


「まぁいいや、それよりさ清宮と土御門さんはどんな関係なの? 前から気になっていてさ」

「…唐突だね、でも何で?」

久礼野さんの話題が続くと僕も答えにくいため会話が変わるのは嬉しいが、次は土御門さんの話題になった。

もしかして室木って結構色恋の話が好きなのか?


「あれ、噂知らないの? 君たちの」

「噂? そんなのあったの?」

「君達が婚約していて、結婚を考えてるって話」

僕が知らなかったのが不思議らしく、首を傾げて聞いて来る。

いや正直どこからそれが漏れたんだ。本当の事ではあるけど僕はこのことを誰にも話した事ないし、話す人もいない。


「…まぁ、その噂は正しいよ。うちは少し特殊で小さい頃から許嫁として決まってたんだ。まぁここに飛ばされたからその話も潰れるだろうけど」

「…そうかい。それはも大変だねぇ」

「ん? どちらも?」

「いや、なんでもないよ」

室木は意味ありげに呟くと、そのままその話を終えて別の話を振ってくる。

まだ火の番を始めて数十分ではあるが、この調子なら次の人との交代まで気まずくならないで済みそうだ。



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