第3話 飛ばされた先は森。

「ほら起きるにゃ! このこの!」


バシッと何かふわふわなものに叩かれた衝撃で僕は目を覚ました。


「ん…ここは?」

少し痛む頭に手を添えつつ体を起こして見渡してみると、あたりは鬱蒼と生い茂る森が広がっていた。


うん、森だ。


いや、なんでだよ。

先ほどまで教室にいたのは確かな筈だ。


「なんで森なんかに、それにアレはなんだ?」

僕の周りには同じようにして地面に倒れ伏している生徒達がおり、その生徒たちを尻尾で叩いて起こそうとしているネコがいた。


そう、喋るネコだ。

姿形はまんまネコといってもいいが、先ほどから少し子供のような高めの声が聞こえる。

起きるにゃ、起きるにゃと。


正直今の状況を理解できない。


しかし、それでもやることはある。

僕は、掴んでいたカバンの中身を確認して神具が無事である事を確認すると、隣で寝ていた阿澄を起こすために体を揺すった。


鬱陶しいほど緑が溢れているが、不思議と暑さもジメジメした空気感もない。

春のように過ごしやすい気候らしい。


「…兄さん」

「あ、起きたか」

「これは一体どう言う状況なんでしょうか?」

ダルそうに体を起こした阿澄は周りをのっ見渡してポツリと呟く。


「今言えるのは僕達は教室から森に飛ばされた。そして、人間は誰もいないが、不思議なネコが一匹いる、と言う事だね」

阿澄に促すように顎でしゃくってネコの方向へ視線を向ける。

どうやら生徒たちも起き上がり、周りを見渡して困惑の声を漏らしている。


「阿澄、神具は無事か?」

「ちょっと待ってください…、無事です。ちゃんとありますね」

僕は阿澄が神具を持っていたことに安堵する。

周りの生徒を見た限り、どうやら最後に身につけていたものした一緒に飛ばされないらしいからね。


「ほらみんにゃ起きたにゃ? じゃぁ説明するにゃ。まず君達がいた世界とは別の世界のいるにゃ。まぁ信じるも信じないも人それぞれ」

森側に二足歩行で立って説明を始めたネコに、戸惑いながらも生徒達が集まってくる。

僕も続いて後ろの方に寄った。


あ、先生に土御門さんだ。

僕の横に阿澄が並び、それに並ぶように先生と土御門さんが並んでいる。


「これは自然現象にゃ。数百年に一度こうしてここへ別世界の者が迷い込んでくるにゃ。みゃぁは天使の使い魔、ミータンで、こうしてわざわざ説明しに来てやったにゃ。感謝するにゃ」

そう言い終わるとやり終えたと言わんばかりに胸を張って、そのまま木の陰で猫のように丸まった。


「ちょっと待ってくれ、自然現象で飛ばされたのはわかった。なら僕達はどうやって帰ればいい?」

クラスを代表するように室木が声を上げる。

周りの生徒も不安げに互いに身を寄せ合っている。


「先生があの役目な気がするんですが」

「あん? 私は良いんだよ、教師だからな」

隣向こうにいる表堂先生に声を潜めて話しかけると、お前は何をいっている言わんばかりに鼻を鳴らして訳も分からないことを言った。

何故そこで大きく胸を張れるのか分からないが、その拍子に揺れる胸を一瞬チラッと見てしまい、すぐに視線を前に戻した。


「…兄さん、今はそんなことしてる場合じゃありません」

「…わ、わかってる」

ジト目で睨んでくる阿澄と視線を合わせずらく視線がさまよってしまう。

いや、揺れるのが悪い気がするんだ。


だから太ももをつねるのをやめてほしい。


「帰り方?そんなの知らんにゃ。ただ、前に来た奴らはこの無人島を出て行ったのは確かにゃ。おみゃーらも出ていけば何か見つかるんじゃないかにゃ?」

「帰り方が分からないのか?! いや、それよりここはまさか無人島なのか?!」

「落ち着くんだ室木よ。お前が慌ててどうするんだ」

帰り方が分からない、無人島、それらの言葉に思わず僕は言葉を失う。

それはクラスメイトも同様で、怒りの声を上げている人がいる。


室木もそのセリフには堪えたらしく、少し慌てふためいたが、傍にいた剛ノ内が体を抑えて落ち着かせる。


剛ノ内は冷静に対処してるんだなと思ったが、剛ノ内の方向を向くと何故か上着を脱いで上半身裸でいた。


いや、何でだ。

そのムッキムキの肉体を露出する必要性は無いはずだが。


「…じゃぁミータンさん、前の人たちはどうやってこの島を出たんだ?それに、僕達はサバイバル経験なんてない、どうすればいい」

「それを今から説明するにゃ」

冷静を取り戻した室木が踏ん反り返っているミータンさんに尋ねると、待ってましたと言わんばかりに飛び起きた。

そのまま短い腕を振るうと、次元が避けるように景色が歪み、中から鉄のプレートのような物がボトボトと地面に落ちた。


「…何だあれ」

「い、今空間が歪まなかったか?」

僕が思わず口から漏らすと、隣にいた表堂先生が目を見開いて驚きを表す。


「えぇ、僕もそう見えました。でもあの猫が言っていた自分が天使の使い魔ということが正しいなら出来るかもしれませんね」

僕なりの見解を咄嗟に説明する。

正直あのネコにそこまでの力があるとは思わなかった。


「これはおミャーらの世界でいうステータスプレートにゃ。簡単に説明すると、次元移動した際に特殊能力が宿ったからそのプレートを使って確認するにゃ。その力で前のやつらはこの島をでたにゃ」

突然のゲームの様な展開に、先程まで焦りや恐怖を表していた生徒達が、次々と好奇心の眼差しを向けながらそれに近づいていく。

女子生徒は不安そうに眺めている子が多いが、男子生徒が積極的に近づいている。


「わかった、確かめてみる。みんな! 何かあったら声を上げてくれ!」

室木も目の前に落ちたステータスプレートを手に取ると、一瞬青色に光ると、何か文字がプレートから浮き上がって再びプレートに定着した。


それを見た僕は、罠ではない事はわかったので同じようにプレートが落ちているところまで行くと4枚拾って先程までいたところに戻る。


「はい、阿澄、それに先生と、あと土御門さん」

「ありがとうございます、兄さん」

「おぉ、気が効くじゃないか」

「あ、あ、ありがと」

阿澄、先生の順に渡して行き、最後に土御門さんに手渡すと、一瞬ビクッとすると目をパチクリさせながら丁寧に受け取った。


もしかして話しかけられたくなかったか?

くそ、また好感度が下がってしまっただろうか。


僕はその反応に少し気を落としつつ、持ってきたプレートを覗き込む。

室木と同じ様に光ると、日本語がプレートに浮かび上がって来た。


名前 アマト キヨミヤ

性別 男

種族 ヒューマン

職業 神主 Lv1

魔法 神魔法 Lv.1

固有スキル 祝詞Lv.1

エクストラスキル 言語理解 神威耐性 御護り 神血制御


「…これがステータスか」

職業は元々神主をしてたしそれが影響してるんだろう。

僕がゲームをあまりしないっていうのもあるけど、魔法とか固有スキル、それにエクストラスキルって何のことだ。


「阿澄、そっちはどうだ?」

「ん、どうぞ」

隣で見ていた阿澄に話しかけると、プレートごと渡して来た。


名前 アスミ キヨミヤ

性別 女

種族 ヒューマン

職業 巫女 Lv.1

魔法 神魔法Lv.1

固有スキル 神楽Lv.1

エクストラスキル 言語理解 神威軽減 御守り 神血抑制


「…似てるな」

「まぁ、兄さんの妹ですから」

そうとしか言えない。

所々違うところもあるが、阿澄も巫女をやっていた影響で職業欄の所が巫女になってるのだろう。


これ以上ステータスを眺めていても意味が無いため、プレートを阿澄に返すと、近くにいる先生と土御門さんにさんの元へ向かう。


「どうでした?」

「あぁ、まぁ普通だな。それより、前の方で何かやってるぞ?」

先生の言う通り、後ろを振り向くと生徒達が集まって何かガヤガヤとしている。

ここだけ離れるのも何なのでみんなで近づいて見ると、室木を中心に人だかりができていた。


聞こえる言葉から察するにどうやらステータスの結果が良かったらしい。

まんざらでもなく嬉しそうな室木だが、すぐに真顔に戻るとネコであるミータンさんに向き直る。


「ミータンさん、ステータスの説明をしてもらってもいいですか?」

「いいにゃ、まず名前と種族、性別はわかるにゃ?で、この世界ではある日突然に職業が決まるらしいにゃ。時期的に15歳前後と多分その時期に大体の将来性のある仕事をしてる影響だと思うにゃ。まぁ取り敢えず、職業は変えられないにゃ」

まぁ今更神主以外の職業に着こうとは思っていないけど、そうであるならこの世界での転職は絶望的なんだろうな。職業に、実際の職業がどれだけ左右されるのかは分からないけどね。


「魔法についてはこれは生まれた時から決まってるにゃ。一つの人もいれば二つの人もいる。数は違えど、これから先変化することないにゃ。で、固有スキルが職業に関係するスキルにゃ。これは努力次第でいっぱい増えるにゃ。そしてエクストラスキルって言うのはスキルの完成形にゃ。一つあれば貴族にだってなれる超すごいものにゃ。まぁ、おみゃーらは次元転移の影響で持ちやすくなっているはずにゃ。じゃぁそろそろ時間にゃ。あとは頑張るにゃよ〜」

ネコはそれだけ言い残すと、体が薄くなっていき消えた。


「あ、おい!」

「ちょっと待って!」

生徒達が突然の出来事に声を上げるが、消えたネコは戻ってこなかった。

どうやら本当に戻ってこないらしい。

本当は情報収集でまだいて欲しかったけど、使い魔だから仕事が終わったから帰ったのか?


「なぁ、これからどうするよ? 帰れないって言うし、島を出るか?」

「出れるわけ無いでしょ?! それにまだ帰れないって決まったわけじゃ無い!」

「…家に帰りたい」

「ここで過ごすなんて無理よ!」

ネコが消えて急に不安になった生徒達は言い争いを始めた。


「取り敢えず、寝床を探さないと」

「そうですね、兄さん」

僕がその言い争いに関与する訳もなく、既に沈みかけている太陽をチラッと視界に入れると、寝るための場所を探すために辺りを見渡す。


森だ、森しかない。

流石にここに入るのは厳しいんじゃないだろうか?


「…ここが一番過ごしやすそうですね」

阿澄も森の中に探しに行くのは無理と判断したらしく、綺麗に整理されたこの広場が今の最適な場所と言葉にする。


僕は取り敢えずこの争いが静かになるまで待つことにした。


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