第2話主人公、清宮天燈がボッチの理由

僕たちが通う高校、凛聖りんせい学園に近づくにつれ次第に同じ学校の生徒が増えて来た。

まだ時間にして7時程と少し早いと思うが、うちの学校は部活動が盛んだから朝練に向かう生徒が多いのだろう。

それでもそこまで生徒が多くない筈なのに、僕たちの周りを歩く生徒たちがチラチラとこちらを見てくる。


ーーー〜〜よね。私は断然こっち派ね。

ーーー〜〜だよ。私は、室木くんかなぁ。


またこれだ。

いったいなんでこっちを見てくるんだ。


別に僕たちがこれと言った有名人でもなければ、人目を集める変な格好をしているわけではない。


毎度の事ならがら僕は少し不快感があるが、隣を歩く阿澄は何も感じていないらしく、澄ました表情で隣を歩いている。


一年の時は見られることはあったが、これだけ多くの視線が寄せられた事はない。阿澄と一緒に登校し出してから増え出して、少し気になったが理由を聞ける友人などいるわけもなく今に至っている。


「それでは兄さん。またお昼にクラスへ行きますね」

昇降口の前で、それぞれ自分のクラスへ向かおうとした時、阿澄がこちらを向いて口を開いた。


「…いや、わざわざ来なくてもいいんだよ? 」

僕がクラスで一人で食べてると話してから、阿澄がお昼に来る様になった。


流石に兄がぼっち飯なのが忍びないんだろうけど、逆にその優しさがグサッと来るんだよ。

どこに妹と一緒にお昼を食べる高校生がいるんだ。

流石にわざわざ来てくれる阿澄を突き放すわけにはいかないが、毎度クラスメイトから突き刺さる好奇な視線が耐え難い。


「兄さんが一人なのは可哀想です。大丈夫です。どうせ私がクラスで食べて居ても一人で食べるか、霧里さんが寄って来るくらいなので」

「…霧里さん不憫だなぁ」

あれだけ好き好きと阿澄に寄ってるのに突き放されるなんて、なんと不憫な子なんだ。


「それじゃあ、行きますね」

「あっ、阿澄!」

さっとスカートを翻して自分のクラスに歩いていってしまった。

止める間もなかったが、まぁ慣れたし別にいいか。


僕が自分のクラスである2年2組の教室の前まで来て扉を開けると、数名だが生徒がいた。

本を読んで居たり、居眠りをして居たりといる中、一人の女の子が僕の顔をじっと見つめて、直ぐに視線を逸らした。


まぁいつものことだけど、彼女、土御門さんはもう少し僕に興味を持ってもいいんではないかと思う。


僕は自分の席に座って、斜め前に座って読書をしている土御門文香つちみかど ふみかさんを眺める。

名前から分かる通り、彼女は平安の世に名を轟かせた

安倍晴明の子孫である土御門家の末裔に当たる人だ。

肩まで届く綺麗なツヤのある黒髪が、窓から届く朝日に反射して綺麗な烏の濡れ羽色を放っている。


先ほども言った様に僕の家系は結婚相手が限られているため、幼い頃から許嫁がいる。

許嫁がいて自由に結婚ができないことに不満はなくはないが、僕の許嫁は彼女、土御門さんだ。

正直、彼女の様なくっきり二重が特徴の美人が相手なら嬉しいことこの上ないが、どうも彼方は僕に興味がないらしい。


僕が小学校に上がるくらいから彼女が僕の結婚相手と決められていて名前を知ってはいたが、初めてあったのは高校に入ってからだ。

それまでは彼女は京都の実家に居たのだが、そろそろ僕との顔合わせのために東京に来たらしい。

僕も初めて見た時は心踊りしたさ。

こんな綺麗な子が僕の奥さんになるなんて思いもしなかったしね。


緊張もあってか少し変な感じに話しかけてしまったが、僕が思ってた返答はなかった。

僕と目を合わせることなくキョロキョロと視線を動かして、なんか言葉をつっかえながら会話を終えてしまった。

偶に話しかけるも、同じ様な反応に僕は少しずつ話しかけるのが申し訳なくなって行った。


「…これ婚約破棄かなぁ」

僕が机に突っ伏して思わず口から漏れる。



だって仕方がないじゃないか。


明らかにあっちは僕と話したがらないし、絶対結婚とか嫌って思ってそうだよなぁ。


机に突っ伏しながらぼーっと時間を潰していると、次第に登校してくる人が増えてきた。

それぞれが友達に挨拶していく中、僕は当たり前の様に頭を上げることはない。

友達もいないで机ぼーっとしてるのはなんか恥ずかしい。

だから寝たふりをして、僕は友達がいないんじゃない、ただ寝てるだけだとアピールしてるのだ。


「みんな、おはよう!」

少し高めの男の声が教室に響くと、ほとんどの生徒が好意的に返していく。

おはよう、と。


「がははっ! お前ら、おはよう!」

一緒に来たのか、低いテノールの様な響きの声が元気よく聞こえて来た。


あぁ、彼らか。

相変わらず人気だな。


僕は思わず顔を上げて彼らに視線を向ける。


そこにはイケメンという名詞が彼のためにあると言っても過言ではないほど、端正な顔をした青年がいた。

天然なのか少し茶色を帯びた髪は柔らかそうにふわっとしており、鍛えているのか少し筋肉質そうな体。

そして王子様の様な太陽の様な笑顔が特徴の男だ。

確か名前は室木聖也むろき せいやとか言った気がする。


正直、ツクヨミ様を知らなければ男の僕でも一瞬見惚れるくらいだ。まぁ、美という概念を内包した神という存在には敵わないだろうが。


隣にいる男は、違った意味で見惚れる、いや驚き見つめてしまうだろう。

190を超える様な巨体に、ボディビルの選手並みの盛り上がった筋肉。

顔は少し角ばって怖い印象を与えるが、それでもそのマニアにとっては野生的で素敵と言われるだろう。


すまないが名前はよく覚えていない。

確か、剛ノごうのうちという名字は覚えているが、下はよく覚えていない。


そんな彼らは、後ろの方で女子3人を加えて固まって話をしている。

所謂スクールカーストのトップにいる様な華やかなグループだ。

女子3人も顔が平均以上に整っており、それでコミュ力も高くクラスでは友達も多いのだろう。


ほんと羨ましい。


僕だって入学当時はあんなグループにいたいと思ったさ。

これでも中学では友達はいたのに。

なぜ仲良くできないんだ。


いや、言い訳をさせてもらうなら、僕は悪くない。

だってそうだろう、中学の時もそうだったが、話しかけると、少し挙動不審な様子で対応されれば2回目に話しかける勇気も無くなるさ。

正直、後ろにいるカーストトップ勢は話しかけてもしっかり対応してくれた記憶があるが、僕はあそこの中に入るほど勇気はない。

2年のクラス替えが終わって1日目ですでに五人グループはできていたからだ。

それに加えて他にちゃんと話してくれる人がいなければぼっちのなるのはある意味必然なのだ。


「…友達ってどうやってできるのかな」

僕はついカバンから携帯を取り出して検索バーに「友達の作り方」と打ち込もうとした時、教室の前の扉が開いた。

どうやら教師がもう来たらしい。


僕は携帯をポケットにしまうと、姿勢を正して前を向いた。

他の生徒もそれぞれ机に座って教師が話し出すのを待っている。

扉から現れたのはまだ若い女性教師の、表堂生花ひょうどう せいか先生だ。

特徴といえば、いつもダルそうに肩を下げて歩き、美人なのに一切メイクをしていないことだろうか。

それでも美人と思うのは顔の作りがいいんだろうな。

あとは、上下緑のジャージで、上のジャージは開いて中のTシャツが見えている事だ。

以前男子生徒がジャージを閉めない理由を聞いたら、胸が苦しいと答えが返って来た。

Tシャツのロゴが読めないほど押し上げる胸を見れば、ジャージを閉めるのはきついと想像できる。


まぁ、男っ気が強いのが恥ずかしげも無く答えたその姿は少しかっこよかった。




それから眠そうに目尻を下げた表堂先生が口を開くのを生徒らは待っている。




僕はこれから、いつもの取り留めもない日常が始まると思っていた。





だけど違った。





前を向いた瞬間吐き気を催すほど、強い神威を感じた。

一度だけツクヨミ様に神の本当の神威を感じさせてもらったことがある。

普段は人間には害が強すぎるため抑えていると言っていたが、あの時と同じ気配だ。


いや、あの時以上に強い悪意、憎悪に似た感情がこの教室全体に向かって来ている。



やばい。



僕は咄嗟に、意味もなく椅子から立ち上がる。

取り敢えずなんとかしなきゃいけないと思ったからだ。

立ち上がった拍子に勢いよく椅子が倒れたらしく、周りの生徒が驚いた表情でこちらを眺めてくる。


「ん?どうした、清宮」

女性にしては少し強めの口調で、表堂先生がこちらを不思議そうに見ながら口を開いた。


それに返している暇もなく、僕は急いでカバンへ手を伸ばしかけた時、それはやって来た。



これは、…くるっ!



悪意の篭ってエネルギーが教室に届いた瞬間、2組の教室を覆い尽くすほどの巨大な魔法陣に似た円状の模様が現れる。

強烈な光を放ちながら中心から広がる様に一瞬で大きく広がった。


なんだこれは、強い神威が込められているのか?!


「え?なにこれ?!」

「ま、眩しい!!!」

「な、なんだよこれ!」

教室に居た生徒たちは突然現れた異常に慌てて席を立って叫び散らす。


僕は、急いで机の脇にかけて居たカバンを乱暴に掴み上げると、中から筆を取り出そうとカバンに手を突っ込む。


「落ち着くんだ、みんな!取り敢えず外に出るんだ!」

声を張り上げる様に、室木が生徒に指示を出す。

表堂先生の方は驚きながらも慌てて、扉の方へ走り出した。

それを見た生徒たちは、眩しい光に目を細めながらもそれに続く様に扉側へ走り出すが、彼らの手が扉を開ける前に勢いよく開けられた。


「兄さん!!」

「…阿澄! 今すぐ離れるんだ!」

眩しさで姿は見えないが、その声は聞き慣れた僕の妹の声だった。


しまった、阿澄もこの嫌な神威を感じ取ったのか!

僕は咄嗟に阿澄の声が聞こえた方向へ怒鳴る様に声を上げるが、既に遅かった。


やばい! 神威が強くなっていく…!


広がりきった魔法陣が一層強い光を放つと共に、僕の意識は眠る様に消えていった。


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