水晶玉の向こう側
京高
勇者候補、発見!?
とある薄暗い一室で、一組の男女が水晶玉を覗き込んでいた。
「彼らが勇者候補だと?」
「その通りです」
「……導師様のことを疑う訳ではありませんが、そのようには見受けられないのですが?」
女性が不満げな声を上げたのも無理はない。そこに映し出されていたのは、まだ少年少女という呼び方が妥当だと思われる年齢の若者たちだったからだ。
「お言葉ですが、エルフを始めとした長命種の例もあります。見た目だけで子どもと侮るのは失敗の元になるかと」
「それはそうですが……。しかし、この者たちからは覇気や気迫といったものが感じられません!」
その言葉に合わせたかのように、水晶玉の中央に映っていた少年が、寝ころんだまま大きな口を開けて欠伸をしたのだった。しかもよく見てみれば高価な本を何冊も枕のように頭の下に置いているではないか!
「…………」
「…………」
「……や、やはりこのような者たちに我らが世界の命運を預けることなどできません!」
「しかし姫様、我々にはもう、これ以外の手立てがないというのもご存じのはずですぞ」
癇癪を起こす女性に対し、男性の方は淡々と現状を告げる。
「姫様、今はともかく生き延びることだけを、勝ち残ることだけを考えることにしませんか?」
「…………」
「生きていさえすればきっと、望む未来を引き寄せる機会にも恵まれましょう」
「……分かりました。今は、ただ、耐えましょう」
女性の賛同が得られたことに、男性はホッと小さく息を吐く。
そして意を決して立ち上がると、部屋の奥へと向かう。
そこにあったのは、複雑な図形と文字が組み合わされて描かれた、召喚の魔法陣だった。
「テイク・マック・マイ・ヤコン。テイク・マック・マイ・ヤコン。ラー・ミパス・ラー・ミパス・ル・ル・ル・ル・ル。エイロ・エイム・エス・アッスゥアイムウ。ユウテイム・キムンコウ・ペ・ペ・ペ・ペ・ペ。ガングウ・ダイサン・カイハツ・シツノホ・シー……」
重々しい男性の声で呪文が紡がれていくごとに、魔方陣が薄っすらと輝いていく。姫と呼ばれた女性は、その様子を息を止めて見つめていた。
「フッカツー・ノ・ジュモーン。ふぁ。マチガエルト・ツラーイ。ミナオシ・タイセ……ふぁ……、ぶわっくしょーい!!……あー、すっきりした」
「ど、導師様!?」
「ハッ!?し、しまった!?」
突如、大声でくしゃみをしてしまう男性。そしてそれが切欠となったのか魔方陣が強く輝き始める。
「ど、どうなりましたの!?」
「分かりませぬ!!」
カッと一際強く輝いた後、ようやく目が見えるようになった二人の前に立っていたのは、
「な、なんだ?」
「どうした?」
困惑した様子ながらもポージングを続ける筋骨隆々な数名の男たちだった。
彼らこそ押し寄せる魔物や悪魔たちをことごとく打ち倒しては、世界に平和をもたらし、後年『マッスルファイター』として呼び称えられることになる英雄たち、なのだが……。
その事を知る者はまだ誰もいない。
水晶玉の向こう側 京高 @kyo-takashi
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