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「勝手なんだよね。自己満足っていうの?」

「いや、自己満足でいいんじゃねーの? 俺らだってそうだし。それで特別課題やってんだからさ」


リーチ君に認められた事が照れくさくなって、私は原稿で顔を隠して笑った。

私が歌子ちゃんを助けたいと思う気持ちは自己満足だ。自分が楽になるから、だから歌子ちゃんを助けたい。それだけ。

でも思い出せばリーチ君達だって自己満足で私達を助けてくれている。


「それ、朝日に言ってやれよ。確かに自己満足だけどさ、そういう気持ちのが信用できるぜ」

「信用、できる?」

「適当に『お前のため』とか『正義のため』とか言う奴よりはな」


確かに、自己満足というわかりやすい目的は信じやすい。偉そうな事を言う人よりも。

そもそも関係ない私が歌子ちゃんの件に関わって、歌子ちゃんはどう思っているのだろう。その辺りをはっきりさせた方がいいかもしれない。


そこで私はぴんとひらめいた。


「ねえリーチ君。ちょっとお願いがあるんだけど」

「なんだ?俺にやれることなら聞くぜ」


ごにょごにょと私は小声でひらめいた内容を伝えた。リーチ君は驚いていた。ていうか、呆れていたというのが正しいのかもしれない。


「まじかよ……そんなんやるの?」

「うん。やりたい」

「……止めないけどな。もう少し計画詰めようぜ」


私達は組体操の練習時間が暇であるのをいい事に、計画を立てた。

私の自己満足でついでに歌子ちゃんが助かればいいという計画を。

 




■■■





それから数日して、私は再び来人君と一緒に歌子ちゃんの家を訪れた。光さんに歓迎される。広い玄関に歌子ちゃんの小さなスニーカーを見つける。どうやら今日その作戦が実行できそうだ。


「歌子ちゃんのお部屋の外から歌子ちゃんに声をかけていいですか?」


明るいリビングで、また体に良さそうなおやつを出してくれた光さんに私はそう許可を取ることにした。


「六年生の私がいきなりお邪魔して、歌子ちゃんはきっと不思議だと思うんです。自己紹介をさせてください」

「……小夜子ちゃんの話はよく歌子ともしてるよ。でも、そうだね。自分で自己紹介したいよね。いいよ」


戸惑われるのではないかとおもったけど、光さんはそれを認めてくれた。普通なら心にもないことで説得されると思って親としては嫌がるかもしれない事だ。けど、私を信用してくれたのだろう。


歌子ちゃんの部屋を教えてもらい、そちらにカバンを持って一人で向かう。来人君は光さんと一緒にリビングにいてもらう。二人だけで話をしたいからだ。

歌子ちゃんの名前が書かれたプレートのかかった扉。それをノックする。返事はない。


「歌子ちゃん。こんにちは。私は六年生の小松小夜子です」


まずは扉に向かっての自己紹介。すると部屋の中からかたんと物音がした。多分、びっくりしたんだと思う


「開けなくてもいいし、返事をしなくてもいいからね。でも自己紹介だけさせて。きっとなんで関係ない人が来てんだろう、って歌子ちゃんは思ってるはずだから」


なるべく明るく通る声で扉に語り続ける。返事はないし、反応もみえないからやりにくさはある。けどやってみると決めた。


「ここに来たのは来人君の付き添いみたいなものなの。でも、歌子ちゃんの事を知って、歌子ちゃんと話してみたいと思った。私、背が高くて嫌な事を言われる事が多いから。髪もいじめられっ子に切られちゃったし」


はっと息を飲むような音が聞こえた。今のはちょっと引かれたほどにひどい話かもしれない。でも本当の事だ。


「自己満足なんだよ。歌子ちゃんと仲良くなれたら私が嬉しいだけ。だから、歌子ちゃんが迷惑ならもうここには来ないから」

「……別に、迷惑なんかじゃない」


返事があった。うっかりしてると聞き逃しそうな、小さな声が届く。

慌てていると、私は鞄の存在を思い出した。リーチ君の言ってたことは本当だ。自己満足だっていったら、歌子ちゃんのなかで変な疑いはなくなったみたいだ。だからさらにリーチ君が用意してくれたプリントで、自己紹介を続ける。


「あのね、これ、私。写真、ドアの下から渡すから」


幸い床とドアの間に隙間はある。紙一枚ならなんなく通る隙間だ。

私はその隙間に、ミロワールの広告を差し込んだ。写真とは、ミロワールの広告用のものだ。


「すごいでしょ。私モデルやってるの。普段はただ背が高いだけの小学生だけど、色んな人が関わって、こんなに綺麗に撮ってくれたの」


自慢になってしまうけど仕方ない。でも、これはどちらかと言えば関係者の自慢だ。きっと私だけなら垢抜けない背が高いだけの子供だけど、メイクさんやデザイナーさん達がこんなにすごい女の人に見せてくれる。


「それでね、次のプリントがこの広告の私への悪口」

「えっ?」


次のプリントをドア下に差し込む。歌子ちゃんは困惑して思わず声をあげたみたいだ。

二枚目のプリントは悪口だ。ネット上にあるSNSとかで、この広告を見た人が言った悪口をリーチ君に探してもらいプリントアウトしてもらった。

『目が大きすぎてきもい』から『ミロワールのイメージにあわない』、『来栖芽衣子のほうが良かった』『私の彼氏が浮気した女に似てるから嫌』なんてものまである。

これでも本当にひどい悪口はリーチ君が削除してくれたらしい。


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