10
「でも、蘭子ねーちゃん相手でもブスだのなんだの言う奴がいるんだよな」
「目がおかしい人なの?」
「いや口がおかしい人なんだろうよ。言っとくけど、そういう奴らは蘭子ねーちゃんがいくら努力したって意見を変えないんだ」
「もっと美人になったとしても、悪口を……」
「そう。それが悪口言いたい病。言ってる事が正しいかはともかく、言わずにはいられねーの。この間のアンチの話に近いかな」
「一体なにが原因でそんな病気に……?」
そういう病気のいる人がいるのはわかるけど、どうしてそんな病気になってしまうんだろう。
悪口なら誰しも言うかもしれない。嫌いな人とか、感情がたかぶったりしたら私だって言ってもおかしくない。けれどきっとその病気は真実じゃなくても、嫌いな相手じゃなくても、冷静でも言う。
そうなってしまうなんて、普段の習慣とかウイルス感染だとか、そんな原因があるのだろうか。
「原因は知らね。でも『人をバカにしてる間は自分はバカじゃない』とか思えるんじゃね?」
リーチ君もやはりその病気には縁がないらしい。だからなんとかなくしかわからないようだ。
「その病気、治す方法はないの?」
「薬でもあればいいんだけどな。自然に治るのを待つしかねーわ」
「それって大人になれば治る、ってこと?」
「いや。そのうち痛い目見るってこと。そんで賢い奴ならそのうち治る。けどバカなら一生治らない」
私は楠木の事を考えた。あんなにだれかれ構わず悪口を言っていれば、いつか殴りかかる人もいる。そっと距離をおく人もいる。それが痛い目。それで反省ができればこの病気は治る。反省できなきゃずっとそのまま。
「だから原因をなんとかしようとしたって無駄なんだよ。一番いいのは朝日が気にしない事だけど、そう簡単にはいかねーよな」
「うん……」
歌子ちゃんが我慢すればいい、なんて思わない。なんでまともな歌子ちゃんがまともじゃない楠木達のために我慢しなきゃいけないんだ。
でも言われた事は気にしないでほしいとも思う。私だけじゃなく、八雲先生や光さんもきっとそう思うにちがいない。
「それにしても、ずいぶん肩入れしてるよな、小夜子は」
リーチ君は突然私の話題を始めた。その表情は嬉しそうな笑顔で、きっと褒められてるのだと思う。
「うん。なんとかしたいの。これは私のためでもあるから」
「小夜子のため?」
「私も体型で悪く言われたり、いじめられてたから。もうそれほど気にしていないけど、たまに思い出すの。皆に言われた事」
ノッポだ生意気だと言われたこと。髪を切られたこと。今はモデルになって前向きになったけど、言われた事やされた事は私の中から消えない。思い出してつらくなることもある。
「……今は泣き言言ってもいいぞ」
「大丈夫だよ。ありがとう、リーチ君」
私とリーチ君の約束。前向きになること。
でも落ち込んでいるのに無理させちゃいけないと、リーチ君は今だけ後ろ向きを許してくれた。
でも本当に平気なので、ありがたくも話を続ける。
「ええと、つらい気持ちはなくならないよね。つらくなる回数が減るとかつらさが薄くなるとかはあるけど」
「ああ、わかるぜ。俺も、たまにそうだ」
リーチ君もそうは見えなくてもいじめられっ子だったから、わかってくれる。つらい気持ちは完全にはなくならない。解決しても、もう大丈夫だと思っていても、ふとした時に思い出してしまう。
「つらい気持ちから楽になるには、同じ状態の誰かを助けてあげればいいと思うの」
「小夜子が朝日を助けると楽になるってことか?」
「うん。私、歌子ちゃんの事を考えると自分がされた嫌な事を思い出すの。でも落ち込んだりはしない。歌子ちゃんの心配をしてしまう」
私は歌子ちゃんの事をよく知らない。なのに不思議だ。自分が思い出して落ち込むよりも先に、歌子ちゃんの心配をしてしまうなんて。
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