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それから一日たって、私と来人君はリレー練習の空き時間を使って、グラウンドの隅で情報交換をしていた。来人君は歌子ちゃんを登校させるのに乗り気だ。どこかズレてるだけで。



「それにしても、昨日はかんじんのいじめについての話は聞けませんでしたね」

「あ、そうだね。結局昨日はダイエットの話ばかりだったし」 


私も体型が原因ならなんとかしたいと思ってしまうし、光さんもとても熱心に聞いてくれた。だからダイエットの話ばかりになって、いじめの話なんてできなかった。


「でも、光さんはいじめを認めてたよね。つまり認めてないのはクラスの子だけって事?」

「まだわかりませんよ。朝日さん本人の考えは聞けてません」


そういえばそうだった。本当はいじめられた側の意見をまず聞くべき。なのに私達は歌子ちゃんの意見をまだ聞いていない。

歌子ちゃんは体型は気にしていたようだけど……


「小松さん、赤羽君」


悩んでいたら、ジャージ姿の八雲先生が声をかけてきた。その表情は笑顔だ。


「昨日はありがとう。君達のこと、朝日さんのお母さんから聞いたわ」


八雲先生は私達を見てお礼を言いにに来てくれたみたいだ。昨日とはずいぶんと雰囲気が違ってやわらかい。


「とくに小松さん。朝日さんのお母さんにダイエットのこつ教えてくれたのね。……ごめんなさい。私ね、小松さんを誤解してた」

「えっ?」

「小松さん、やせててきれいだから。偏見を持ってたの。『きっとこの子も朝日さんをバカにしてるんじゃないか』って」


頭を下げる八雲先生。それを見て私はやっと気付いた。

昨日の八雲先生は、私を警戒していた。太っているという歌子ちゃんのため、本人と仲良くもない六年生の私が家に行くのを阻止したかったのだろう。

そりゃそうだ。関係のない私が急に出てきたら、『太っている子を笑うつもりなのかも』と考えるかもしれない。


「でも朝日さんのお母さんの電話でよくわかったの。小松さんは親切にダイエットについて教えてくれたって」

「本当に役立てたかはわかりませんけど……」

「それでもいいの。朝日さんのお母さん、ダイエットでかなり参っていたみたいだから。あなたみたいな子が親身になってくれたら、それだけで安心できたはずよ」


そういうものなのだろうか。でも、光さんが疲れていた事はわかっていた。普段の食生活が体型になる。そう思うと普段食事を用意する人には責任は大きいのかもしれない。

やがて八雲先生は周囲を見回して人がいないこと、私達の練習の番が回ってこないことを確認してから、深刻そうに話を切り出した。


「……本当はね、朝日さんの件はいじめじゃないの」

「えっ?」


私と来人君は二人同時に驚いた。先生や光さんは確かにいじめだと言っていたのに、違うという。一体どっちが本当なのか。


「でも私はいじめだと思っているし、何より朝日さんが深く傷ついてる。それで、君たちだけには話しておきたくて」

「何があったんですか?」

「クラスの男子が朝日さんを、……『ブタ子』って呼んだらしいの」


あまりのひどい悪口に、私はしばらく空いた口がふさがらなかった。多分、歌子ちゃんの名前をもじった最低なあだ名だ。


「その時は朝日さん、辛そうな顔をしてた。でもいつからかあの子はブタ子って呼ばれても、笑うようになったの」

「それは……吹っ切れたとか?」

「そうかもしれない。そうすれば皆が笑うから。そう思ったら、嫌がってる様子なんて見せられないでしょ?」


聞いていて辛い話だ。最初は歌子ちゃんは辛かったし、その様子を見せていた。

けど、いつからか歌子ちゃんは考えた。

『こんな悪口くらいで暗くなっちゃいけない』

『私が暗くなったら皆まで暗くなる』

『私が笑って流せばいい』

明るい歌子ちゃんだからこそ、周囲の雰囲気を第一に考えて笑い飛ばす事にした。本当は傷ついているのに。


「そのあだ名、言い出したのって楠木君ですか?」

「そ、そうよ。よくわかったわね」

「口が悪くて有名な子ですからねー」


来人君はそんな事に気付いたらしい。私も色々と言われた、あの坊主頭の楠木。でも今は犯人探しをしている場合じゃない。

なにより歌子ちゃんを笑ったのはクラスの皆だ。自覚はないかもしれないけれど、皆が笑った事で歌子ちゃんは傷付いた。

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