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「歌子さんと同じクラスの赤羽です。プリントを届けにきました」
満点とも言えるしっかりした来人君の挨拶に、歌子ちゃんママはほっとしたように感謝をインターホンごしに伝えた。
『わざわざありがとう。少しだけ待っててね』
広い家なので出てくるのにも時間がかかるようだ。やっと玄関から出てきた歌子ちゃんママは、まず私の存在に気付く。
「えっ、先生!?」
「生徒です。六年生です」
予想していた反応に冷静に返す。この身長で制服はアレンジしてるから、先生が来たと思われたのだろう。
それでも歌子ちゃんママは私の姿をじっと見ている。身長の低い人なので見上げているというのが正しい。
「あの、プリントです」
「あ、ああ、ごめんなさいね」
「歌子ちゃんの調子はどうですか?」
来人君は目的のプリントを渡す。そして予定していた質問を投げかける。それでも歌子ちゃんママは私の存在が気になるらしい。話に集中できていない。
「あのっ、あなた、普段何を食べているの!?」
「えっ!」
「やっぱりサラダ? それともチアシード? ご飯は玄米なの!?」
必死の形相で私に質問する歌子ちゃんママ。このかんじも、私は慣れているから冷静に返す。
「私は普通にご飯を食べてこうなりました」
多くの人は私が普段何を食べているかを聞く。私みたいに小六でこの身長だと、『きっと牛乳をいっぱい飲んでいるに違いない』とか、そんなことを思っているのだろう。でもサラダとかチアシードとかは初めて聞かれた。チアシードって確か、大人のお姉さん達が美容の為に食べたり飲んだりするものだったと思う。モデルの仕事の参考に見た雑誌にのっていた。
「母子家庭で自分でご飯を作るので好き嫌いはありません。最近はお惣菜も多いですけど」
「じ、自分で作ってるの……?」
このやりとり、四月にもザクロ君相手にした気がする。そんなに驚かれても、私の作る料理なんて焼いたり混ぜたり煮込んだりする程度なのに。
それにモデルの仕事が忙しくなってからはお惣菜を買ったり冷凍食品だったりで時間重視にしてる。
でもどうして歌子ちゃんママは私の体型と食事をこんなにも気にするんだろう。
「良かったら上がっていって。それでお話を聞かせて欲しいんだけど、どうかな?」
それは情報収集しに来た私達からしてみればありがたい申し出だった。
■■■
クーラーの効いた朝日家は快適だった。強い日差しがレースのカーテンを通して柔らかくリビングに差し込む。そんなリビングに通された私と来人君は自己紹介とお家訪問した経緯を話した。歌子ちゃんママは光さんというらしい。
「ごめんなさい、今うちにこんなものしかなくて」
まず光さんに出されたのは麦茶。それと小魚のおかしだった。アーモンドフイッシュにチーズを乗せて焼いたやつだ。
「あっ、あの、見た目悪いよねっ。どうしよう、うちケーキとかクッキーとか買わないようにしてて」
「いえ、食べます。チーズせんべいですよね。私もよく作ります。それにアーモンドフイッシュ乗せて……カルシウム多くて良さそう」
光さんが私達のために用意してくれたものだ、とりあえず食べてみるとパリパリでしょっぱくて、黒胡椒がぴりっとしてておいしい。
私はクッキングシートにスライスチーズを乗せてパリパリになるまでレンジでチンして、それを砕いてサラダやカレーにのっけたりしてた。けど、アーモンドフイッシュごとパリパリにするのも有りかもしれない。
「おいしいです」
「ありがとう。さすが小夜子ちゃんは料理がわかってるのね」
「本当だ、おいしいです」
来人君も気に入ったらしく何枚も食べる。暑いからしょっぱいものはよく進んだ。そして半分ほど食べてから本題に入る。
「それで、話なんだけどね、」
光さんが私達を招いておやつまで出した理由。それは落ち着いて話がしたかったからだ。
「うちの娘、歌子はね、ダイエット中なの」
「ダイエット……」
それで私の全身をじっと見て、食事を聞いて、ケーキやクッキーじゃなくチーズせんべいを出していたのだろう。ようやく納得がいった。
「クラスで太っている事を原因にいじめられたらしいの。だから不登校になったのね」
つらさを隠すため勢いをつけて光さんが言った。
「でも、朝日さん……歌子さんは別に太ってないですよね?」
「そうなの、私もそう思うの! 今のままで十分かわいいのに何言ってんだってかんじ!」
来人君は歌子ちゃんの姿を見たことがある。しかし別にいじめられるほど太っている訳ではないらしい。一方光さんも、親だからというものだろうけど、太ってるなんて思っていない。
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