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「明るい子だよね。よく喋るし、友達多いよ」


サイドの髪を三つ編みにしてさらにそれをカチューシャにした子が言った。そのカチューシャちゃんの返事は予想外だ。普通、いじめられっこって暗くて喋らなくて友達の少ない子だと思うのに。

たすく君もそう思っていたらしく、私達は視線を合わせて小声で話す。


「男子からのいじめかも」

「そうだね、そっちも聞いてみよう」


私達は質問の方向を変える。小学生の男子と女子というものには普通大きなへだたりがある。だから女子とは仲が良くても、男子にはいじめられたかもしれない。私もそうだったから。


「歌子ちゃんって、男子とケンカしたりしてる?」

「男子とも普通に仲いいよね。ケンカ……はあるかもだけど、そんな大きな言い争いは見たことないよ」


ポニテちゃんが答えた。不思議なことにいじめの文字が出てこない。ここで私は思い切った質問をしてみた。


「歌子ちゃんがいじめられてるって、本当?」


その質問に、二人は目を丸くした。


「なにそれ、歌子ちゃんいじめられてるの?」

「そんなのないよ。うちのクラス、いじめなんてないもん」


二人は驚いて、そして少しだけ不快そうにしていた。見に覚えのないいじめを疑われて、嫌な気分になったのだろう。嘘とは思えない。謝りつつさらに質問をする。


「そっか。ごめんね。でも歌子ちゃん、ゼロ組になって登校拒否しているみたいだからさ。あ、君達は歌子ちゃんがどうして学校に来ないか知ってる?」

「それは……聞いたことはないけど、ゼロ組が嫌とか、そういう事じゃないの?」


と、ポニテちゃんが。


「ゼロ組ってあの眼鏡の子が怖いよね。歌子ちゃんだし、いじめで不登校とかは絶対ないよ」


と、カチューシャちゃんが。

やはり嘘とは思えない。嘘だとしたら女優だ。本当に二人は知らないのだろう。

次に私が何を聞くかで悩んでいると、たすく君が質問した。


「最後に僕から質問させて。朝日歌子ちゃんと一番仲がいいのは誰かな?」


私はたすく君の質問に、おっ、と感心した。二人は親しげにしていても歌子ちゃんの浅い部分しか知らない。だからもう別の人に聞く。歌子ちゃんの親友なら、きっと詳しく知っているだろう。


「歌子ちゃんの一番の仲良し……誰だろう?」

「皆と仲いいよね。よく二人で一緒にいるような子はいないんじゃないかな」


参考にならない答えだった。歌子ちゃんは友達は多いけど、そのため親友と呼べる子が誰だかわからないらしい。

その二人の女子とはそれで別れて、私達は廊下のはしで一旦作戦会議をする。


「いきなり手詰まりだね……」


たすく君は言った。

私は男子にも意見を聞こうかと教室内を見回す。しかし坊主頭の楠木とかいう男子と目が合って、げっ、と虫を見たときのような声をあげてしまった。


「六年生が、五年生のクラスに来てんじゃねーぞ」


案の定楠木は私達に絡んでくる。それにたすく君はかばうように私の前へと立ってくれた。


「じゃあ君は先生じゃないからって職員室に行かないの? 先生に呼ばれても? 用事があっても?」


にこにこたすく君が優しく聞けば楠木は何か言いたさそうにするが黙る。笑顔でたたみこまれるこのかんじは、反論しにくいことだろう。


「うるせーノッポ!」


苦し紛れにそう言って楠木は去っていった。その言葉に私は笑う。

ノッポって。確かにたすく君は背が高いけど、私より低い。なのにノッポとしか言い返せないのは、楠木が見たまましか悪く言えないという事で、怒るのもばからしくなる。


「……あの子みたいな子がいる限り、いじめがないなんてこと、ないと思うな」

「そうだね。小夜子ちゃん、もっとよく調べよう」


どれだけきれい事を言ったって、性格の悪い人や口の悪い人はいる。本来いじめなんてバレないようにすることなんだから、調べ尽くしたほうがいい。


「そういえば、歌子ちゃんは五年ゼロ組に最近なったんだよね?」

「うん」

「いじめられて不登校って最初から言ってたけど、それは誰が言ってたの?」

「えっと、確か来人君で、」

「歌子ちゃんが来人君にそう言った、と思う?」


あるためて私に確認をするたすく君。しかし私はたすく君ほど記憶力が良くないから、不確かな記憶だ。

確か夏休み前、初めて五年ゼロ組に行った時。おしゃべりな来人君は聞かなくとも教えてくれた。五年ゼロ組は女子が二人いてどちらも学校に来ていない、と。そしていじめで来なくなったという女の子がいて私は感情移入した。そこまで覚えてる。

確かそれを言ったのは来人君だ。そしてその場にいた池澤先生もちょくちょく口を挟んでいたからいじめというのは間違ってはいないのかもしれない。


「あのね、ゼロ組はいじめられっ子が来ることもあるけれど、どの先生が歌子ちゃんをゼロ組行きにしたのかな。その人からしてみれば、歌子ちゃんがいじめられてたってことかな」

「あっ」


私はたすく君の言葉でようやく気付く。歌子ちゃんがゼロ組にいるという事は、その理由がある。その決定を下した人ならきっと何か知っている。たとえば歌子ちゃんの担任の先生だとか。




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