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胸がほんわかとする後輩とのやり取りだ。しかしそのほんわかしてる時、後ろから肩を叩かれた。


「どうもです!」

「……来人君」

「小夜子先輩は今日もかっこいいですね。走る姿まで美しいです!」


後ろに居たチームは来人君とリーチ君のチームだった。来人君はいつものように私を褒めてから会話に入る。

彼は六年ゼロ組の熱狂的なファンだかららしいけど、私はそれが苦手だった。なんだか店員さんにお世辞を言われているような、そんなかんじがするからだ。店員さんは商品を売るためならお世辞も言って当然だけど、学校の後輩である来人君がここまでお世辞言うのは変だとおもう。


「あれ、来人君達のチームは三人なんだ?」

「ああ、もう一人は五年ゼロ組のやつで不登校なんだ。だから三人」


来人君についてきたリーチ君が答える。確か、五年ゼロ組には三人の生徒が通っている。ただし登校しているのは来人君だけ。残り二人は不登校らしい。


「もう一人は朝日さんって子なんですけど、いじめで不登校なんですよね。僕としてはゼロ組にも登校してほしいのですが。リーチ先輩、なんとかできませんか?」

「できねーよ」


あっさりとリーチ君は答える。私にはそれが意外だった。私の頭の中のリーチ君なら、『いじめで不登校? だったらいじめ解決して学校にこさせようぜ』なんて言いそうなのに。


「その朝日って子は自分で決めたから学校に来てないんだ。その決意を俺たちがどうやってくつがせるっていうんだよ」

「いじめがなくなれはくつがえせるのでは?」

「いじめを完全になくすなんてこと、できると思うか? やめさせたとして隠れてやるようになるか、別の誰かがやるようになるだけだぜ。だから俺は無責任に学校に来いなんて言えねーよ」


なるほど。リーチ君は助けてくれるけど、最後に誰かがもっと困るような手段は絶対にとらない。四月に私を助けてくれたのは自分の手の届く範囲だから。それに私が多少の事では動じなくなった強さを得たから。

けれど朝日さんの場合、一学年下だ。何かあるたびに私達が助けるには遅れるし、私達はあと数カ月で卒業する。

半端な助けかたをして、悪化させてはいけない。それは無責任だ。


けれど私的には朝日さんを助けてあげたい。それはきっと、私と朝日さんが似ているからだ。そんな私の考えを見抜いているのか、来人君は私にねだった。


「小夜子先輩、なんとかなりませんか?」

「……いじめは解決できそうにないの?」


私もそれについ答えてしまう。登校は朝日さんが決めること。だけどいじめをなくす事、それについて考える事ならやって損はないと思う。


「いじめについては詳しく知らないんです。小夜子先輩。今日、調べてみませんか?」

「おい、来人。あまり小夜子を巻き込むな」

「小夜子先輩だって解決したいと思いますよね!?」


来人君に力強く確かめるように聞かれては、私は頷いてしまう。私だっていじめられて、それを助けられた。私だけが助かって朝日さんが助からないというのはよくないことだと思う。

リーチ君はその大人びた考えから乗り気ではないようだけど、私はやりたい。


「やろう。状況を探るだけなら大丈夫だと思うから」

「……探るだけだからな。あまり深入りはすんなよ」


リーチ君はしぶしぶそう返事をしてくれた。これが六年零組の、二学期初の特別課題となる。





■■■





さっそくその日の放課後、私とたすく君とで五年二組の聞き込みを行う事になった。

私が女子に話しかけ、たすく君がそれを記憶する。いじめの状況はよくわからないけど、女子のうわさを探ればすぐ話は掴めるだろう。


五年の教室をこっそりのぞいてどう話を聞こうか迷っていたら、私達は早速五年生女子に見つかった。


「六年の小松さんだー」

「ほんとだ、モデルやってる小松先輩だ」


目ざとい女子二人組が私達の元へ駆け寄った。どちらも流行に敏感そうな女の子で、私みたいな制服アレンジをして、髪は手のかかる形に結ばれている。

そんな五年生だから私の存在は知られていて、『こっそり』は無理な話だったらしい。

まぁいいかと私は開き直る。


「質問していいかな?」

「質問?」

「朝日歌子さんのこと、聞きたいの」

「歌子ちゃん?」


パイナップルみたいなポニーテールの子がそう聞き返した。

朝日歌子さん。それが彼女のフルネームだ。それにしてもポニテちゃんがそう聞き返すなんて、この子は歌子ちゃんと親しいのかもしれない。



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