私とおなじ
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秋に行われる運動会。それは小学生にとって一番大きなイベントと言っていい。
うちの小学校は各学年で三種類の競技に出ることになっている。そして出席番号の奇数偶数で分けた紅白チームで競うことになっている。
奇数というのは2で割った時に1余る数字のこと。これは赤組。
偶数というのは2で割った時に余らない数字のこと。これは白組。
六年生は徒競走と五年六年混合のリレーと組体操にでなくちゃいけない。それが私にはちょっと気が重かったりする。
私は歩幅あるわりに走るのが遅いし、他のクラスや五年の子と仲良くなるのは少し苦手だ。人見知りするという事はないけれど、『また身長の事についてからかわれるんじゃないか』ってつい身構えてしまう。
なにより一番困るのは組体操。組体操といっても基本は二人組で相手の体重を支えたりするから、私のような大きな体じゃ支えられる相手がいないかもしれない。
九月のすかっと晴れた空の下、グラウンドで体育座りしていると、ため息が出そうだった。
「今渡したプリントが走者順とリレー・組体操のチーム分けです。しばらくゼロ組での体育はなく、全体的な練習が行われるのでその表に従ってくださいね」
黒に水色のラインが入ったジャージを着ても品のある美人な志水先生が、私達に個別のプリントを渡した。
運動会前だから運動会の練習をしなくてはならない。組体操は学年全体で一斉に教えるし、リレーはチームごとに集まって練習をする。だからゼロ組としての体育の授業はこれが最後となるだろう。
ただ、私は表を見てびっくりした。
「あの、先生。私の組体操のチーム分けが書いてないのですが」
私が手をあげて先生に質問をすれば、先生は申し訳なさそうに表情を曇らせる。
「ごめんなさい。小夜子さんは相手が決まらなかったので、組体操時の放送、ナレーションを担当してもらう事になったんです」
「えっ」
嫌な予感はしていたけど、そんなのってアリ?
確かに私の体格を支えられるような女子は少ないだろうけど、まさか参加自体できないなんて。それに本来運動会での放送は放送委員がするものだ。それをやめてまで私に放送させるなんて。
「先生たちでいろいろと議論したんです。男子と組ませてはどうかとか。でもそれはいやらしいからだめになってしまって」
「いやらしい、ですか?」
私は隣で体育座りをしているたすく君の存在を思い出した。たすく君なら私より背が低いけど五センチ差。男子だし体重を支えられる。
でも大人にはそれがいやらしいとされてしまう。……まぁ、私も優しくて仲のいいたすく君だから許せる話で、他の体の大きい男子と組体操するのは普通に嫌だからいいけど。
「先生と組ませようという意見もありましたけど、男性教師ではさっきの理由でいけないし、女性教師では身長が足りないんですよね」
そういう志水先生は身長156センチ。川崎先生はそれより低いし、この学校に身長の高い女の先生はあまりいない。いたとしても他の学年だから練習に付き合ってもらえるかは厳しい。
「なにより組体操は危険なものなので、少しでも危険を回避しようという話になって、小夜子さんはナレーションとなりました。こう言ってしまうのは卑怯かもしれませんが、ナレーションも大事な役目ですので」
本当に申し訳なさそうな先生を見ていると私まで申し訳なく思えてくる。きっと先生は私の為に十分戦ってくれた。
先生には責任がある。もし私を無理に組体操に参加させて、誰かを怪我させてはいけない。
そうならないよう決断し、せめてもの役目を与えてくれたのだ。反論はない。
「大丈夫です。ナレーションやります。むしろ声だけ目立ててラッキー、というか」
「そう言ってくれると助かります……もちろんその練習に先生もつきあいますので」
仲間外れみたいなのは少しショックだけど、不参加でいいというのはいっそ安心だ。ナレーションも、モデルとはかなり違うけれど声だけ人の前に出る仕事だ。いい経験になるのかもしれない。
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